040・ランクアップ
(Eランクか……)
僕はまじまじと、書き換えられた冒険者カードを見てしまった。
登録して約1ヶ月。
あっという間のランクアップだ。
マーレンさんは「あれだけ毎日クエストを達成してるんだもの」と笑っていた。
(そっか)
ちなみに通常、EからFランクになるには半年から1年かかるとか。
う~ん。
我がことながら、ずいぶんとがんばってたんだね。
獣人の兄妹も、
「やったじゃないか、ニホ」
「おめでとうございます、ニホ君」
と、祝福してくれた。
ちょっと照れる。
でも、自分のやって来たことが評価されたと思うと素直に嬉しかった。
まぁ、アシーリャさんは、特に興味なさそうだけど……。
でも、
(……うん)
ギュッ
僕は、Eの文字のある冒険者カードを握り締めた。
ピカピカ
そんな僕に、杖君は優しく光っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
報告のあと、僕ら4人はランクアップとクエスト達成のお祝いで、冒険者ギルド2階のレストランで食事会をした。
料理も豪勢。
(うん、美味しい!)
今回は、危うく死にかけたからかな?
いつもより料理の味も美味しく感じられた。
そして、もう1つ。
今回の食事会には大事な意味もあった。
カーマインさん、フランフランさんの2人と冒険を初めて、今日で10日目。
そう、お試し期間の終了だ。
ある程度して、赤毛の獣人のお兄さんが口を開いた。
「それで、どうだ?」
「ん?」
「今後も俺たちと一緒にクエストする価値はあると思えたか?」
と、僕を見た。
妹のフランフランさんも、こっちを見ている。
僕は答えた。
「うん、あったよ」
「! そうかっ」
「あ……」
2人の表情が輝いた。
カーマインさん、フランフランさん、2人の実力は確かだった。
冒険の知識も豊富。
人柄だってよかった。
何より2人の協力があったから、因縁の雷爪熊のクエストも達成できたと思っている。
僕としては、異論はない。
なので、聞く。
「2人も、僕らでいいの?」
「あん?」
「え?」
獣人の兄妹は驚いた顔だ。
だって、ね?
試したのはお互い様。
僕らが良くても、2人が嫌だと思う可能性はあるじゃないか。
だから、確認したんだ。
カーマインさんは苦笑した。
「当たり前だろ?」
「…………」
「むしろ、俺らとしては願ったりだ」
「そう……?」
「あぁ。自覚はないかもしれないが、ニホの魔法は本当に凄かった。あれを見て断る奴なんていないさ」
と、彼は笑った。
フランフランさんも「そうですよ」と強く頷いた。
(そっか)
少なくとも、2人に認められてた。
それは嬉しい。
彼は笑顔で、
「これからもよろしくな、ニホ」
と、右拳を軽く突き出した。
僕は目を瞬く。
すぐに笑って、
「うん」
コツン
自分の小さな拳を、そこに当てた。
◇◇◇◇◇◇◇
正式なパーティーを組んだお祝いもあって、食事会は賑やかに続いた。
カーマインさんは、ビールっぽいお酒も飲んでいた。
だからかな?
その食事の席では、獣人兄妹の昔の話も聞かせてもらえた。
2人は、レイクランドより南西にある獣人の村の出身だそうだ。
6人兄弟の次男と末妹。
実家の生活費が苦しいので、家を継がない2人は友人2人と冒険者になり、生計を立てながら実家に仕送りをしているそうだ。
(へぇ……偉いな)
冒険者になったのは、3年ほど前。
友人2人は先月、怪我で冒険者を引退した。
現在の兄妹は、アパートで2人一緒に暮らしているんだって。
「今度、寄ってくか?」
と、カーマインさん。
興味があったので、僕は「うん」と頷いた。
彼は「そうか」と嬉しそうだ。
アパートでは、妹のフランフランさんが家事や料理を担当しているそうだ。
(ふ~ん?)
僕は、彼女をまじまじ見る。
彼女は、少し恥ずかしそうだ。
カーマインさんは笑って、
「俺が言うのも何だが、妹はいい嫁になると思うぜ」
だって。
それから僕を見て、
「どうだ、ニホ? よかったら、お前がフランのこと、嫁にもらわないか?」
「に、兄さん!?」
兄の冗談に、妹は大慌てだ。
顔を真っ赤にしている。
(あはは……)
その様子に、僕は少し笑ってしまった。
すると、
ギュッ
(ん?)
突然、隣の席のアシーリャさんが僕を抱きしめた。
わっ……何?
彼女の柔らかな胸が僕の頬に当たっている。
見れば、彼女は少しだけ唇を突き出して、不満げな表情をしていた。
(???)
意味がわからない。
獣人兄妹は、それを見てキョトンとした。
それから、兄の方が大笑い。
「わははっ、そうかそうか」
「…………」
「さすが、ニホだな。こりゃあ、フランもがんばらないとな?」
「に、兄さん!」
ペシペシ
妹は真っ赤になって、兄を叩く。
う~ん?
フランフランさんって、こんな元気な面もあったのか。
でも、兄妹、仲良さそうで何より。
うんうん。
アシーリャさんに抱きつかれたまま、僕は1人で頷く。
…………。
そんな風にして、その日の賑やかな食事会は夜遅くまで続いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日だ。
僕は、宿屋で目を覚ました。
昨日はかなり大変なクエストだったので、カーマインさんの提案で本日は休日となった。
冒険者は、身体が資本。
うん、休息は大事。
今朝も、アシーリャさんの長い金髪をブラシで梳き、朝食を食べる。
あとは自由時間だ。
と思っていたけれど、
「え? 来客?」
と、宿の人が部屋まで伝えに来てくれた。
(誰だろう?)
1人で宿屋の1階ロビーに向かうと、サーベルを下げた制服の男の人がいた。
おや、警備局の人だ。
向こうもこちらに気づく。
僕は会釈する。
何かあったのかな……?
そう思いながら、彼の方へと歩いていった。




