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017・休日

 買い物当日となった。


 朝、目を覚ますと、


(おや……?)


 珍しく、僕より先にアシーリャさんが起きていた。


 しかも、すでに外出着。


 目を開けた僕に「あ……」と気づいて、


 テテテッ


 と近づいてくる。


 そして、差し出される髪用のブラシ。


「…………」


「…………」


 受け取ると、


 ポフッ


 彼女はこちらに背を向け、ベッドに座った。


 僕の目の前には、長い黄金の流れがシーツにまで広がっていた。


(あはは……)


 僕は苦笑する。


 それから彼女のご希望通り、その綺麗な金髪にブラシをかけてあげた。


 シュッ シュッ


 丁寧に、ブラシで梳く。


 アシーリャさんは、とても気持ち良さそうだ。


(う~ん?)


 ここ数日、彼女の髪の手入れをしてあげていたから、気に入ったのかなぁ?


 まぁ、いいけどね。


 アシーリャさんの髪は綺麗だし、触ってるのも楽しい。


 シュッ シュッ


 彼女も上機嫌だ。


 …………。


 ふと思った。


 珍しく先に起きたり、髪の手入れをねだったり。


 着替えだって済ませてる。


(もしかして……?)


 アシーリャさんも、今日のお出かけを楽しみにしてたのかも……?


「…………」


 後ろ髪からは、よくわからない。


 でも、そうだといいな。


 ピカピカ


 そんな僕らに、杖君は柔らかく光っていた。


 やがて、僕の外出準備も整う。


 そうして僕とアシーリャさんと杖君は、買い物のため、宿屋をあとにしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 今日の天気は、快晴だ。


 青空からは、温かな日差しが降り注ぐ。


 そんな賑やかな町の通りを、僕とアシーリャさんは手を繋いで歩いていた。


 ちなみに、もう一方の手には杖君です。


「…………」


「…………」


 特に会話もない。


 ただ歩くだけの時間。


 だけど、


(あ……まただ)


 と、僕は、周りを通りがかる人たちが時々、アシーリャさんを見ていることに気づいた。


 最初は「???」と思った。


 でも、すぐにわかった。


 みんな、アシーリャさんの美貌に見惚れてたんだ。


 チラッ


 僕も横顔を見る。 


 彼女は、本当に整った顔立ちをしていた。


 まるで人形みたい。


 目、鼻、口などの配置は完璧で、アメジスト色の瞳はまるで宝石だ。


 黄金の髪も美しい。


 太陽の光に、キラキラと輝く。 


 背も高く、足も長いのでモデルみたいだ。 


 でも、胸もお尻も大きい。


 そして、表情。


 何を考えているのかわからない、ぼんやりした美貌は、けれど、どこか神秘的にも見えるんだ。


 だからかな?


 彼女に気づいた人は、みんな、その魅力に惹かれていた。


 ただ、当の本人は、


「…………」


 周囲の視線には気づかず、自覚がない様子だった。


 僕は、苦笑。


 その時、アシーリャさんが僕の様子に気づいた。


「?」


 首をかしげる。


 長い金色の髪が、サラリと肩からこぼれた。


 僕は「ううん」と首を振る。


 それから、


「アシーリャさんって、美人だなって思っただけ」


「…………」


「それだけだよ」


「…………」


 彼女は、少しポカンとした。


 その口が小さく開いている。


 そして、うつむいた。


(おや?)


 もしかして、照れてるのかな……?


 僕は、微笑む。


 ギュッ


 繋いだ彼女の指に、少し力がこもった。


 うつむく彼女と一緒に、僕らはお互いの手を握って、通りを歩いていく。


 ピカピカ


 杖君が何だか楽しそうに光っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 武器防具のお店に到着した。


 鉄の匂いがする。


 鉄以外にも、木製、革製の物もあった。


 陳列された新品の剣や盾、鎧などを見ているとワクワクするのは、僕も男の子だからかな?


(ま、それはいいとして)


 僕らは、防具コーナーに向かった。


 予算は、500ポント。


 約5万円だ。


 あまり高い装備は買えないね。


 全身金属鎧などは、最低でも30万円からだった。


 ひぇぇ……。


 本当は、もっとお金を貯めてから買う方法もある。


 でも、その間、防具なしのリスクを伴う。


 そして、もしかしたらその間に、防具がないために致命傷を負ってしまう可能性もあるんだ。


 回復魔法はある。


 でも、間に合わない場合もあるかもしれない。


 もし、そうなったら……?


 それを思うと、防具は買える時に買って、常に防御力を高めておいた方がいいと思ったんだ。 


 ここは現実。


 ゲームのように『やり直し』はないのだから。


 …………。


 ということで、僕とアシーリャさんは、陳列された防具を眺めた。


(う~ん?)


 どれがいいんだろう?


 僕は、


「アシーリャさんは欲しい防具ある?」


 と聞いた。


 彼女は、ぼんやりした表情だ。


 長い金髪を揺らしながら、首を傾ける。


 そして、言う。


「動き……邪魔、しない……いいで、す」


「なるほど」


 僕は頷いた。


 長剣を扱うアシーリャさんは、俊敏な動きだった。


 とにかく速い。


 その速さを邪魔しない防具がいいんだね?


 つまり、重い金属鎧とか、大きな盾とかは要らないってことだ。


 となると、


 キョロキョロ


 僕は、陳列棚を見回した。


 その時、


 ピカン


 杖君が光った。


 その先端から細い光がピィンと伸びて、1つの装備に当たる。


(これは……)


 金属の手甲だ。


 ガントレットって言うんだっけ……?


 それも片手……左手用だ。


 手の甲から肘まで、金属の装甲が覆うタイプだった。


 あと、ベルト固定式。


 値段は……うん、ぴったり5万円だ。


「杖君、これ?」


 ピカン


 白い杖は光った。


 杖君のお薦めは、これらしい。


(……うん)


 確かにこれなら、素早い動きを邪魔しない。


 僕は、アシーリャさんを見る。


「どうかな?」


「…………」


 カチャッ


 彼女は無言で、それを試着した。


 軽く上下に動かす。


 続いて左右に。


 やがて、頷いた。


「いい、です」 


「そっか」


 僕も笑って、頷いた。


 チャリン


 500ポント支払い、購入する。


「はい、アシーリャさん」


「…………」


「このガントレットを預けます。これで自分を守ってね」


「は、い」


 布袋に包まれたそれを渡すと、彼女は宝物のように受け取った。


 ギュッ


 大事そうに胸に抱える。


(うんうん)


 いい買い物ができたかな?


 僕も満足。


 そうして僕らは、新しい装備を手にお店をあとにしたんだ。

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