015・狩猟
湖の東の森にやって来た。
ピィン
いつものように杖君にハイライトしてもらって、薬草を集める。
作業を初めて、約1時間。
「これで、最後っと」
サク
30本目の薬草を、僕はナイフで切って鞄に収めた。
これで目標数は、達成だ。
そして今日は、ここからが本番だった。
(よし、やるぞ)
街道に戻った僕らは、そのまま湖の北側の森を目指した。
冒険者ガイドブックによれば、ホーンラビットの生息地は、その北側の森に多いらしいんだ。
…………。
1時間ほど歩き、北側の森に到着。
森の中へと入った。
(ふぅん……)
景色としては、湖の東の森と変わりはなかった。
でも、魔物の生息数は増える。
そう考えると、見た目で危険度がわからないのは、ある種の罠だなぁ……なんて思った。
うん、ガイドブックは本当に便利だよ。
それはさて置き、
キョロキョロ
僕は、周囲を見回した。
樹々と茂みの多い景色だけれど、生憎、ホーンラビットの姿は見当たらなかった。
(う~ん)
簡単には見つからないか。
期日も5日。
それだけ、見つけるのも苦労するクエストなのだろう。
でもね?
こっちには、杖君がいるのだ。
ということで、
「杖君、お願いできる?」
ピカン
杖君は頼もしく光った。
そして、虹色に輝く先端から『光の蝶』がポンッと出た。
ヒラヒラ
輝く蝶は、森の奥へ。
それを追いかければ、きっとホーンラビットに出会えるだろう。
「よし、行こう」
「……ん」
ピカピカ
僕とアシーリャさんと杖君は、森の奥へと進んだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「あ、いた」
光る蝶を追いかけたら、5分で遭遇してしまった。
角ウサギ。
つまり、ホーンラビットだ。
突然の出会いに、向こうも驚いて、でも、すぐに怒ったように襲いかかってきた。
僕は白い杖を構えて、
「杖君、防御魔法!」
ピカッ
僕らを『光の球体』が包み込む。
パキィン
ホーンラビットが弾かれた。
茂みの上に、仰向けにひっくり返る。
同時に、長剣をダラリと下げたまま、アシーリャさんが光の外に歩いていった。
僕は慌てて、
「胴体を傷つけないで!」
と叫んだ。
コクッ
アシーリャさんは頷く。
ヒュパッ
と思ったら、彼女の長剣は霞むように横に動いていた。
(……あ)
ホーンラビットの頭がポロッと落ちる。
流れる血が地面に広がった。
…………。
速い。
速すぎて、全然、剣が見えなかった。
アシーリャさんは、頭と胴体を摘まんで、ヒョイヒョイと『保存箱』にしまう。
こちらを見て、
『これでいい?』
という風に、首をかしげた。
(あ、うん)
僕は頷いた。
「ありがとう、アシーリャさん。凄くよかったよ」
「……は、い」
金髪を揺らして、彼女は頷いた。
ムフッ
少し嬉しそう?
その様子が、ちょっと可愛かった。
ピカピカ
杖君も点滅する。
(あ)
僕は慌てて、
「杖君も、守ってくれてありがとう」
と言った。
ピカン
杖君も得意げに光った。
あはは……。
そんな感じで、僕らはホーンラビットを求めて、更なる森の奥へと向かったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
30分が経った。
あれから、ホーンラビットには2回、遭遇した。
保存箱には、現在、3体分の素材が納められている。
(……うん)
このペースだと、2時間ぐらいで終わるかな?
5日も要らない。
う~ん、杖君って本当に反則だね。
でも、ありがたい。
そんな感謝を思いながら、杖君を手にして、森を歩いていく。
「…………」
あとに続くアシーリャさんも変わらない様子だ。
ホーンラビットに会うたび、彼女の長剣は神業のように振るわれて、その首と胴体を2つに分けてしまうんだ。
でも、本人はぼんやりしたまま。
まるで、退屈な作業をしてるだけみたいな感じだった。
いや、
(実際、そうなのかも?)
ここまで見てきて、彼女の技量が普通でないことは察していた。
……うん。
アシーリャさんって、本当に何者なんだろうね?
まぁ、本人もわかってないみたいだから、知りようはないんだけどさ。
そんなことを考えていた時だ。
ピカピカ
(ん?)
杖君が点滅した。
それは、警告。
え……?
僕は驚き、すぐに足を止めた。
後ろに続いていたアシーリャさんも、僕の背中にぶつかる前に停止する。
すると、
「…………」
彼女は何か気づいたように、右の茂みを見た。
右……?
光の蝶もヒラヒラとそちらに向かう。
(…………)
僕らは慎重に、足音を忍ばせながら、そちらに進んだ。
カサ
茂みの奥を覗く。
(あ……)
そこは、小さな丘になっていた。
そして、その斜面には穴が開き、その周辺にホーンラビットが5体も集まっていたんだ。
群れだ。
きっとあの穴は、巣穴なのかもしれない。
ドキドキ
一気に仕留めるチャンスだ。
でも、5体。
5方向から突進されたら、さすがに危ないかな?
いや、杖君の防御魔法なら大丈夫か。
…………。
少し迷った。
すると、
トントン
アシーリャさんが僕の肩を指でつついた。
(ん?)
彼女は僕を見つめて、
チャキッ
その手の長剣を見せつけるように、僕に向けた。
『大丈夫です』
言外に、そう聞こえた。
僕は、彼女を見つめてしまった。
(アシーリャさん……)
そして、頷いた。
彼女がそこまで意思を見せてくれるのなら、僕も覚悟を決めよう。
ギュッ
杖君を握り締める。
今日まで1度しか使わなかった魔法を、ここで使おう。
「よし、やるよ」
「は、い」
ピカッ
5体のホーンラビットを前にして、僕らは動き出した。