042・竜討伐
翌日、僕とアシーリャさんと杖君は冒険者ギルドを訪れた。
入り口前に、獣人兄妹がいる。
「お、来たな」
「お、おはようございます」
兄は片手をあげ、妹はペコリを頭を下げる。
僕も「おはよう」と返して、杖君もピカピカと明るく輝いた。
アシーリャさんは、
「…………」
と、いつも通りの無言である。
さて、4人集まったし、今日もクエストを受注しようかな。
そう思っていると、フランフランさんが「?」という顔をした。
「あの……ニホ君、何かありました?」
「え?」
「その、いつもと少し様子が違って見えて……」
「…………」
そう……かな?
自覚はないけど、昨日の話での名残りが顔に出てしまっていたのかも……?
ゴシゴシ
思わず、自分の頬を撫でてしまう。
兄の方は「そうか?」と首を捻っていた。
フランフランさんには、その金色の瞳でジッと見つめられてしまう。
(…………)
う、う~ん?
2人には、話してもいいかな。
仲間だし、ね。
そう思った僕は「実は――」と、昨日、警備局の人に伝えられた内容を2人にも話してみた。
…………。
…………。
…………。
「おいおい、そいつはきな臭いな」
「そ、そんなことが……」
2人は、さすがに予想以上だった話に目を丸くして驚いていた。
まぁ、そうだよね。
僕は頷いて、
「現状、それを聞いても何もできないんだけどね。ただ、色々と考えちゃってさ」
「そうか」
「ニホ君……」
「ごめんね、変な話しちゃって」
2人に、そう謝った。
獣人兄妹は、首を振る。
そして兄の方が、
「話してくれてありがとよ、ニホ」
「…………」
「だが、ラーディアって国は怖い国だ。信仰のためには人の命も軽視する」
「…………」
「色々と思いはあるだろうが、深く関わらん方がいいぜ」
「うん」
僕も頷いた。
わかってる。
アシーリャさんを檻に閉じ込めて、あんな風に扱った国だ。
今後、彼女と関わらせたくもない。
少なくとも現状は、アークランド王国側の対応で新しい国籍も手に入れたんだ。
ここは心機一転。
新しい人生を歩んで欲しいと思う。
僕は、彼女を見た。
アシーリャさんはいつものぼんやりした表情で、青い空に流れる雲を眺めていた。
(……うん)
彼女には、ずっとこんな穏やかでいて欲しい。
3人で、アシーリャさんを見つめた。
やがて、獣人兄妹の兄の手が僕の肩をポンと叩く。
僕は、彼を見る。
彼は笑って、
「さぁ、今日のクエスト、受けに行こうぜ」
「――うん」
僕は頷いた。
そうして僕ら4人と杖君は、冒険者ギルドの中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
クエスト掲示板の前にやって来た。
(さて……)
どのクエストをするかな?
僕らは全員、Eランク冒険者になった。
となれば、受けるクエストも今までのFランクはもう受けずに、全てEランクのクエストでいいのかもしれない。
心残りだった雷爪熊クエストも、クリアしたしね。
色々、依頼書を眺めていると、
「なぁ、ニホ?」
「ん?」
「全員Eランクになったし、ここは思い切ったクエストを受けてみないか?」
と、カーマインさんに言われた。
思い切ったクエスト?
僕はキョトンだ。
妹のフランフランさんも「兄さん?」と首をかしげた。
彼を見つめる。
カーマインさんは不敵に笑った。
そして、
「竜討伐のクエスト、やってみないか?」
と、言ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
(え……?)
竜って……あの竜?
ファンタジー世界で最強の種族って言われる……あの生き物のこと?
僕は、しばらく呆けた。
いや……。
いやいや。
さすがにまだ早いよね。
だって僕は、転生してまだ1ヶ月しか経っていない。
冒険者としても、初心者だ。
そんな自分が挑むのは、さすがに無謀だ。
と言うか、
(そもそも、Eランクのクエストで竜討伐があるの?)
そっちに驚きだよ。
でも、カーマインさんは楽しげに笑っていた。
そして、彼の妹は「……兄さん」と額に手を当てて、嘆かわしそうにため息をこぼした。
それから僕を見る。
「ごめんなさい、ニホ君」
「?」
「多分、兄さんが言ってる竜って『火炎蜥蜴』のことだと思います」
「……え?」
トカゲ?
竜じゃないの?
「分類上は、竜の亜種ですね」
「…………」
「火炎蜥蜴に、竜のような知性はありません。ですが体長は5メーダンもあって、炎も吐きます」
「…………」
「Eランクの竜、そう呼ばれてる魔物なんです」
と、彼女は教えてくれた。
(へぇ……?)
そんな魔物がいるんだ?
目を丸くする僕に、カーマインさんは楽しそうに笑っていた。
そして、言う。
「そういうこった」
「…………」
「で? どうする、ニホ?」
「…………」
「手強い相手だが、雷爪熊2体を倒せたんだ。俺たちなら充分やれると思うぜ」
彼は、自信ありげに言う。
火炎蜥蜴。
雷爪熊1体よりは強く、2体よりは弱い……そんな強さらしい。
(勝てるかな?)
少し迷う。
雷爪熊2体に勝てたけど、薄氷の勝利だった。
正直、微妙だろう。
だけど、
(竜……か)
亜種とはいえ、それでも竜の仲間。
ファンタジー世界では『竜殺しの冒険者』は英雄で、それはこの世界でも同じだろう。
Eランクの英雄。
そんな冒険者になれる。
何より、男の子として『竜』をこの目で見てみたい……そんな願望もあった。
どうしよう?
チラッ
右手の杖君を見た。
杖君は、
ピカン
今日も、僕の背中を押すように光ってくれた。
(……うん)
僕は頷いた。
カーマインさんを見て、
「うん、やろう」
と答えた。
彼は嬉しそうに「そうこなくっちゃな!」と笑った。
妹のフランフランさんは「ニ、ニホ君?」と驚いた顔をした。
しばらく僕を見つめて、でも少し複雑そうだったけれど、結局、反対はしないでくれた。
僕は、アシーリャさんを見る。
「いいかな、アシーリャさん?」
「……は、い」
彼女は、いつものように頷いた。
基本的に彼女は、僕のやりたいことをいつも受け入れてくれるのだ。
うん、本当に優しい。
ベリッ
獣人兄妹のお兄さんが「よっし」と依頼書を剥がす。
僕らを見て、
「目指せ、竜殺しの冒険者、だな」
と笑った。
僕は笑って頷き、妹さんはため息、アシーリャさんは無反応で、杖君はピカンと輝いた。
…………。
そうして僕らは依頼書を手に、受付カウンターに向かったんだ。




