014・挑戦
冒険者ギルドに到着した。
僕は、杖君とアシーリャさんと一緒にクエスト掲示板前に移動した。
(えっと……)
まずは、薬草集めの依頼書だ。
ペリッ
慣れた手つきで剥がす。
現在の所持金は、170ポント。
今日の宿代を引くと、120ポントしかない。
日々の安定した収入として、薬草集めクエストは最優先だと思うんだ。
その上で、討伐系のクエストをチェックする。
(ふむふむ?)
Fランクの討伐クエストは、3種類あった。
ホーンラビットの討伐。
火狼の駆除。
雷爪熊の駆除。
この3つだ。
そして、ホーンラビットだけが素材クエストで、角と毛皮と肉が10体分、必要みたいだね。
火狼と雷爪熊は、それぞれ3体と1体の駆除クエスト。
(う~ん?)
どうしよう……?
僕にとっては、初めての討伐クエストだ。
ホーンラビットと火狼は、すでに気絶させたり倒せた経験がある。
雷爪熊は知らない。
知らない魔物は、初心者には危険かな?
じゃあ、この2つ。
その、どちらかにしよう。
ホーンラビットの方が弱い魔物だけど、素材系なので倒し方に工夫が必要だ。
火狼は駆除系。
倒し方は気にしなくていい。
でも、数が3体というのが、少しだけ心配だった。
…………。
最優先は、命の安全。
失敗しても、命のリスクが低いのは、
「――うん」
僕は頷いた。
ペリッ
小さな手で『ホーンラビットの討伐』のクエスト依頼書を取った。
きっと、こっちだね。
ピカン
杖君も明るく光った。
ホーンラビットは弱いから、まず負けない。
倒し方に失敗しても、死ぬことはない。
でも、火狼は強い。
クエストに失敗する状況は、つまり、僕らが死んでる可能性もある。
まずは、1番安全そうなクエストから。
それで経験を積もう。
僕は、アシーリャさんを振り返る。
「アシーリャさんも、このクエストでいい?」
「……は、い」
コクン
金色の髪を揺らして、彼女も頷いた。
ぼんやりした表情なので、正直、理解してるかわからないけど……。
でも、同意を得た。
それが大事。
(よし)
僕は頷いた。
そして、2枚の依頼書を手に、受付カウンターに向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
受付で手続きをしてもらう。
今日は、マーレンさんじゃなくて、違う受付嬢さんだった。
「お願いします」
と、2つの依頼書を渡す。
受付嬢さんは、すぐに水晶玉の鍵盤を弾いた。
カシャカシャ
薬草集めは、いつも通りの条件。
そして、今回初挑戦のホーンラビットの討伐は、期日が5日間、報酬は500ポントだった。
日本円で、約5万円だね。
素材が傷んでいた場合は、減額。
またあまりに傷みが酷い場合は、最悪、クエスト失敗扱いとなるそうだ。
(ふむふむ)
その辺の説明を、しっかり聞いておく。
それから、
ドスン
と、受付カウンター上に金属製の箱が置かれた。
「これは?」
聞くと、
「こちらは『保存箱』です」
とのこと。
箱の中は、魔法で冷気が満ちていて、素材の痛みを緩和してくれるそうなのだ。
(へぇ……?)
カパッ
感心しながら、蓋を開く。
箱の底面には、魔法陣が刻まれていた。
手を入れる。
(ん、冷たい)
むしろ、寒いぐらいだ。
なるほど、冷蔵庫……あるいは冷凍庫みたいな道具なんだね?
箱には紐が付いていて、背負えるようになっていた。
(う……?)
背負おうとしたら、かなり重い。
子供の体格じゃ無理だ。
申し訳ないけど、アシーリャさんに背負ってもらった。
ガシャッ
彼女は背も高く、平気な様子。
「重くない?」
「は、い」
表情も変わらないので、本当に大丈夫そうだ。
(うん、よかった)
僕も安心だ。
「悪いけど、お願いね」
「は、い」
彼女は金髪を揺らして、頷いてくれた。
ちなみに、箱はレンタル。
代金は、10ポント。
無料じゃないけど、これで素材が傷まずに減額がなくなるなら悪くないと思えた。
チャリン
なので、10ポント支払う。
ちなみに、もし壊したり、なくしたら弁償になるので注意するように言われた。
うん、気をつけよう。
こうして、手続きも完了。
「じゃあ、行こっか」
「は、い」
ピカン
僕の言葉に、アシーリャさんは頷き、杖君も光った。
冒険者ギルドをあとにする。
そして、初めての討伐クエストに挑戦するため、僕らはレイクランドの町を出発した。