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アンジェリーヌは一人じゃない  作者: れもんぴーる


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へまをするのは子分だけじゃない

「アンヌ、この間はありがとう。騎士たちの士気が上がったし、恋人や妻に優しくなったようだよ」

「それは良かったです。恥ずかしい思いをしたかいがあります」

「君の歌は魂がこもっているんだよね。聞く者の心を打つ」

「そりゃそうですよ。何年、師匠の歌を崇拝してきたと思っているんですか」

 それに愛した人への気持ちも。

「はは、そうだね。それで、今度お礼に君を招待したいところがあるんだ」

 ナリスはそう言ってアンヌを外に連れ出した。


 ナリスは、以前観劇に行った時のように髪型と化粧を変えたアンジェリーヌを貴族御用達のお店に連れて行ってくれた。

「ナリス様、このお店は私には分不相応です。それに身につける機会もありませんから」

「お礼に贈りたいんだよ」

 ナリスはそういうと、店員にアンジェリーヌに似合うドレスを依頼した。

 慌てるアンジェリーヌに、

「これだけ評判なんだから、いつか必ず王家からも声がかかる。ドレスはあった方がいい」

 ナリスはにっこりとほほ笑む。

「・・・。ナリス様、何か絶対に企んでいますよね」

「企むなんて、ひどいな。でもまあ、私の専属侍女として付き合ってもらうこともあるかもしれないからね」


 なんだかんだ言いくるめられて、今のアンジェリーヌには豪華すぎるドレスをで注文してくれた。

 これまでこんな経験をしたことがなかったアンジェリーヌは採寸や生地や色、デザイン選びでへとへとに疲れてしまっていた。

 そんなアンジェリーヌにナリスは息抜きにとお茶に誘った。

「・・・ナリス様、息抜きとおっしゃいましたよね?」

 アンジェリーナが立っているのは、看板があるのかもわからない重厚感のある扉の前。

 知らぬものではここにカフェがあることさえ分からないだろう。

 一言さんお断りの完全会員制の高位貴族御用達のカフェ。


「このようなお店、私には敷居が高いです」

「大丈夫、個室だから。それにアンヌもマナーに問題はないじゃないか」

「それにしたってこんな高級なお店では私が浮いてしまいます」

「M・アッサンは今をときめく有名人なんだから自信を持って。騎士団の前で歌ってくれたお礼がしたいと言っただろう」

「お礼は先ほどドレスで過分に頂きました」

「先日も言ったけど、君の歌は心を揺さぶる。本来なら謝礼をしなければならないのに、無償で聞かせてもらっているんだから受け取って欲しい」

「ありがとうございます」

「それとこれからも騎士たちに披露してほしいと騎士団長からも希望があった。あの歌は君たちの歌だというとそりゃあ喜んでいたよ」

「いや、まあ・・・あんなお恥ずかしいレベルでよければ頑張りますけど。正体がばれない様にお願いしますね」

 ただでさえ、子分のアベルが行方を知らないかとフェリクスにしつこく手紙を送ってくるらしい。


「アベルはM.アッサンの事は知っているのですぐわかってしまうと思います」

「君の弟君の事はこちらに任せておいてくれたらいいよ」

「何から何までご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」

「代わりに君は唯一無二の才能を提供してくれているのだから。もっと誇りを持っていいんだよ」

 優しく笑うナリスにそう言われてアンジェリーヌは嬉しかった。

 が、

「嬉しいですけど・・・ナリス様、何か話があるのならどうぞお話しください。これだけしてくださるのだから何か私にさせたいことがおありなんですよね? あのようなドレスが必要な」

「まいったな。」

 そう言ってナリスは笑った。


「お世話になっているのですから、お話は伺います。出来るかどうかはわかりませんけど」

「話が早い。さすがアンヌ。今度王宮に一緒に来てくれないか?」

「え!? 無理ですけど!」

 アンヌは反射的に断った。

 これまでデピュタントで王宮の広間に訪れたことがあるだけだ。

 それ以外のパーティなどでは、マノンが理由をつけては参加させてもらえなかった。


 そんなアンジェリーヌの返事に頓着もせずナリスは話を続ける。

「第二王女は病弱で表に出られないという話は知っているだろう?」

「はい」

 それはとても有名な話だ。これまで一度も表舞台に顔を出されたことはない。

 病弱な王女だと周知されていた。

「体調が悪いというよりも・・・なんだか心のない人形みたいでね」

「・・・ナリス様。ナリス様は親戚でらっしゃるでしょうけど、さすがに不敬になるのでは?」

「比喩じゃなくてね、本当に感情がなく、話すこともなく、自分の意志もない。ただ人に世話をされて生きているだけの・・・陛下は大切にされているんだけど、当然友人もいないし、使用人たちでさえ反応のない相手に心から尽くすっていうのは難しいんだ」

「・・・そうですか」

 アンジェリーヌはお会いしたこともないヴァランティーヌ王女を気の毒に思った。


「私は彼女と年齢が近しいというのもあって、少しでも彼女の刺激になればと幼いころから陛下に招かれていたんだ。でもこれまで十数年、一度も視線があった事も声を聴いたこともない」

 ナリスは寂しそうに言った。

「私はアンヌの歌をティティに聞かせてあげたい。反応はないかもしれないけど、慰めになればいいと思っている。君の歌なら心に届くのではないかと期待もあるし」

「ナリス様、買いかぶり過ぎです。私はまさし様をこよなく愛する、ただのカラオケ好きなのです。たまたま異世界から・・・・あ・・・いえ・・・その・・・」

 アンヌはきゅっと口を閉じた。

「異世界? どういうこと? カラオケって何?」

「何でもありません。ちょっとした言葉の綾っていうか・・・」

「前から色々気にはなっていたけど聞くのは遠慮していたんだ。今は二人きりだし、いい機会だから教えて欲しい」

「・・・黙秘権を行使します」

 アンジェリーヌは汗をだらだらかいて、このピンチからどうやって脱出するか考えていた。



 人と深くかかわるのはやはりまずい。気を許してしまうとうっかり話してしまう。

 とにかくこの場を何とか言い逃れて、それからすぐにまた出て行く用意をしなければ。

 公爵家での暮らし、ナリス様との生活はとても幸せだったけど・・・でもいつかアンジェリーヌと入れ替わる日が来ることを思えば隠しておいた方がいいように思う。寂しいけれど。


 よし!とアンジェリーヌが決意を固めたところで

「アンヌはすぐに家出しようとするよね」

「え!? な、な、なんのことでしょう?」

「自立心旺盛というか、行動力がとんでもない。とてもご令嬢には思えない、そこがまた好ましくてたまらないんだけども」

「・・・えっと・・・」

「この場をなんとか誤魔化して、その後は姿をくらまそうとでも考えていたんじゃない?」

「まさか・・・ほほほ」

 アンヌは顔を引きつらせながら笑う。

「そう? それならいいけど。時間がたっぷりあるし、個室だしゆっくりと聞かせてもらおうかな。侍女のアンヌは主の私に隠し事するなんてしないよねえ」

「・・・もちろんです」

 アンジェリーヌは観念した。

 まあそれだけナリスを信頼していたというのもあるけれど。




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