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005・登録

 窓から太陽の光が差し込んで、僕は目を覚ました。


「ん……」


 青い目を開ける。


 見えてくるのは、知らない天井。


 ここは、宿屋の部屋だった。


 昨日、僕は無事に宿屋を見つけて、そこに泊まることができたんだ。


 あるのは、ベッドが1つに机と椅子が1組、あと鍵付きの木箱が1つだけ。


 実に、質素な部屋だ。


 ちなみに1泊、20ポント。


 2食付きで、30ポント。


 とりあえず僕は、3日分90ポント、約9000円を支払った。


 財布の中には、元々1000ポントほどあったみたいで、現在の残金は810ポントだ。


 うん、節約しないとね。


 ベッドから降りて、


「おはよう、杖君」


 ピカン


 僕の挨拶に、杖君も光る。


 それに笑って、白い杖を握ると、僕は部屋を出た。


 …………。


 食堂で朝食を頂いた。


 出てきたのは、焼きたての白いパンと肉と野菜のシチュー、新鮮なミルク、それとフルーツヨーグルトだ。


 味も美味しい。


 これで500円。


 う~ん、この世界で料理チートとかは無理そうだ。


 モグモグ


 量も多いので、お腹いっぱいだ。


 そんな感じで食事を終えて、


「さて、それじゃあ、『冒険者ギルド』に行ってみよっか」


 ピカン


 杖君も賛同するように光った。


 そうして支度を整えた僕は、杖君と一緒に宿屋を出発した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 通りを歩き、冒険者ギルドを目指す。


 15分ほどして、


「あ、ここだ」


 僕は、目的の建物を見つけた。 


 3階建ての大きな建物だ。


 かなり頑丈そうな造り。


 戦士や魔法使いみたいな格好の人たちが何人も、建物の出入り口を行き来していた。


(わぁ……本物の冒険者だ)


 見たら、建物の裏には訓練場みたいな敷地もあった。


 結構、立派だね。


(――うん)


 僕は意を決して、その建物の入り口に向かった。


 …………。


 …………。


 …………。


 屋内に足を踏み入れた僕は、


「わぁ……」


 その青い目を輝かせた。


 建物の中には、たくさんの冒険者がいた。


 1階フロアは、事務関係の場所みたいだ。


 受付カウンターが3つあって、制服を着た女の人たちが座っていた。


 冒険者は、そこに並んでいる。


 フロアの奥には掲示板があって、そこにクエスト依頼書が貼りつけられているみたいだ。


(うん)


 まさに冒険者ギルドっぽい風景だ。


 2階は、ロフトのようになっていて、そこはレストランみたいだ。


 複数の冒険者が食事をしながら雑談したり、クエストの相談をしてるっぽい感じだった。


 仲間……か。


(いつか僕にもできるのかな?)


 少し想像する。


 まぁ、今は冒険者の登録をしてしまおう、うん。


 するとその時、


「どうかしたの?」


(え?)


 ちょうど通りかかったギルド職員のお姉さんに声をかけられた。


 綺麗な女の人だ。


 20歳ぐらいで、緑色の髪に紫がかった瞳のお姉さんだ。


 その耳が少し尖っている。


 エルフ?


(……いや)


 長さが短いので、ハーフなのかも。


 お姉さんは、


「ギルドに何か用事?」


 と、首をかしげた。


 僕は「あ、うん」と頷いた。


「実は冒険者になりたくて、その登録をしに来たんだけど……」


「あら、そうなの」


 彼女は、目を丸くする。


 それから営業スマイルで、


「わかったわ。それじゃあ手続きをするから、こっちに来て」


「うん」


 と、空いている受付の1つに案内された。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「私の名前は、マーレンよ。よろしくね」


 ハーフエルフのお姉さんは、そう名乗った。


 僕は頷いて、


「よろしくお願いします、マーレンさん」


 と頭を下げた。


 マーレンさんは「ふふっ、よろしく」と微笑む。


 彼女の前には、大きな水晶玉と鍵盤みたいな物が置いてあった。


 何だろう?


 そう思っていると、


「冒険者の登録だったわね。じゃあ、まず貴方のお名前は?」


 と聞かれた。


 僕は答えようとして、


(……あれ?)


 そこで、初めて気づいた。


 僕、名前がない。


 考えたら前世の自分の記憶もないので、名前も覚えていなかった。


 マーレンさんは「?」という顔。


 え、えっと……。


 僕は必死に考えて、


「ぼ、僕は……ニホです」


 と答えた。


 名前の由来?


