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019・報告書

 僕らは、宿の部屋に戻った。


(さて……)


 手紙には何が書かれているんだろう?


 僕は、ベッドに腰かけた。


 アシーリャさんは僕の隣に腰かけて、窓の外を眺めだした。


 ……うん。


 当の本人は、あまり手紙に興味がないみたい。


(まぁ、いいか)


 僕は深呼吸して、


 ピリッ


 ナイフで封蝋を剥がして、手紙の封を開けた。


 中身は、紙が1枚。


 1番上には『報告書』とあった。


 内容に目を通す。


「…………」


 そこには、思わぬことが書かれていた。


 まず、アシーリャさんが閉じ込められていた馬車は『アークランド王国製の馬車ではない』とあった。


 つまり、


(外国の馬車……?)


 ということだ。


 その時点で、僕は目を丸くする。


 調査の結果、馬車が破損したのは5~7日前。


 原因は、魔物の襲撃。


 最終的に樹木にぶつかり、横転した馬車は放棄されたものと推測された。


 他の乗員は不明。


 ただし、近くに遺体などの痕跡がないことから、逃走したと判断。


 馬車自体には国籍を示す物はなく、けれど構造や材質から、東の隣国の馬車だと思われるそうだ。


 その国の名前は、


『神和国ラーディア』


 という。


 僕らがいるのは、アークランド王国の東の端っこだ。


 その更に東側が、神和国ラーディアなのかな……?


 馬車は、そこから来た。


 ということは、


「…………」


「…………」


 僕は、隣で窓の外を眺める金髪の美女を見た。


 アシーリャさんは、外国の人……?


 つまり、ラーディア人?


 いや、まぁ、僕にとっては、アークランド人もラーディア人も同じ『異世界人』って感覚だけどね。


 でも、どんな国なんだろう?


(……あ)


 そうだ。


 思い出した僕は、冒険者ガイドブックを開いた。


 ペラペラ


 あ、あった。


 神和国ラーディアは、世界3大神を信仰する『大神天教会』の総本山がある国……と、簡素に書いてあった。


 つまり、宗教色の強い国、かな? 


(……あれ?)


 ふと思った。


 もしかして、それがアシーリャさんの教会嫌いに何か関係してるとか……?


 う、う~ん?


 現時点ではわからないかな。


 手紙には、今回の馬車は密入国の可能性が高いこと。


 また、このことを領主を通じて神和国ラーディア側に確認してみるともあった。


 それと当事者のアシーリャさんには、勝手に町を移動しないように、もし別の町などに行くのなら、どこに行くのかを警備局に伝えてから行くようにとも書かれていた。


「…………」


 しばらく手紙を見つめた。


 パタン


 それを閉じる。


 予想外の内容だったけど……でも現状は『アシーリャさんが外国の人だった』とわかっただけだ。


 うん、それだけ。


 僕は青い目を閉じて、


「ふぅ」


 と、息を吐く。


 それから、アシーリャさんを見た。


 視線に、彼女も気づく。


 こちらを見て、


「?」


 長い金色の髪を揺らしながら、首をかしげた。


 僕は「ううん」と首を振る。


 アシーリャさんは、しばらく不思議そうな表情だった。


 やがて、ふと思いついた顔をする。


(?)


 彼女は立ち上がって、机の方へ。


 そこにあったブラシを手に、戻ってくる。


 ポフッ


 ベッドに座る。


 そして僕は、ブラシを手渡された。


 クルッ


 彼女はこちらに背を向けて、美しい黄金の流れが僕の前に広がる。


 呆けていると、


 チラッ


 彼女は僕を見て、また前を向いた。


(あはは……)


 僕は苦笑。


 そして、ブラシを彼女の髪に当てた。


 丁寧に梳く。


 アシーリャさんは気持ち良さそうだ。


 ……うん。


 今は、この時間が何だか心地好い。


 窓からは、夕暮れの光が差し込む。


 シュッ シュッ


 髪を梳く音だけが響く。


 僕とアシーリャさんは、しばらく、ベッドの上でそんな時間を過ごしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 休日が終わり、次の朝が来た。


 今日からクエスト再開だ。


(さ、がんばるぞ)


 いつものようにアシーリャさんの抱き枕で目を覚ました僕は、今朝も彼女の金色の髪をブラシで梳いてあげた。


 そのあと、食堂で朝食。


 やがて宿屋を出ると、冒険者ギルドに向かった。


 町の通りを歩く。


 カシャッ


 隣を歩くアシーリャさんの左腕には、買ったばかりの『金属の手甲』があった。


 今日が初使用だ。


(役に立つといいな……)


 そう願う。


 あとは、背中に長剣が1本だけ。


 それ以外は、何もない。


 うん、これから、もっと装備を整えてあげたい。


 …………。


 そんなことを考えている内に、冒険者ギルドに到着した。


(よし)


 気合を入れて、クエスト掲示板の前へ。


 朝だからか、冒険者も多い。


 みんな、良さそうなクエストを探しているんだね。


 僕も探そう。


(えっと……)


 Fランクの掲示板を見る。


 うん、まずはこれ。


 ペリッ


 いつもの『薬草採取』の依頼書を確保した。


 それから、他のクエストも見る。


 あるのは、討伐系と配達系の2種類だけだった。


 安全なのは、配達系。


 でも、他の町や村まで行くので日数がかかる。


 さすがに移動時間は、杖君の力でも短縮できないから、少し効率が悪いかも……?


 となると、


(やっぱり討伐系かな) 


 と思った。


 キョロキョロ


 色々とチェックする。


 本日は、ホーンラビットが対象のクエストはないようだ。


 あるのは、


「火狼、雷爪熊、剣角の鹿……の3種類か」


 う~ん?


 火狼以外は、知らない魔物だ。


 報酬も……うん、火狼は500ポントだけど、他の2つは1500ポントと700ポントだ。


 それだけ危険なのかも……?


 少し悩んで、


(うん)


 ペリッ


 僕は『火狼の討伐』の依頼書を剥がした。


 やっぱり、安全が最優先だ。


 現実である以上、やり直しは利かない。


 それなら、とにかく安全なクエストを優先して、経験を重ねていく方が1番いいと思った。


 僕は、杖君を見る。


「これでいいよね?」


 ピカッ


 杖君は明るく光った。


(うん)


 よかった。


 アシーリャさんにも「これでいいかな?」と聞くと、「は、い」と返事が返ってきた。


 2人……というか、1本と1人から同意は得られた。


「うん、じゃあ、決まり」


 僕は笑った。


 そして、2枚の依頼書を手に、受付カウンターに向かったんだ。

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