001・転生
新作です。
どうか気軽に楽しんで貰えたら幸いです♪
「……本当に転生したんだね」
僕は、呟いた。
目の前には、日本ではあり得ない大きな樹々の生えた大森林の景色があった。
(……凄いや)
その景色をしばらく眺めてしまう。
そんな僕の右手には、1本の白い杖があった。
木製の杖。
構造はシンプルで、けど、どこか神秘的。
ピカン
その先端が、虹色の光を放った。
(……うん)
やっぱり夢じゃないんだね?
僕は納得する。
そして、その輝く杖の光を見ながら、ほんの数分前の記憶を思い出していた。
◇◇◇◇◇◇◇
(ここはどこ?)
気がついたら僕は、青い空と白い石の床がずっと広がる空間にいた。
呆然としていると、
『残念じゃが、君は死んでしまったんじゃ』
と、声がした。
振り返ると、いつの間に現れたのか、白髪のおじいさんが目の前に立っていたんだ。
(……誰?)
驚く僕に、おじいさんは微笑む。
それから、そのおじいさんは、自分のことを『世界の管理人』の1人だと名乗った。
意味はわからない。
でも、おじいさんは、
『もう1度言うが、つい先程、君は亡くなってしまったのじゃよ』
と、僕を見つめた。
(……うん)
嘘じゃない、と思えた。
おじいさんの澄んだ瞳は、真実を語っている……そう感じられたんだ。
だけど、
(僕は、なぜ死んだの?)
いや、そもそも生前の僕って、どんな人間だっけ?
それが思い出せない。
日本人として生きていた感覚はある。
でも、自分自身の記憶はなくて、どんな人生を歩んだかもわからない。
(どうして……?)
僕は困惑する。
すると、おじいさんは頷いて、
『君の生前の記憶は消させてもらったのじゃ』
と言った。
僕は「え?」と目を丸くする。
おじいさんは僕を見つめて、
『君はこれから生まれ変わる。そこで未練を残さず、次の人生を歩んでもらうためにの』
「…………」
『そして、君には《異世界》に転生してもらおうと思っておるのじゃよ』
「異世界!?」
僕は驚いた。
おじいさんは「うむ」と頷く。
それから少し悲しそうに、
『生前の君は、苦しみの多い人生を送った』
「…………」
『人の身ではどうにもできぬ不幸ばかりが重なったのじゃ。その最期も、苦しみと絶望の果てであったよ』
「……そ、そうですか」
記憶はない。
ないけど、悲惨な人生だったんだね……。
おじいさんは言う。
『実は、転生するのはそのためでの』
「え……?」
『人の魂に与えられる幸福と不幸は、基本、釣り合うようになっておる。じゃが前世の君は、あまりに不幸が大きかった』
「…………」
『その代わりに、次の来世が与えられたのじゃ』
(そっか……)
正負の法則……だっけ?
つまり、それが僕にも適応されたってことかな。
おじいさんは、
『そういうことじゃの』
と、静かに頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇
僕への話が終わると、
『さて……では君に1つ、贈り物をしようかの』
と、おじいさんは両手を広げた。
(贈り物?)
キョトンとする僕の目の前で、
ヒィン
おじいさんの両手の間に、どこからともなく光の粒子が集まっていく。
やがて、集まった光は1本の『白い杖』を形作った。
僕は目を丸くしてしまう。
白い木製の杖だ。
長さは、1メートルほど。
細身だけど、先端部分だけが少し太くなっている。
一見、地味な杖。
でも、どこか神秘的だった。
おじいさんは「ほい」と、それを僕の手に握らせた。
ほんのり温かい。
僕は杖を見つめ、それから、おじいさんを見た。
「これは……?」
おじいさんは微笑む。
『それは《白の霊杖》じゃ』
しろのれいじょう……?
おじいさんは頷いて、
『君の転生する異世界には《魔物》などもいての』
「魔物……」
『日本に比べて、命の危険も大きいのじゃ。しかし、せっかく転生したのに、すぐに死んでしまっては生まれ変わる意味もなくなってしまう』
「…………」
『じゃから、身を守るための道具を渡しておこうと思っての』
「…………」
僕は、手の中の白い杖を見る。
すると、
ピカン
杖の先端が虹色に光った。
(わっ?)
少し驚く。
おじいさんは微笑む。
『その杖は、君にしか使えない。そして、君の思考を読み、必要な魔法を具現してくれるじゃろう』
「…………」
『それを、よく活用していきなさい』
「う、うん」
僕は頷いた。
もう1度、白い杖を見る。
すると、
ピカピカ
まるで挨拶するように、杖の先端が明滅した。
(…………)
な、なんか可愛いな。
僕はつい笑って、
「うん、これからよろしくね、杖君」
ピカッ
杖君も光った。
そんな僕らに、おじいさんも優しい眼差しで『うむうむ』と頷いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
杖君を眺めていると、
『では、そろそろ時間じゃの』
おじいさんはそう言って、こちらに右手をかざした。
(え……?)
と思った瞬間
ブォン
僕の足元の石床に、魔法陣が生まれた。
そこから黄金の光の柱が立ち昇り、僕の全身を飲み込んでいく。
(わ、わっ?)
全身が光る。
不思議な力を感じて、
(あ……これから転生するんだ)
と、なぜかわかった。
驚いている僕に、おじいさんは言う。
『来世では、前世で許されなかった分まで、どうか己の思うまま、好きなように日々を歩みなさい』
「…………」
『今度こそ、良き人生をな』
そう微笑んだ。
僕は、大きく頷いた。
「はい」
ギュッ
両手で、白い杖を握り締める。
そして、
「色々とありがとうございました、神様!」
と、深く頭を下げた。
立ち昇る光の向こう側で、おじいさんは少し驚いた顔をした。
すぐに優しい表情で頷く。
僕は、それを見つめて、
パアアアッ
次の瞬間、視界の全てを黄金の輝きが埋め尽くした。
…………。
…………。
…………。
光が消えて、視力が戻る。
目の前には、巨大な樹木が生えた大森林の景色が広がっていた。
「…………」
さっきまでの不思議な空間じゃない。
日本でもない。
(――うん)
僕は頷いた。
おじいさんの言った通り、僕は、本当に未知なる異世界に転生したのだ。