049・帰還
翌日、トルパの町を走り鳥に乗って出発した。
トットットッ
2羽の白い鳥は、軽やかな足取りで街道を走っていく。
走り鳥の身体には、僕ら4人が乗っている他に、火炎蜥蜴の外皮や牙と爪の入った保存箱が括りつけられていた。
でも、普通に走っている。
(う~ん、タフだね)
走ることに特化した鳥。
足腰は、かなり強靭みたいだ。
感心と安心を感じながら、僕はその背に揺られていく。
ちなみに、帰りも、僕はアシーリャさんとの2人乗りだ。
もう1羽の方には、カーマインさんとフランフランさん、赤毛の獣人兄妹が乗っている。
そう言えば出発前に、
「か、帰りは交換しませんか?」
「い、や」
フランフランさんとアシーリャさんの2人が何かを話していたけど、何だったんだろう?
カーマインさんは1人楽しそうに、
「いやぁ、さすがだな、ニホ」
バシバシ
と、僕の肩を叩いていたっけ。
うん……何が、さすが?
それより肩が痛いよ。
なんてことがあったのを、思い出してしまった。
走り鳥に揺られながら、
チラッ
僕は、後ろの金髪のお姉さんを覗き見る。
「…………」
ぼんやりした表情だけど、口元は笑っている。
なんか機嫌良さそうだ。
(ま、いいか)
深く考えずに、僕は前を向いた。
そして、また流れていく景色を眺めて、走り鳥の軽快な走りを楽しんでいく。
そんな僕の手元で、
ピカ……ン
杖君は、苦笑するように光っていたけれど。
◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕方、レイクランドの町に戻ってきた。
門番のおじさんが、僕らに気づく。
「お? おかえり、ニホ」
「うん、ただいま」
「おお、こりゃまたずいぶんたくさんの素材だなぁ」
「でしょ?」
「がんばったんだな。ほれ、通りな」
「うん、ありがと」
そんな挨拶を交わして、僕らは町中へと入っていく。
入ってすぐに馬車ギルドがある。
ここで、走り鳥とはお別れだ。
……少し寂しい。
「ここまで、ありがとね」
モフモフ
僕はお礼を言いながら、その柔らかな羽毛を撫でてあげた。
走り鳥は、反応しない。
代わりに、馬車ギルドの担当のおじさんやアシーリャさんたち3人が優しい表情をしていた。
そして、馬車ギルドをあとにする。
10分ほど歩いて、冒険者ギルドに到着した。
ザワザワ
建物に入ると、中が少しざわめいた。
(ん……?)
みんな、僕らを見ている。
いや、正確には、僕らの背負っている『火炎蜥蜴の素材』を見て……かな?
亜種とはいえ、竜殺し。
それを達成したと、みんな、わかったのだ。
……うん。
少し鼻が高い。
赤毛の獣人兄妹もどこか誇らしげだ。
まぁ、金髪のお姉さんだけはいつも通り、ぼんやりした表情だったけどね。
本物の竜ではないけれど。
でも、火炎蜥蜴を討伐できる人は、Eランクではほとんどいなくて、1つ上のDランクでもできない人がいるそうなんだ。
つまり、僕らはEランクのトップクラス。
その実力を示したのだ。
あと、もう1つ。
これはあとで聞いたんだけど、
「お前ら、Eランクに昇格したばかりだろ?」
「あ、うん」
「その新人Eランクが、いきなり火炎蜥蜴を討伐したから、みんな驚いたんだよ」
なんだって。
なるほどね?
もっと言うと、僕らは冒険者になっても日が浅いからね。
まだ1ヶ月ぐらい。
だから、余計に注目されたんだ。
ま、この時は、その事実にまだ気づいてなかったんだけどさ。
…………。
ともあれ、僕らは冒険者たちの視線を感じながら、受付カウンターへと移動した。
受付嬢は、マーレンさん。
彼女は微笑んで、
「おかえりなさい、ニホ君」
「うん」
「みんなもお疲れ様」
「おう」
「は、はい」
「…………」
「無事に火炎蜥蜴を討伐したのね。みんな、本当に凄いわ」
そう褒めてくれた。
(えへへ……)
嬉しいな。
それから彼女は、すぐに素材を鑑定してくれた。
特に問題なし。
減額となる傷みはなくて、全額、報酬が支払われることになった。
やったね。
アシーリャさん以外の3人で笑い合った。
ジャラン
報酬3000ポント。
日本円で30万円だ。
走り鳥の費用やその他の経費などのため、10万円を引き、残りの20万円を4人で分けた。
1人5万円。
3日間の報酬としては、まぁまぁ、かな?
でも、ここに『竜殺し』の名誉が加わる。
それを考えると、うん、報酬以上に得られるものがあったと思うんだ。
すると、
「ニホ、これ、持ってろ」
と、カーマインさんが僕に何かを差し出した。
(ん?)
受け取ると、小さな牙だ。
これは?
彼を見ると、
「火炎蜥蜴の牙だ。小さくて、素材として使えない奴だけどな」
「そうなの?」
「あぁ」
「ふぅん」
「4つ、取っておいたんだ」
「うん」
「せっかくだし、これ、記念に4人で持っとこうぜ?」
彼は、そう笑った。
チャラッ
彼の手には、別の牙が3つあった。
それぞれ、自分、フランフランさん、アシーリャさんの手に移動させる。
僕も、自分の牙を見る。
そして、笑った。
「うん、いいね」
竜殺しの証だ。
ペンダントにして、首から提げておこうかな?
獣人兄妹も笑う。
アシーリャさんは物珍しそうに、自分の手のひらにある白い牙を眺めていた。
「ふふっ、いいわね」
ハーフエルフの受付嬢さんも微笑んでいた。
僕は「うん」と頷いた。
そんな僕を見つめ、
「あ、そうだわ、ニホ君」
「ん?」
「あのね、3日前の出発の時、話したことを覚えてる?」
3日前?
キョトンとして、すぐに思い出した。
そう言えば、
「僕に頼みたいことがある……だっけ?」
「えぇ、そう」
彼女は頷いた。
もちろん、僕はそれに了承していた。
僕も頷いて、
「うん、覚えてる」
「よかったわ」
「えっと……それで、どんな頼み?」
と、聞いた。
マーレンさんは僕を見つめた。
真剣な眼差し。
そして、
「あのね、ニホ君の薬草採取の腕を見込んで、希少な薬草花を見つけて欲しいのよ」
と、言った。
希少な薬草花……?




