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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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048・解体

(大きいなぁ)


 火炎蜥蜴の死体を見つめて、僕は改めて思った。


 体長5メートル。


 前世の象と同じ大きさのトカゲであり、もはや映画で見たような恐竜そのものである。


(……うん)


 僕ら、よく勝てたよね?


 僕と同じように、3人も倒したばかりの竜の亜種を見ていた。


 やっぱり感慨深いみたい。 


 竜殺し。


 亜種だけど、その栄誉の1人になれたんだから。


 やがて、カーマインさんが息を吐く。


 僕を見て、


「しかし、ニホ、お前は無茶するな」


 と苦笑した。


(え?)


 僕はキョトンと彼を見る。


「あの火炎ブレスを喰らった時、俺は、お前が死んでしまうと思ったんだぞ」


「あ……」


「防げるなら先に言ってくれ」


「う、うん」


「全く、心臓に悪い」


 コツッ


 彼は僕の頭を、軽く殴った。


 見れば、フランフランさんも少し怒ったように「本当ですよ」と頬を膨らませていた。


 アシーリャさんも、


「ニ、ホさん……あれは、い、やです」


 と訴えた。


(そ、そっか)


 心配かけてしまったんだね。


 本当に申し訳ない。


 そして、実は確実に『火炎ブレスを防げる』自信がなかったのは、内緒にすることにした。


 7割ぐらいはできると思ったけど。


 まぁ、3割は……ね?


 でも、あのままだと、持久戦で負けてたかもしれない。


 そして、僕は冒険者だ。


 だから必要なら、自分の生死を賭けた冒険もするんだよ。


 …………。


 まぁ、心配してくれた3人には、とても言えないけどさ。


 ピカピカ


 でも、杖君はわかってたみたい。


 全くもう……と呆れたように光っていた。


(あはは、ごめんね)


 内心で苦笑し、謝る。


 これからは無茶しないよう、なるべく気をつけるよ。


 そう白い杖を撫でたんだ。


 そんな僕を見つめて、


「しかし、竜の火炎ブレスも防ぐ魔法、か」


「ん……?」


「それだけの防御魔法が使えるのに、ニホは攻撃魔法の方は駄目なのか?」


「あ……うん」


 彼の言葉に、僕は頷いた。


 僕には、3つの攻撃魔法がある。


 でも、それは全て非殺傷のダメージを与えるだけのものだった。


 良くも悪くも、相手を殺せない。


 原因は、僕自身が『生き物を殺すのはいけないこと』と感じてしまうからだと思う。


 前世の日本は、平和な国だった。


 記憶はなくても、その感覚が残っているみたい。


 だけど、ここは異世界。


 冒険者として生きるには、魔物を殺す必要もあると理解もしていた。


 でも、ね?


 割り切ってても、駄目なんだ。


 割り切るってことは、言い換えれば我慢をしているってこと。


 心の中では、やはり抵抗があるんだ。


 そして、杖君は僕の望んだ魔法しか使えないから、どうしても非殺傷の魔法になってしまう。


 僕は謝る。


「ごめんね、攻撃は下手で」


 そこは、本当に役立たず。


 結果、3人にばかり手を汚させているみたいで申し訳なかった。


 カーマインさんは驚いた顔をする。


 苦笑して、


「いや、謝ることじゃないだろ」


「…………」


「人間、得手不得手はあるものさ。俺もただ聞いただけだ。気にするな」


 パンパン


 笑って、励ますように背中を叩かれた。


(……いい人だな)


 本当に。


 僕も少しだけ微笑んだ。


 …………。


 でも、思うんだ。


 もし僕が『殺す魔法』を使うなら、相手を『殺さなきゃ』とか『殺そう』なんて覚悟じゃ駄目なんだと思う。


 心の底から、


『――殺してやりたい』


 そう願わないと。


 生命への敬意を忘れ、殺意で心を満たした状態で……その時に初めて、僕は魔法で相手の命を奪えるのだろう。


(…………)


 そんな自分が少し怖い。


 僕は、青い瞳を閉じる。


 それから自分の心に淀んだ何かを抜くように、ゆっくりと息を吐いたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 今回のクエストは、素材目的だ。


 けど、火炎蜥蜴の巨体を丸ごと持って帰るのは、さすがに不可能だった。


 どうするのか?


「この場で解体だな」


 と、カーマインさんは言った。


 必要な素材だけ確保して、それ以外は全て、ここに放置していく。


 指定された素材は、赤い鱗の外皮、牙10本以上、爪10本以上で、それ以外の骨や肉、内臓などは指定されていなかった。


 ちなみに、


「本物の竜なら、必ず指定されるんだけどな」


 とのこと。


 火炎蜥蜴は、竜の亜種。


 本物の竜とは違うので、骨や肉、内臓などは市場価値がほぼないらしい。


(そうなんだ……?)


