033・Eランク挑戦
いつもより更新が少し遅れてしまいました。
申し訳ありません。
冒険者ギルドに戻ってきた。
今回のクエスト報酬は、610ポント。
1人150ポント。
残り10ポントは、獣人兄妹の厚意で僕らがもらうことになった。
(うん、優しいね)
彼らに感謝だ。
何はともあれ、この4人で初めてのクエスト達成だ。
僕らは、それを祝って、そのままギルド2階のレストランで食事をすることにした。
◇◇◇◇◇◇◇
「乾杯!」
ガン
カーマインさんの掛け声で、僕らはそれぞれの飲み物の木製ジョッキをぶつけ合った。
ちなみに中身は、果実ジュース。
料理は、ステーキとパスタ。
あと、サラダとフライドポテトとアイスクリームだ。
モグモグ
(うん、美味しい!)
その味に、僕は満足だ。
ガブッ
カーマインさんは、ステーキ肉をその牙で豪快に噛み千切っていた。
う~ん、獣っぽい。
アシーリャさんは黙々と食べ、フランフランさんは性格通りにおしとやかに食べていた。
ある程度、食べてから、
「今回は、楽勝だったな」
と、カーマインさん。
僕は「うん」と頷いた。
誇張ではなく、本当に楽だった。
正直、仕事をしたとは思えないぐらい、いつも以上に簡単に終わってしまったんだ。
きっと獣人兄妹もそうだったんだろう。
そして彼は、
「明日は、Eランククエストを受けてみないか?」
と言った。
Eランク……。
今の僕とアシーリャさんより、1つ上のランクだ。
僕は聞く。
「できるかな?」
「大丈夫さ」
「…………」
「はっきり言うが、お前もアシーリャもFランクの実力じゃない。Eでも充分通用するぞ」
「……本当?」
「あぁ、本当だ」
彼は断言した。
妹さんの方も見る。
気づいた彼女は、コクンと頷いた。
(……そっか)
それが本当なら嬉しい。
ただ……、
「でも、僕ら、Fランクの雷爪熊の討伐クエストに失敗してるんだけど……」
と告白した。
彼は「……あ~」と唸った。
それから、
「雷爪熊はなぁ」
「…………」
「あれは、Fの中じゃ別格だからな。Eランクでも倒せない奴は大勢いるぞ」
「そうなの?」
「あぁ。俺らも1度だけ、倒したことはあるんだが……」
「だが?」
「2度と挑戦したくねぇ」
と、彼は苦笑した。
そうなんだ?
フランフランさんも、
「能力が単純なので、分類上はFランクですけど、あの強さはEランクにしていい気がします」
と頷いていた。
(ふぅん?)
この強い2人が言うんじゃ、やっぱり相当手強いんだね。
僕らが失敗したのも、少し納得だ。
カーマインさんは、
「ま、雷爪熊ほど難しくはないEランクのクエストだ。どうだ、やってみないか?」
と、もう1度、誘った。
う~ん?
僕は少し考える。
アシーリャさんは、モグモグと食事を続けていた。
話に興味なさそう。
多分、僕がやると決めたら、彼女は文句も言わずについて来てくれるだろう。
杖君は……?
