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1-2_アイゼンという怪人


俺はアイゼンの記憶を頼りにアイゼンの自室に戻った。


「……マジかよ」


まじまじと鏡を見る。


やはりというかなんというか。

そこに写っていたのは怪人アイゼンこと天目鋼、ゲームの登場人物の姿だった。


◇ ◇ ◇ ◇ 


神我狩(カミガカリ)=ToedAnce AnecdoTe=』(および、コンシューマー移植全年齢版の『神我狩|TailLess LongTale|』、PC再移植X-Rated版『神我狩=ThundeRous FolkLore=』、PC全年齢完全版『神我狩|Timeless Transparent Transcript|』)は00年代の学園伝奇ギャルゲーだ。


神白(カミシロ)と呼ばれる能力者達を集めた学園で、主人公の五鬼童酒天たちは学園の謎に迫る。

そんな感じのよくある物語。


ストーリーや文章は贔屓目に言って並な作品だが、当時は伝奇ものがそこそこ流行っていたことと、極端な能力描写がウケてコアなファンがついた。


中でも人気のキャラクターが、第一回人気投票でメインヒロイン数名を抜き去って第三位の座を奪った天目鋼(てんもくはがね)ことアイゼンなのだが……。


「いや、ああ、俺は一番好きなキャラだったけどよ」

「――よりによってネタキャラ(アイゼン)かよ」


そう、ネタキャラ人気なのだ、アイゼンは。


キャラクター発表の時点ではカッコいい鎧姿ながら、いざ作品が封切られて見れば分かりやすい三下ムーブ。


何より最大の特徴にして今の俺にとって最大の問題。

……アイゼンは、全ルートで死亡するのだ。


初回登場のインパクトに加え、必ず死ぬ中ボスっぷり。

いわゆる時報キャラ。それがアイゼンというキャラをネタキャラとして完成させた。


あともう一つ人気のある理由もあるが……。

そういえば明日はそれをロールしなきゃいけないのか?