 前世が日本人だから……うん、それだけです。


 彼女は頷いた。


「ニホ君ね」


「う、うん」


「それじゃあ、年齢は?」


「……12歳」


 ぐらいかな?


 僕の返事を聞きながら、マーレンさんは鍵盤をカシャカシャと叩いていた。


(おや……?)


 水晶玉の中に、光る文字が生まれていた。


 鍵盤を叩くたび、それが増えたり変化する。


 もしかして、


(キーボードとモニター画面?)


 ちょっと驚いた。


 異世界って、思ったよりハイテクなんだね。


 カシャカシャ


 受付嬢のハーフエルフさんは、ブラインドタッチしながら僕と会話する。


「それじゃあ、ニホ君の出身は?」


「出身は……森の中」


「森の中?」


「うん。その、おじいちゃんと暮らしてて」


 と答えた。


 とりあえず、こんな作り話。


 僕は、どこかの森の中で、おじいちゃんと2人暮らしだった。


 ちなみに、おじいちゃんのモデルは、あの神様っぽいおじいさんをイメージしていた。


 両親は亡くなっている。


 そして、おじいちゃんは魔法使い。


 僕は、おじいちゃんから幼い頃から魔法を教わっていた。


 ピカン


 ここで、杖君を光らせる。


 うん、ちょっとした魔法アピールです。


 マーレンさんは驚いた顔だ。


 そして先日、おじいちゃんが老衰で亡くなったので、その遺言に従って森を出ることにした。


 なので、ちょっと世間の常識に疎いかも……?


 そう保険もかけておきました。


 マーレンさんは「そうなの……」と少し痛ましげに僕を見つめた。


 それから、


「わかったわ、教えてくれてありがとう」


「…………」


「大丈夫。規則さえ守れば、冒険者は誰でもなれるから。だから、ニホ君も大丈夫よ」


「うん」


「じゃあ、最後にこれに触れてくれる?」


「これ?」


 促されて、僕は水晶玉に触った。


 パアッ


(わっ?)


 水晶玉が強く光った。


 一瞬、手のひらが熱くなり、全身を何かが通り抜けた気がした。


 ちょっと、びっくり。


「はい、これで登録は完了よ」


「あ、うん」


 目を丸くしている僕に、彼女は微笑んだ。


 そして、1枚のカードを渡してくる。


 金属のカードだ。


「これは?」


「冒険者カードよ。ニホ君が冒険者である証」


「へぇ……」


「魔力紋も登録してあるから、個人の証明もできるの。なくさないように気をつけてね」


「うん、わかった」


 カードを受け取り、僕は頷いた。


 手の中のそれを眺める。


 キラッ


 銀色の光沢の綺麗なカードだ。


 文字が掘られていて、そこには僕の名前と年齢が書かれていた。


(…………)


 何だろう……?


 なんか、嬉しいな。


 そんな僕の様子に、マーレンさんも優しい表情だ。


 それから彼女は、1冊の冊子も渡してくれた。


 表紙には、


『冒険者ガイドブック』


 とあった。


 マーレンさんは、


「そこには冒険者の規則とか、クエストに関する注意点やアドバイスも書かれているの。あとで読んでみてね」


「あ、うん」


 僕は頷いた。


 パラパラ


 少しページをめくる。


(……なるほど?)


 冒険者には、F~Sまでのランクがあるみたいだ。


 当然、僕はFランクから。


 ランクアップは貢献度によって。


 1ヶ月に1回はクエストを成功させないと、登録が解除される。


 ただし登録して1年は、2ヶ月に1回。


 犯罪行為などをしたら除名され、2度と冒険者登録もできなくなる。


 あとは巻末に、レイクランドの町と周辺の簡易地図があった。


 そこには町のお店などの他、周辺の魔物の分布図、薬草の採取ポイントなども掲載されていた。


 うん、これはありがたいね。


 他にも色々と書かれていたけれど、あとは時間がある時にゆっくり読もうっと。


 パタン


 僕は、ガイドブックを閉じた。


「ありがとう、マーレンさん」


「ふふっ、どういたしまして。何かわからないことがあったら、いつでも聞いてね」


「うん」


「それじゃあ、がんばってね、ニホ君」


「うん、がんばります」


 僕は笑った。


 ピカッ


 杖君も同調するように、虹色の光を放った。


 …………。


 そうして僕は、ついに異世界の象徴『冒険者』になったんだ。

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