 苦労して倒したので、少し悲しい。


 ただ今回は毒を使ったので、肉も内臓も駄目になっているらしい。


 むしろ依頼内容で不要だったから、毒を使ったんだって。


 ちなみに本物の竜だと無駄な部位は1つもなく、全てが高額で取引される。


 肉は珍味として。


 骨は武具素材として。  


 内臓は薬などの材料として。


 全てが活用される貴重な素材となるのだ。


 どうしてそこまで差があるのかと言えば、本物の竜は、何とBランクからの魔物なのだそうだ。


 火炎蜥蜴は、Eランク。


 3ランクも違う。


 報酬も最低でも3万ポント。


 つまり、300万円からなのだ。 


 うん、火炎蜥蜴とは金額からして10倍も違っている。


 当然、強さも違う。


 だからこそ、素材に対する扱いも違うのだ。


(そっかぁ)


 説明を聞けば、さすがに納得だよ。


 そんな会話をしながら、僕らは4人がかりで火炎蜥蜴の解体を始めたんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 真っ赤な鱗は、とても硬い。


 鱗の隙間を通して、丁寧に外皮を剥がしていく。


 ガリガリ シャリン 


 でも、小さなナイフではとても歯が立たない。


 僕は、カーマインさんの2本の小剣の1本を借りて、その解体を行っていた。


 剥がした鱗の1つを手に取って、


(うわ、軽い……?)


 と、驚いた。


 鉄より硬いのに、重さはプラスチックみたいだ。


 なんて不思議な素材。


 フランフランさんが笑いながら「魔力が浸透してるからですよ」と教えてくれた。


 魔物は、血と肉に魔力を宿している。


 その魔力濃度が高いほど、肉体が頑丈になったり、特殊な能力を秘めたりするそうだ。


(ふ~ん?)


 ちなみに、竜種は、特に魔力が濃い。


 また長命なので、その月日でより魔力が浸透して特別になるのだそうだ。


 本物の竜は、何百年も生きる。


 それだけの魔力を蓄えた鱗は、恐ろしい強度になるという。


 これも、素材が高額な理由だって。


 なるほどね。


 そんなことを教わりながら、作業を続ける。


 アシーリャさんはアルテナの長剣で大ざっぱに死骸を斬る。


 カーマインさんと僕は小剣で、そこから更に丁寧に必要な素材を引き剥がしていく。


 フランフランさんは、取れた素材を丸めてロープで縛ったり、保存箱にしまったりした。 


 やがて、1時間後。


「――よし、終わった」


 作業は無事に完了した。


 赤い鱗の外皮は3枚に分割して丸められ、牙と爪は状態の良い物から集められて保存箱の中だ。


(ふぅ……)


 僕は、額の汗を腕で拭った。


 素材は、4人で分担して背負う。


 僕は子供だったけれど、『光の翼の魔法』のおかげで3人と同じ重さを楽々と背負えた。


 カーマインさんは、


「それ、便利だな」


 と、苦笑していた。


 僕も「うん」と笑った。


 とは言え、ゆっくりしているのもここまでで、解体が終わった僕らはすぐにその場を離れることにした。


 周囲には、不必要な部位の血肉が散乱していた。


 血の臭いも凄い。


 他の火炎蜥蜴や魔物が、これを食べに集まってくる可能性があったんだ。


 長居は無用である。


「よし、急ぐぞ」


 カーマインさんが促した。


 僕は「うん」と頷く。


 それから、


(あ、そうだ)


 と思いついた。


 白い杖を構えて、


「杖君、道案内の魔法を」


 ピカン


 杖の先端から『光の蝶』を呼び出した。


 その蝶に、


「この先、他の火炎蜥蜴とか魔物に出会わないで下山できるように道案内して?」


 と、僕は命令した。


 赤毛の兄妹は目を丸くする。


 蝶は、頭上で1周して、


 ヒラヒラ


 岩場の奥へと、ゆっくり飛び始めた。


(うん)


 僕は頷いた。


 きっと、これで安全に帰れるはずだ。


 3人を見る。


「お前の魔法は、本当に凄いよ」


「うん、本当に……」


 獣人の兄は苦笑し、妹は呆れたように頷いていた。


 アシーリャさんは、


 ポム


 僕の頭に白い手を乗せて、髪を撫でてくれた。


 少しくすぐったい。


 そして、僕らは歩きだす。


 …………。


 やがて、下山を開始して2時間後、僕らは無事にトルパの町に辿り着いたんだ。

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