004・町
町は、大きな石の壁に覆われていた。
正面には門がある。
僕は街道を歩いて、そちらに向かった。
ドキドキ
近づくと、門前には槍を手にした兵士が立っているのがわかった。
門番……かな?
向こうも、僕に気づく。
その口が開いて、
「こんにちは、坊や。このレイクランドの町に用かな?」
と、聞かれた。
(!)
僕は、驚いた。
だって、彼が話した言葉は『日本語』じゃなかったんだ。
きっと、異世界言語?
そして不思議なことに、僕はその意味を当たり前のように理解できてしまった。
同時に、それを喋れるという感覚も……。
多分、転生した僕の肉体は、その言語を習得している。
うん、凄くありがたい。
(ありがとう、おじいさん)
心の中で、深く感謝だ。
「坊や?」
門番のおじさんが怪訝な顔をした。
(あ……)
我に返った僕は、
「こ、こんにちは」
と、初めての異世界コミュニケーションを試みた。
ドキドキしながら、
「えっと、町に入りたいんだけど……」
「そうかい」
門番のおじさんは頷いて、
「じゃあ、何か身分証はあるかな?」
「え……?」
「ないのかい? その場合、入町税を100ポント、払ってもらわないといけないんだ」
「…………」
町に入るのに、お金がいるの?
ちょっと呆然だ。
僕は、すぐに肩かけ鞄から、お金の入った皮袋を取り出した。
ジャラジャラ
「これで足りる?」
「あぁ、これで充分だよ」
硬貨が2枚、取られた。
あれで、100ポント。
多分、1万円ぐらいかな……?
僕の中の感覚が、そう教えてくれた。
(……高いなぁ)
町を出入りしてたら、あっという間にお金がなくなってしまいそう。
すると、おじさんが、
「あのね、もし坊やがこれからも旅をするなら、『冒険者登録』をしておくといいかもしれないよ?」
「え……?」
「冒険者は、入町税が免除されるからね」
「そうなの?」
「あぁ。その気なら冒険者ギルドに行くといいよ。この町にもあるからね」
「うん!」
僕は、大きく頷いた。
それから僕は、親切な門番のおじさんにお礼を言って、ついに町の門を潜ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「ふわぁ……」
目の前の光景に、思わず声が漏れた。
門を潜った先は、大きな通りになっていて、そこにはたくさんの家々が並び、色々な人々が歩いていた。
ほとんどが人間。
だけど、中には獣の耳や尻尾が生えた人もいた。
きっと獣人だ。
あ……あの人は耳が長い。
(うん、エルフだね?)
他にも、トカゲみたいな人、ドワーフみたいな人が普通にいる。
また、町中には馬車も走っていた。
でも、引くのは馬だけじゃない。
中には、大きな亀や翼の短い大きな鳥なども車両を引っ張っていた。
まさに異世界の風景だ。
それが僕の目の前に、現実として広がっていた。
(――うん)
ちょっと感動だ。
しばらく放心していると、
ピカッ
(あ……)
杖君が光って、我に返った。
時刻は、もう夕方だ。
太陽は傾いて、空も赤くなり始めていた。
冒険者ギルドの前に、まずは宿屋を見つけた方がいいかもしれないね。
「杖君」
ピカン
杖君が光った。
そして、僕の頭の上にいた光の蝶が、再び舞った。
ヒラヒラ
宿屋までの道を案内してくれるらしい。
もちろん僕は、そのあとを追った。
…………。
通りには、街路樹や街灯があった。
景観は綺麗だ。
しかも、街灯の灯りは人工的な光――多分、魔法の光を灯す照明なのかな?
意外と文明的だった。
前世と違い、魔法科学の発展した世界なのかもしれない。
家々の向こうには、湖も見えた。
町の灯りが反射して、キラキラと輝いていた。
湖の反対側には、大きな山脈がそびえていて、何だか圧倒的な自然を感じさせた。
「…………」
確か、レイクランド……だっけ?
ここは、文明と自然が調和した町なのかもしれないね。
この雰囲気、凄く好きだ。
…………。
夕暮れの町を歩きながら、僕はついつい笑顔をこぼしてしまったんだ。