013・討伐クエスト
「すぅ……すぅ……」
「…………」
今朝も、目が覚めた時の僕は、アシーリャさんの抱き枕にされていた。
ムニュ
大きな胸の谷間に、顔が挟まれている。
う、う~む。
昨日、寝る前に説明したんだけどな。
しかも、ベッドに入った時は、ちゃんと別々だったはずなのに……どうしてだろう?
ため息を1つ。
それから僕は、僕を抱える彼女の手を外した。
すると、
「……ん」
感触の変化を感じたのか、アシーリャさんも目を覚ました。
ぼんやり、僕を見つめる。
僕は苦笑して、
「おはよう、アシーリャさん」
と声をかけた。
彼女は、しばらく止まっていて、やがて、「……おはよ……ます」と呟いた。
うん、なんか可愛い。
見れば、彼女の長い金髪には、今朝も寝癖ができていた。
(やれやれ)
僕は、彼女をベッドに座らせると、その後ろに回って、昨日買っておいたブラシでその髪を梳いてあげた。
シュッ シュッ
アシーリャさんは気持ち良さそうだ。
何だろう……?
(なんか、ペットのブラッシングをしてる飼い主の気分……)
ま、いいよね。
やがて、彼女の髪も整った。
「杖君も、おはよ」
ピカン
杖君とも挨拶して、僕らは食堂の朝食に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
食事を終えて、部屋に戻った。
今朝は、卵入りのおじやと焼き魚、葉野菜のおひたしだった。
うん、美味しかった……。
この世界では、和風系の食事もちゃんとあるんだよね。
ちょっと不思議。
でも、前世日本人としては嬉しくもある。
ま……それはともかくとして、
「えっと――」
ペラペラ
僕はベッドに座って、『冒険者ガイドブック』を開いていた。
あ、あった、あった。
見つけたページに書かれていたのは、『討伐クエスト』についての項目だった。
昨日のマーレンさんの助言。
それを少し考えようと思ったんだ。
ちなみに僕がガイドブックを読んでいる間、アシーリャさんは僕を背もたれに反対側に座って、窓の外の青空を眺めていた。
その温もりを感じながら、僕はページを読む。
(どれどれ……?)
討伐クエスト。
それは、魔物を殺すクエストだ。
でも、その目的は、大まかに分けて『2つ』あるという。
(2つの目的……?)
ページを読み進める。
1つ目の目的は、駆除。
要するに、人の生活圏を守るため、魔物を殺すのだ。
町や村の近く。
あるいは街道。
そういった場所に現れた魔物を倒して、人々の生活を守ることが目的だ。
(なるほど)
そして、2つ目。
その目的は、素材。
武器や防具の材料、料理の食材、薬の原料として、魔物を狩るのだ。
肉や毛皮、角など。
その肉体は金になる。
だから、殺すのだ。
「…………」
ペラッ
僕は、ページをめくる。
そして、目的によって、討伐方法も違ってくる。
1つ目の駆除の場合、魔物の肉体はどれだけ損傷させても構わない。
殺すことが最優先だ。
(ふむ)
けれど、2つ目の場合。
こちらは『素材』が目的だ。
なので、魔物を殺すとしても、極力、その肉体を損傷させてはいけないのだ。
損傷が酷いと、最悪、クエスト失敗となる。
だから、殺し方にも工夫が必要だとか。
…………。
なるほどね。
言われてみれば、もっともだ。
単純に魔物を倒せばいいと思っていたから、目から鱗だったよ。
パタン
僕はガイドブックを閉じた。
背中が温かい。
密着しているアシーリャさんに、
「ねぇ、アシーリャさん?」
「……?」
「今日は薬草集めと一緒に、討伐クエストも受けていい?」
「…………」
「…………」
「……は、い」
金色の髪を揺らして、彼女は頷いた。
……うん。
ひょっとしたら、あまり意味わかってないかも……?
でも、ちゃんと言っておきたかったんだ。
僕は杖君を見て、
「杖君もいい?」
ピカン
杖君は、力強く輝いた。
僕は笑った。
「2人とも、ありがとう」
「……ん」
ピカピカ
1人と1本は、それぞれに反応する。
そうして僕らは宿屋を出ると、今日も冒険者ギルドに向かったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
本日、もう1話投稿予定です。