プロローグ
「もちろん喜んで・・・いえ! 悲しいけど、お受けしますわ。ああ、残念。悲しくて泣きそう、心が張り裂けそうですわぁ」
アンジェリーヌは満面の笑顔で婚約解消を受け入れた。
「ぐっ・・嘘をつけ! なんだその嬉しそうな顔は!お前は・・・本当にそれでいいのか!」
「これが私の泣き顔です。ああ、悲しい。涙が止まりません」
アンジェリーヌはこれっぽちも悲しみを漂わせずに
「それでは失礼しますわ。正式な手続きはお父様にしていただきますので。ではごきげんよう!」
去っていくアンジェリーヌは鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌だった。
「あいつ…」
その後姿を呆然と見送ったロジェは、自分から婚約解消を告げたくせに、嬉しそうに承諾されたことに衝撃を受けていた。
親が決めた婚約だったが、幼少期はそれなりに仲が良かった。長じて二人の間に溝が出来てしまったが、それでもアンジェリーヌは自分の事を好きなのだと疑いもしなかった。
いつもおとなしくてこちらの機嫌をうかがうようなアンジェリーヌが、今日は全く別人かと思うほどの堂々とした態度で辛らつな言葉ばかり投げつけてきた。
その態度に怯み、婚約解消を突き付ければ、少しは反省すると思って勢いだけで婚約解消と言ってしまった。それなのにあんな嬉しそうにされてしまっては自分の方がひどく惨めだった。
「婚約解消などしてやるものか」
ロジェは胸の痛みを自覚しながら、そうつぶやいたのだった。