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アンジェリーヌは一人じゃない  作者: れもんぴーる


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婚約解消

 そして婚約者との顔合わせの日がやってきた。

 相手方、グラニエ公爵家のお庭でお茶会だ。

 婚約者としての義務らしいが、正直面倒で仕方がない。

 最もアンジェリーヌは婚約者に会えるのを喜んでいたようだけど。


 婚約者の出迎えもないまま、執事に案内されていくと、不機嫌そうな婚約者のロジェがすでに庭に用意されたテーブル席に座っていた。

 いつものアンジェリーヌならロジェの姿を見るなり無理してでも笑顔を浮かべ、お招きありがとうと言っていた。

 でも私は微塵も心にないことは言わない。


 話す事もないので無言でお菓子とお茶を楽しむ。公爵家の優秀な使用人だからお茶を入れるのが上手なうえに、お菓子も大変美味しい。

 目に前の仏頂面の男の事は忘れて、その美味しさに夢中になっていると、

「不機嫌な顔をしてなんだ。少しは気を使え、茶がまずくなる」

 とロジェが文句をつけてきた。

「え? 私はたとえ目の前に不快な相手がいても美味しい物は美味しいですけどね」

「なに?!」


 いつもはどんなに冷たくあしらっても必死に笑顔を張り付けて、何とかロジェに話しかけていたアンジェリーヌ。

 それが今日は愛想笑いもせず完全にロジェを無視している。おまけに少し嫌味を言ったら即反撃。

 さらに

「返事もろくにしない仏頂面の相手に不機嫌な顔以外できる方法があるのなら、教えていただきたいですわ。笑って欲しいなら、笑わせるような素敵な会話をしてから言って欲しいものですわ」

 子分から言うなと言われたことをしっかり言っておいた。

 こんな男などアンジェリーヌにふさわしくない。

 これで婚約解消まっしぐらなはず。


「な、なんだと? お前のような暗い女が婚約者なんて俺はずっと嫌だったんだ。我慢して顔合わせに時間を割いてやってるだけありがたいと思え」

「え? 正気ですか? 私だっていやなのに、爵位の関係上逆らえず来ているだけなんですよ。それならあなたから断ってくださらないと」

「いいかげんにしろよ! なんだ、今日のお前は!」

「では、いつものあなたは何なのでしょう? 我が身を顧みていただけませんか。ほんと、文句を言わず今まで我慢してきた私に感謝してほしい位です」

「お前なんかと結婚は出来ん! 婚約解消だ!」

 ロジェはそう言い放った。

「もちろん喜んで・・・いえ!悲しいけど、お受けしますわ。ああ、残念。悲しくて泣きそう、心が張り裂けそうですわぁ。」

 アンジェリーヌは満面の笑顔で婚約解消を受け入れたのだった。


 アンジェリーヌは超ご機嫌で屋敷に戻り、すぐに父に報告する。思わずスキップが出そうになった位だ。

 小言を言いそうな雰囲気の父を見据える。公爵家との縁に何か期待していたのかもしれないが、向こうからの破棄宣言だ。受けるしかない。

「元は向こうから望んだ縁談だったのだ。お前の母の親友だった公爵夫人からぜひともと・・・いや・・・すまん。わかった。手続きはこちらでする」

「お願いいたします」

 アンジェリーヌはこれで煩わしいことは何もないと、清々した気分で部屋に戻ったのだった。



 しかし予想に反してすぐに婚約は解消されなかった。

 ロジェの方から全く手続きの書類が送られてこない。

「全く煩わしい」

 最悪なことに今度パーティがある。公のパーティでは一応ロジェもアンジェリーヌをエスコートしていた。

 ほとんど無言で会場に付いたら放置されて、大人しいアンジェリーヌはほとんど誰とも話すことなく壁際にそっと立っているだけだった。


「ま、不参加でいいか。最悪、アベルに女装させて参加させればいいわよね」

「良くないよ!」

「何でもするんでしょ」

「だからって!」

「いやいや、使えないわ~。はい、じゃあもう破門!」

 アベルに破門を言い渡すと、アンジェリーヌはもう子分に興味を失ったように紅茶を飲む。

「姉上!」

 アベルは必死にアンジェリーヌに話しかけるが、アンジェリーヌはすでに他の事に気がとられていた。



 これからどうしようかしら。

 まずは差し迫ったパーティ、これは欠席しよう。婚約解消を叩きつけたくせに解消をしない訳の分からない婚約者に付き合いたくもない。どうせ、不機嫌な顔でエスコートだけして、放っておかれるのだ。

「よし、あいつは捨て置こう。病気とでも言えばいいわね」

 うんうんとうなづきながら、次は今後の生活についてだ。


 今のアンジェリーヌには、両親や弟が家族だという実感があまりない。

 あれ以来、父親は妙に構うようになり、義母は相変わらずきつい目で見るものの目に見えたいじめはなくなった。使用人も入れ替えたおかげで過ごしやすくなっている。

 だが、ここは自分のいる場所ではない。


 もしかしたらアンジェリーヌは今のこの家なら幸せだと感じるかもしれないが、それでも消えてしまうほど苦しんだこの家にこだわる必要はないと思うのだ。

 ここを出て、アンジェリーヌが幸せになる居場所を作れるのかはわからない。アンジェリーヌが戻ってくるかどうかも分からない。

 それでも戻ってくることがあるのなら、一度は自由というものを知ったうえで人生を選択してほしい。


 侯爵令嬢が一人で生きていくのは困難だろうが、自分の中には別の人生の記憶がある。一人で生きるのが当たり前の世界にいた私はきっと平民でも生きていける。

 もう17歳。この世界ではもう大人扱いをされる、働くこともできるのだ。貴族令嬢でなければの話だが。



「う~ん。・・・ちょっと街に偵察に行かなきゃいけないわね」

 家にしても仕事にしても、アンジェリーヌはほとんど街を知らない。

 マノンとアベルが街に出るときもアンジェリーヌはお留守番。

 断ることを前提にお誘いはしてもらえるが、一緒に行くと言おうものなら後でせっかんをされた。

 婚約者と出かけることもなかったし、おとなしかったアンジェリーヌは小さな世界しか知らなかったのだ。

 このまま飛び出すのはさすがに危険であり、情報を集める必要がある。



「・・うえ、姉上!」

 アベルがアンジェリーヌをさっきから呼んでいたようだが、気がつかなかった。

 すっかり子分の存在を忘れていた。

「何? 破門したのだけど」

「もう、姉上は本当に僕の事嫌いなの?!」

「好きでも嫌いでもない」

 アンジェリーヌはあっさりと告げる。

 アベルは泣きそうに顔を歪める。

「ひどい! あ、ごめんなさい! ひどくない。見て見ぬふりしてた僕の方がひどいんだから・・・」

 そう、アベルがアンジェリーヌにまとわりつき、子分扱いを受け入れているのもこれまでの罪悪感のせいだ。これからも解放してやりたいと思っている。

 この子のせいではないのだから。


「じゃあ今度街に行きたいの。一人では許してもらえないと思うし、アベルが行きたいってことにして連れて行って貰えない?」

「はい!」

 姉に頼みごとをされたことが嬉しいようで、アベルは力強く返事をした。


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