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アンジェリーヌは一人じゃない  作者: れもんぴーる
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M.アッサン その名はマッサン

 今日もまたロッシュ家の別邸で、アンヌとフェリクス楽しそうに歌について語り合っていた。

 この世界にない物や言葉はこの世界に合う言葉に変換して、最終はプロであるミレーユが歌として仕上げる。その最終作業の前にただ楽しむ時間。

 アンヌが書きだしたたくさんの歌詞をフェリクスが目を通し、アンヌが簡単にメロディを口ずさんで伝える。


「フェリクス様、さすがお目が高い!私が最も好きな曲ですよ!」

 その中でフェリクスが気に入ったという曲が、アンヌの最推しの曲だったのだ。

「そうだろう、そうだろう。」

 フェリクスも満足げに頷く。

 敬愛するまさし様の『関白〇言』、『秋桜』、『女優』などなど色々紹介する中で、フェリクスが一番気に入ってくれたのが『舞姫』。

 アンヌが食堂で泣きながら歌っていたのもこの歌。


 私には前の世界に大切な人がいた。好きで、好きで、大好きで・・・。

 二人ともこの歌が好きだったが、二人の解釈は違った。

 私は、「旅人は舞姫を裏切り帰ってこない。舞姫も心の底ではそれをわかりながらも旅人を待っている」と言い、彼は、「旅人はやむを得ない事情で戻って来られないだけで、ずっと舞姫のことをどこかで思い続けている」と。

 いつも言い合いながらも、私たちは何があっても離れない、もし死んでも心だけは側にいよう。離れることがあってもずっと待ち続けようと誓いあっていた。

 今ならわかる、彼の言ったことが正解だって。

 もう彼の元には戻れない。どれだけ想っても戻ることがない。

旅人(私)は帰ることも連絡を取ることもできず、ひたすら待ってくれている舞姫(彼)の事を想うしかないのだから。

 

 フェリクスは歌詞をみて唸っている。

「本当にすごいね・・・なんて切なくて深い愛なんだろう。メロディはどんなだっけ?」

 アンヌが歌い、それをフェリクスお抱えの歌手が隣で覚えていく。

「すごい・・・鳥肌が立ったよ。何度聞いても涙が出てくる」

 お抱え歌手ミレーユも頷き、

「このような歌はこれまで誰も作ったことがありません。魂が揺さぶられる。こんな神からのプレゼントを私が歌えるなんて。こんなうれしいことはありません」

 歌を称え、アンジェリーヌに感謝する。

「でしょ、でしょ! ほんと嬉しい。まさし様の歌を分かり合える同志に出会えて感激だわ」

 アンヌは嬉しくなる。前の世界では、同世代で話が合う友人がなかなかいなかったから。


 アンヌはまさし様を心の師と仰いでいた。

 人の心の機微を誰もまねできない言葉回しで表現する。歌詞もメロディも音楽の神からのギフトではないかと思う。いや、もうまさし様が神としか思えない。

 そんなまさし様の歌をこの世界で聞くことは出来ないが、素晴らしい声を持つミレーユが歌ってくれる。


 この世界にいないまさし様、著作権料支払うことは出来ませんが、私はあなたのしもべとして普及活動をしておりますのでお許しください。とアンジェリーヌは手を合わせた。



「自分がその旅人を待っている間はその恋は嘘にはならないなんて・・・もう本当は旅人が戻ってくるつもりなんかないと知っているんじゃないのかなあ。でもその気持ちに縋って・・・切なくて悲恋の舞台を見ているみたいだ」

 フェリクスは昔の私と同じ解釈をしたようだ。


「フェリクス様。旅人はきっと戻りたくても戻れないのです。病気なのか、恩義のためか・・・もしかして亡くなってしまったか。事情は分からないですが、彼もどこかで舞姫の事を想っていると思います。私はそう思いたいのです」

「・・・そうか。そういう解釈があるのか。そっか・・・そうだね」

 フェリクスはどこか寂しそうな、嬉しそうな表情でそう言った。



 まさし様の歌はミレーヌによりついに公の場で披露されることになった。

「舞台が楽しみだね。アンヌ作詞作曲、歌い手はミレーユということでいい?」

「いえ、私の名前を出さないでほしいのです」

「どうして? こんな素晴らしいものを世に出すのだからアンヌの功績を世に知らしめたいんだけど」

「いえ、平民というのもありますが、正体がわかると連れ戻されるかも・・・」

「それは駄目だ。よし、偽名にしよう。アンヌをもじる?」

「いえ、出来ればまさし様の名前を残したいのですが・・・」



 ミレーユの歌は人々に感動を与え、舞台の席が取れないほどの人気となった。

 ミレーユに曲を提供しているのはM・アッサン。通り名はマッサンといわれ、その正体は不明であることも皆の注目を集めたのだった。


 最もロイの食堂のスタッフや常連など、うすうす真実を知っている者もいたが、勝手にアンヌの事情を慮り、口外することはなかった。


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