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俺はアイツが仇を果たすその瞬間……
待ちに待ったその至福の瞬間に割り込んだ……真っ黒に育ったアイツの魂。さらにはその魂からも零れ落ちそうなほどドス黒い恨みの心に、我慢できずに全部まとめて喰らいついた。
スッキリした……
俺の方も長年の恨みを晴らしたような晴れやかな気分であった。最高に気分がいい。できればこのまま、クソ女神どもを喰らってやりたい……だがそれはどうやら無理そうだ。
体の動きを確認するが、まだまだ馴染まないこの体。まるで別の何かが入り込んで邪魔をするような感覚……違うか。俺がこの体に入り込んで邪魔者を抑え込んでいるからか……
まあいい、時期になれるだろう。
そう思って再度周りを見渡した。
アイツの仇だった犬っころ、そしてその隣の女。神の子として俺にはじき飛ばされた魂の……なるほど……ハイエルフか……
俺は、神の子として落とされた女を視る。
マリアント……こいつを喰らえば俺はさらに強くなれる……。だが待て?じっくりとその女を視る。まだ……本当の力には目覚めていないな。今こいつを喰らっても、たしかに俺は強くなるだろう。
だがもしこの神の子が本当の力を目覚めた後、アイツと同じように魂から溢れるほどの神の力で満たしたとしたら……それを喰らった俺は、どうなる?
考え事をしている俺がふとその女に視線を戻す。何やら逃げようとずるずると引きずられているようだ。
「おお。すまんかったな。暇を持て余したのだろう」
「ひっ」
俺の言葉に悲鳴を上げるその女。
「よし、決めた!まずは私は暫くこの体になれるようにどこぞに篭る。そしたらお前たちは力を付けろ。それこそ死に物狂いでな!」
「何を言っておるのじゃ!」
隣にいた狐が口をはさむ。うっとおしいな。殺すか?
「うるさいな狐風情が!俺は今、そこの神の子と話している。『だまれ』」
「ぐっ」
「やめてっ!」
威圧を籠めて睨みつけると、その狐は大人しくなっていった。まあいいか。きっとこういうことでこの女は強くなるだろう。直感的にそう感じた俺は女に改めて自己紹介をしてみた。
「俺はこの世に落ちた神、邪神ケーオス。覚えておけ?次に俺が動き出した時、この世界を壊す。必死で止めろ。そのお前たちを俺は喰らって……そしてあのクソ女神も食い殺す!」
「邪神……」
「最後に笑うのは……この俺様だ!」
俺は、高笑いをしながら飛びたった。これであいつらは死に物狂いで強くなるだろう。俺は俺でその神の子の力を喰うため、体を休ませるために帝国に戻っていく。
そしてまずはとアイツが育った館に戻ると、そこにいるすべての者を喰らいつくした。次は城までの道を歩きながら周りにいるすべてを喰らう。そして城内に入り込む。もちろん邪魔する兵士も騎士も全て喰らった。
凄い!凄すぎる!力が内から溢れてくるようだ。
そして今、王座に座る俺の胸には、あのクソ女神たちへの恨みだけに満ちていた。
絶対に喰らってやる……
俺はゆっくりと目を閉じる。この体と魂が完全に馴染むように、深く深く眠りについた。
◆◇◆◇◆
Side:グリーンヒル・レイドック
「コンス!本当に大丈夫なのであろうな?」
「はいもちろんですとも!今や帝国は東大陸に手を広げる手はずを着々と進めておりますれば……この、コンスめに全てお任せを!」
私の言葉に胸を叩きながら自信満々に言ってのけるこの男。
コンス・アプスー伯爵という帝国の裏社会を牛耳っている貴族だとか……こいつと出会ったのはまだ私が不可思議な追放を受けた後だった。王座を元冒険者のなんたらにかすめ取られ、母上はあっさりと王家としての立場を捨てた。
もちろん、そんな不遇な処分に納得いかなかった私は、母上に連日抗議をしていたが取り合ってもくれなかった。そしてあろうことかこの私に「処刑されないだけましだ。平民として強く生きろ」と……
そんなバカバカしい戯言を母上に返された私の気持ちを、誰も分かってはくれないであろう。
さすがにあの時は周りで笑いをこらえる者どもを、不敬罪で切り殺してやろうとも思ったが、残念なことに私の剣はすでに没収されていたのだ。なんとも理不尽な仕打ち……天はこの試練を乗り越えろと言うのか……
そんな苦悩を打ち消すようにしばし心を落ち着けるため、少なくなりつつある手持ちの金を使い仕方なしに安酒を飲みに、小汚い飲み屋に入り浸る毎日。
それには、家を追い出されたあのアールグレイ・ローズマリ子爵夫人も同行していた。その娘のロズエリアも一緒なのだが最近アレは常にブツブツと何かを呟いているようで正直投げ捨てたくなってきた。
それでも母親の方は、家を追い出されたといっても多少なりとも資金面で頼りにはなるようなので、セットでそばに仕えることを許可している。母親のあっちの方も、まああれだ……悪くはなかった。
そんな中、俺の隣に座ったのがこの、コンス・アプスーという帝国の男であった。
隣に座るや「酒を一杯」とマスターに頼みそれを私へと差し出した。そして「レイドック様ですね」そう話しかけられたのだ。
聞けば帝国から東側の国情の調査のために来ているという。そして私のこの不遇な状況にひどく怒ってくれたのがきっかけで、帝国への亡命を手配してくれることになった。
最初は迷っていた。この生まれ育った国を、この国の愛する民を見捨てることになるのでは……そんな正義感が私の行動を邪魔していたのだ。私がこの国を正さねば愛する国達が……
そしてその夜、コンスから提示された条件が私を帝国の軍務参謀として迎え入れるという案であった。私は苦渋の決断でコンスに乗ったのだ。すでに王国は帝国に滅ぼされる運命……であれば……
私は参謀としてこの国の民が少しでも助かる道を作れないか模索する、そんな思いで引き受けたのだ。
そして今、やっとの思いで国境の山道を超えたのだ。ここから先は帝国だ。「もう安心です」そう言い放ったコンスの嬉しそうな顔に、私も思わず笑みが漏れてしまう。この男とはどうやら仲良くやっていけそうだ。
そしてコンスが少し歩いたその先に、部下たちを待機させているとのことだった。その話は事実であったようだが、その集団は何やらざわざわと浮足立っていように見えた。
「なにを慌てておるのだ!」
「コ、コンス様!お戻りになられたのですね!じ、実は……」
そしてその集団の一人がコンスに耳打ちをする。コンスは少し戸惑っていたようだ。顔色も悪くなったように見える。本当に大丈夫なのであろうか……
「レ、レイドック様申し訳ありません!本来であればゆっくりと帝国の街並みを楽しみながら帝都まで移動する予定でしたが……火急の案件がございますゆえ、急ぎ我が屋敷まで向かうこととなりました……」
「そうか。何、これからゆっくり観光をすることもあるだろう。私のことは気にするな。よし!では早速出発しようではないか!」
そう言って俺は寛大な態度で用意されていた馬車へと乗り込んでいった。
「うむ。名物の海の幸……食してみたかったがな……」
急ぐ馬車の中、私の思わずでた小さな独り言に、気づくものは誰もいなかった。
お読みいただきありがとうございます。これにて安息と混沌の神編は終了となります。明日も17時に更新。新たに神の子の力編が始まります。
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