ともかく、後ほど発売された完全版の追加2ルートでもプレイヤーの期待に答え殺される念の入りよう。それがアイゼンというキャラクターである。


「どうにかして死亡回避を……」


そう考えて――ふと思った。


なんだか知らんが一番好きなゲームの一番好きなキャラクターに転生しておいて、それは違うんじゃないかと。


「最終決戦まで生き残って横殴り、これだろ」


死亡回避して、最終決戦に参加する。

どうしてこうなったのかはわからんが、これこそ俺の今生の目的だ。


◇ ◇ ◇ ◇ 


「つっても厳しいよな……」


最終決戦決戦まで生き残って横殴り。

目標を決めたはいいが、ハードルはとてつもなく高い。


課題は大きく2つ。

最終決戦まで生き残ること、最終決戦で戦力になることだ。


「生き残るには最低限、生贄化の回避だが……可能か?」


生贄化、それはアイゼンの全ルート共通での死因だ。


地下迷宮に居る存在に特定条件で落ちる雷撃。

アレを5回受けると魂に贄の証が刻まれ、回避不能の死亡イベントが発生する。


……そう、先程食らったあの雷撃だ。

アレはただの耐性貫通スタンではない。5回食らうと死ぬのである。


アイゼンは単なる警告だと思いこんでいて、その辺りがネタキャラ化を加速させていた。


雷撃の発生条件は勝利を確信した状態で想定外の攻撃を食らうこと。

つまりアイゼンは今後何回も勝利を確信し、足元を掬われるのだ。ネタキャラである。


「だが、俺は先の展開を知ってる。一見回避可能にも思えるが……」


しかし、開発陣の中でもアイゼンの雷撃被弾ネタはお気に入りだったようなのだ。

共通ルート分を除き、全ルートでそれぞれ異なる被弾状況が用意されている念の入りっぷり。


であれば異世界転生モノでよくある強制力が働いて、理不尽な被弾が発生するような気がしてならない。


「そのへんは検証するしかないか」


とりあえず明日、共通ルート最後の雷撃イベントがある。

それを見て考えるしかないだろう。


「強制的に発生するってなっちまうと、できることは一つしかないんだよな……まあそれは置いといて」


問題なのはもう一つの方、最終決戦で戦力になる方法だ。

なぜなら、アイゼンは――弱いのだから。


◇ ◇ ◇ ◇ 


アイゼンの特徴は、無尽蔵な能力付与と出鱈目な能力出力にある。


その源は第四位階、神懸(fusion)のランクに到達していることにあるのだが……。


「第四位階で得た能力が、第二位階、神纏(hold)相当の能力付与能力。あまりに、あまりに世界設定を理解していない」


位階が一つ違えばよっぽどの技量差か相性差が無いと対抗不能、二つ違えば根本的に無理。

それがこのゲームの世界設定である。


いくら出鱈目な出力をしていても所詮は第二位階の能力。

無敵の鎧が三明の剣に敗れたように、単純な第二位階の能力では第三位階、神憑(trance)にすら通用しない。


それでも無尽蔵な能力付与を活用し強者として振る舞うのはアイゼンの戦闘センスの為せる技なのだが……。


しかし、それでも対抗可能なのは第三位階の相手まで。

最終決戦――他の第四位階である禁后や魘魅、ましてラスボスまで参戦する戦いには通用しない。


「要するにビルドを間違たんだ。だったらやることは単純、育て直しだ」


俺が俺として、第四位階・神懸のランクの能力を獲得する。

それが唯一の手段だろう。


問題は、既に神懸であるはずのアイゼンの肉体で、もう一度能力を取り直せるかということだが――


結論としては、可能なようだ。


「大逆せよ、1/3(call)(=)無尽蔵(Lucifer)! ……やっぱり発動しないな」


先ほどから何度か試したが、俺にはアイゼンの神懸が使えなかった。


神白の能力は魂、つまり精神に紐づく。

故に俺はアイゼンの能力が使えないし、俺は俺の能力が使えるはずなのだ。


尤も、言い方を変えると――


「アイゼンの能力無しで生き延びなきゃいけないってことだよな?」


ゲームの難易度が上がったということである。


◇ ◇ ◇ ◇ 


「なるほど、こんなところか」


色々実験してみた結果、分かったことが2つある。


1つはアイゼンの能力。

俺にアイゼンの能力は使えない。使えないが――


「残滓は残ってるってことか?」


部屋の中央に積まれたモノ。

アイゼンの使っていた折れた剣と鎧、蹴り上げた礫、そしてラムネだ。


剣と鎧はその能力を失っていた。破壊されたためだろう。

しかし礫は必中能力を維持していた。おそらくラムネも精神力向上効果を残しているだろう。


「といっても礫とラムネだけなんだが」


他にも自室のモノに能力が付与されていないか確認したが、見た範囲には無いようだ。


「風紀委員の腕章に能力が残っていれば良かったが……」


アレはある意味、アイゼンを象徴する能力が組み込まれたアイテムだった。

使用できれば明日から多少は楽なはずだったが、まあ使えないものは仕方ない。


そして、分かったことのもう1つは――


「異次元金属の生成・操作能力……」


掌の上に金属の塊を生成し、棒や球へと形状を変化させる。


能力のランクは第二位階、神纏相当に見える。

異次元金属の生成と操作、それはアイゼンが最後に使用した能力と同じものだった。

これは解釈が難しい現象だ。

単に礫やラムネと同様、自分自身に能力を付与したか、あるいは――


「俺自身の能力、の可能性か」


神白とは、異次元に住まう神的存在と交信し、その力を引き出す能力者である。


引き出せる力は神白の精神性に基づいて変化するが、交信する神的存在自体は肉体に依存する。

つまり、アイゼンが交信していた金星の神格。

俺もそれと交信しているはずであり――


「金属、武具、あるいは戦闘にまつわる金星神――いくらでも居るよなぁ」


俺自身の能力だとしたらありがたい。

それはつまり、俺の第四位階能力を手に入れられる可能性があるということだから。


「ふむ、なんとかなるか……?」


異次元金属の鎧を生成したり消滅させたりしながら考える。


まず、金属の生成・操作自体が非常に使い勝手の良い能力であること。


精神力に感応して性能が向上するため、おそらく俺ならアイゼンよりはマシに使えること。


そして、奥の手として、アイゼンの残したラムネが数粒使用できること。

短時間であれば、格上相手でも拮抗することができるだろう。


最後に。加えて、俺はこのゲームの設定を知り尽くしていること。


ゲームの設定資料集からライターの呟き、同一世界設定の他作品まで網羅済みだ。


ゲーム内では描写されなかった技術なんかが習得できれば、ことを有利に運ぶこともできるだろう。


「検証したいこともあるが――まあ、明日だな。

 絶対に生き残って――最終決戦でラスボスをぶん殴る!」


そう決意し、布団に潜り込んだ。




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