031・実力披露
「なるほど。これなら毎日、クエスト受けるよな」
カーマインさんは、そう呟いた。
今日の薬草集めは、人数も増えたので、たった15分で終わってしまった。
うん、早い。
これで1万円。
4人なので、1人2500円。
獣人の兄妹にしたら、楽な小遣い稼ぎに思えたんじゃないかな?
妹のフランフランさんも、
コクコク
と、兄に同意するように頷いていた。
ただまぁ、
(収入、減っちゃったね)
当たり前だけど、僕とアシーリャさんの取り分も半分だ。
そこは少し悲しい。
でも、まだ初日。
今後、時間短縮できた分、更に他のクエストを受けたり、もっと高収入のクエストに挑戦することもできるだろう。
(うん)
そこは期待だね。
でも、とりあえず今日は、
「じゃあ、次はホーンラビットの討伐しよっか?」
と、僕は言った。
アシーリャさんは「は、い」と頷いた。
獣人の兄妹も、
「おう」
「は、はい」
と、同意してくれた。
そして、僕らは4人と杖君は、北の森へと移動した。
…………。
1時間ほどかけて、到着。
カーマインさんは「さて」と呟き、
「まずは、ホーンラビットを探さないとな。とりあえず手分けして痕跡を探すか?」
と、僕らを見た。
(……え?)
僕はキョトンとした。
首を振って、
「ううん、そんなことしないよ」
「そうなのか?」
「うん」
「じゃあ、どうする?」
「杖君の魔法で、ホーンラビットの所まで道案内してもらう」
「……は?」
彼はポカンとした。
妹のフランフランさんも不思議そうな顔で、こっちを見ていた。
僕は白い杖を構えて、
「杖君、道案内の魔法を」
ピカン
杖君の先端が輝き、そこから『光の蝶』がポンと生み出された。
獣人兄妹の目が丸くなった。
ヒラヒラ
光る蝶は柔らかく羽ばたきながら、森の奥へと向かう。
僕は頷いて、
「さ、行こう」
「あ……お、おう」
「は、はい」
2人は慌てて頷く。
そして、僕ら4人で、森の中を舞う蝶のあとを追いかけた。
…………。
5分ほどして、
「……マジかよ」
カーマインさんが呆れたような小声を漏らした。
僕らの目の前の茂みの向こう側、30メートルほど離れた先で、3体のホーンラビットが草を食んでいた。
フランフランさんも呆然だ。
僕を見て、
「す、凄い魔法ですね」
と、呟く。
僕は首をかしげて、
「他の人は、こういう魔法、使わないの?」
と聞いた。
彼女は「は、はい」と頷いた。
「少なくとも、私は見たことがありません」
「そっか」
やっぱり杖君の魔法って、特殊なのかな?
(……ま、いいか)
今は、ホーンラビットだ。
アシーリャさんは新調した『アルテナの長剣』を鞘から抜いて、低い姿勢になっていた。
すでに臨戦態勢だ。
それを確認して、
「じゃあ、始めるよ」
と、言った。
獣人の兄妹はハッとして、表情を引き締める。
僕は、
「まず、僕らのやり方を見せるね」
と言った。
そして、白い杖を構えて、
「杖君、防御魔法」
ピカン
僕ら4人を『光の球体』が包み込んだ。
獣人の2人はギョッとして、目の前の透明な光の壁を見つめた。
続けて僕は、
「杖君、爆発の魔法」
ピカッ
杖君は更に光り、先端に光の粒子が集まって『虹色の光球』が生まれた。
その輝きが全員を照らす。
そして僕は、杖を振り被り、
(えいっ)
その光球を、3体のホーンラビット目がけて放り投げた。
緩い放物線。
そして、3体の上空に届いた瞬間、
ドパァン
強い閃光を放って爆発した。
激しい衝撃波が周囲の樹々を揺らし、たくさんの葉が吹き飛んだ。
獣人の2人は、驚愕の表情だ。
赤毛の耳と尻尾は逆立ち、見開いた目の瞳孔が大きく開いてしまっていた。
そして、
(よし)
眼前の地面では、3体のホーンラビットが気絶していた。
アシーリャさんが前に出る。
ヒュパン
アルテナの長剣を振るって、3体の首を刎ね飛ばした。
(お……?)
ちょっと驚く。
たった1振りで、3つの首を斬った。
剣を新調したおかげで、1撃の威力が大きく上がっているみたいだ。
うん、買ってよかった。
100万円だもんね……。
目に見える効果があって、ちょっと安心したよ。
僕は笑って、
「アシーリャさん、お見事」
「は、い」
彼女は、ぼんやりしたまま頷いた。
でも、少し嬉しそう?
彼女は、ヒョイヒョイと保存箱に3つの死体をしまう。
ふと、後ろを見る。
そこでは、カーマインさんとフランフランさんの兄妹が呆然と立ち尽くしていた。
「……マジかよ」
「…………」
2人とも、口が開いたままだ。
えっと……。
僕は、自分の髪をかく。
それから、
「まぁ、とりあえず僕らは、いつもこんな感じでクエストをしてるんだ」
と、笑っておいたんだ。