ピカッ
白い杖は、明るく光った。
やってみたら? といった感じ。
(そっか)
背中を押された僕は、頷いた。
カーマインさんを見て、
「うん、じゃあ、やってみよう」
と答えた。
彼は嬉しそうに「おう、そうこなくっちゃな!」と、白い歯を見せて笑った。
フランフランさんも微笑み、頷いた。
僕は、隣の金髪のお姉さんを見て、
「アシーリャさんもいい?」
「は、い」
彼女は、やっぱり同意してくれた。
…………。
そうして僕らは、明日、Eランククエストに初挑戦することを決めたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、僕らはクエストを受注した。
受注したのは、Eランクの『剣角の鹿』の討伐クエストだった。
期日は、10日。
目標討伐数は、3体。
駆除目的なので倒し方は自由で、報酬は2000ポントだった。
日本円で、約20万円。
剣角の鹿の討伐は、Fランククエストでもあったけど、数は1体で報酬は700ポントだったっけ。
カーマインさん曰く、
『火狼より強くて、雷爪熊より弱い』
とのこと。
でも、昨日見た僕らの実力なら、充分、達成できるそうだ。
…………。
そんな訳で、僕らは冒険者ギルドを出発した。
町を出る。
今日は初めてのEランククエストなので『薬草集め』はせず、魔物の生息域である北の森へと向かうことにした。
湖沿いの街道を北上する。
約2時間の移動。
森と湖の景色を眺めながら、街道を歩いていく。
そんな中、雑談も交わした。
そして、
「アークランド王国がどんな国か……って?」
「うん」
驚くカーマインさんに、僕は頷いた。
実は僕、今だに自分がいる国のことを何も知らない。
なので、この機会に、アークランド王国人の彼らに聞いてみたいと思ったんだ。
一応、2人には、
「ほら? 僕、森暮らしだったから、外のこと、何も知らなくて」
とも言い訳した。
獣人の兄妹は顔を見合わせ、『なるほど』と頷いた。
それから、兄の方が言う。
「そうだな。一言で言えば、アークランド王国は『自由と冒険の国』だな」
と言った。
自由と冒険の国?
僕は、少しキョトンとなった。
赤毛の兄妹は教えてくれる。
まず、アークランド王国は、このラロック大陸で3番目に大きい国だとか。
森や湖なども多く、自然豊か。
反面、魔物も多い。
同時に、国の各地で、大昔に栄えた魔法王朝アポロン時代の遺跡がたくさん発見されるのだそうだ。
その2つの要因で、冒険者の数は大陸でも1番多い。
また、文化的にも自由を愛している。
だから、他国であるような亜人差別などもなく、どんな人種も暮らし易い風土なのだとか。
(なるほどね)
だから、自由と冒険の国、か。
誰でも冒険者になれる。
そして、運と実力次第で成り上がれる国ならば、ある意味、冒険者の理想かもしれない。
僕は頷いて、
「アークランド、いい国だね」
「そうだな」
「ふふっ、ですね」
僕の言葉に、獣人の兄妹も頷いた。
チラッ
僕は、アシーリャさんを見る。
彼女はいつも通り、ぼんやりした表情で街道を歩いていた。
(…………)
僕は、赤毛の兄妹を振り返った。
「それじゃあ、すぐ隣の神和国ラーディアって国は、どうなの?」
と聞いてみた。
2人は少し驚いた顔だ。
しばし考えて、
「そうだな……とにかく融通の利かない堅苦しい国ってイメージだな」
と答えた。
(ふぅん……?)
そうなんだ?
フランフランさんも頷いて、
「宗教国家なので規則を守ることを重視していて、個人より組織を優先する印象ですね。大のためには小の犠牲も当然とか……そういう考え方をするみたいです」
と、付け加えた。
なるほど。
僕は「そっか」と頷いた。
そんな僕を、妹さんは見つめた。
そして、首をかしげて、
「でも、どうしてラーディアのことを?」
と聞かれた。
僕は素直に答えた。
「アシーリャさん、記憶はないんだけど、実はラーディア人らしいんだ」
「え……?」
「そうなのか?」
2人は驚いた顔だ。
僕は「うん」と頷く。
それから、3人で金髪の美女の方を見た。
「…………」
彼女は、ぼんやりと空を見ていた。
…………。
厳格で規律正しい国の出身者には、なぜか見えなかった……。
僕らは苦笑する。
「ま、国の性格と個人の人格は別だからな」
と、カーマインさん。
全くだ。
僕とフランフランさんは頷いた。
「?」
気づいたアシーリャさんが、不思議そうに僕らを見た。
小首をかしげる。
長く艶やかな金色の髪が肩からこぼれて、陽光をキラキラと反射していた。
僕は「ううん」と首を振る。
彼女を見つめて、
「アシーリャさんは、アシーリャさんだって思っただけ」
「…………」
「うん、それだけだよ」
と笑った。
彼女は僕を見つめた。
やがて、
「は、い」
と、いつものように小さく頷いた。
ピカピカ
杖君も柔らかく光る。
…………。
そんな話をしている内に、僕ら4人と1本は、湖の北側の森へと到着した。




