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Side:邪神ケーオス
あの女どもと遊んだ後、俺はオケアノス帝国の城の王座に座り考える。周りには多数の血の跡がべったりと残っていた。
当然、やったのはこの俺、王も王妃も王子と呼ばれる男たちも、さらにはそれらを守る騎士と呼ばれる男たちも、その全てを喰らいつくしてやった。これで俺はまた強くなる。
さすが王家の血をひく者たち。
さすが騎士と呼ばれる精鋭たち。
そいつらの素晴らしいスキルを奪い取ることができた俺は、この上ない幸せを感じることができた。アイツも初めからこうしておけば良かったのに……思えばアイツは最後の最後まで甘かった。
せっかく十分に権力を振るえる家に生まれることができたのに、記憶を取り戻し俺と意思の疎通ができるようになった時には、すでに周りからチヤホヤされて浮かれあがっていた。
前世の記憶が戻ってその恨みは消えていなかった様だが、やってることがチマチマしすぎて思わずその場で食い殺してやろうかと思ったぐらいだ。
だが俺はぐっとこらえて我慢した。
全てはこの魂が成熟し、恨みの心が魂全体に染み渡った時、そのすべてを喰らい尽くすことを楽しみにして耐えてきた。
あそこまで我慢した俺を、俺は褒めたたえねばならない。この黒く染まった魂であれば、1年もすれば昔の俺を、いや昔の俺さえ軽く凌駕できるほどの力が手に入れられるかもしれない。
全ては……あのクソ女神たちに復讐するためだ!
まずこの男は、こっそりと家を抜け出しスラム街をうろついた。目当てのスキルを強奪するためだ。使用人や両親から何をしていたのかと聞かれるが、奉仕活動をしていたと嘯いていた。
その言葉にみな関心して褒め称えた。
それで気をよくしたアイツは、満たされた心のままにスラム街を日々放浪しては、目当てのスキルを持った浮浪者共を殺していきながら、その足で恵まれない子供たちにと食料を配って回る活動をしていた。
まだ5歳のガキが人知れず冒険者として活動して、その報酬から人々に奉仕するその姿に、逆に邪神の俺すら畏怖すら覚えた。なんて歪なのだと……
ある日、いつものように徘徊するアイツは、浮浪者の鑑定結果に喜びをあらわにする。その浮浪者の持っているスキルは『暴食』だった。喰らった魔物などの能力を奪うスキル……
強奪とは似て非なるスキル。
強奪は相手を殺してスキルを奪うスキル。
暴食は相手を食ってその能力値を奪うスキルだった。
相性が良すぎる。
その浮浪者を迷わず殺し、暴食のスキルを得たアイツは、そのままその腐りかけたような匂いを放つ男を……頭から喰らいつくした。
喰らいつくしたといっても本当にガブガブと喰っていたわけではない。スキルを発動させた瞬間、アイツからにじみ出た黒い影がそのままその浮浪者を頭から飲み込んでいたのだ。
そして少しだけ上がった自分の能力値にため息をついていた。あまり上がらぬ能力値、当然である。あんな死にかけの浮浪者の能力などたかがしれている。
だが良いスキルだ。俺なら目に見えるすべてを殺し、全てを喰らう。そしてまたより強い者を殺しては喰いと繰り返すだろう。
しかしアイツはそうしなかった。精々森に入って魔物を食いつくす程度。
それでもその暴食スキルは強力で、どんどんその能力を増やしていった。同じ魔物を徹底的に殺すことでスキルも強化されていく。
ワーウルフの大群を殺し、喰らった時には、ワーウルフの『俊足』というスキルが『神脚』という俺も知らないスキルへと化けていた。なんだこれは?どうやら俺が貸している強奪スキルも、こいつにかかれば別の物へと変化したのかもしれない。
しかし、そのまま恨みのままに……己の欲望のままに相手を殺し、成熟した魂へと変化してくれれば良かったのだがアイツは違った。
勇者だなんだともてはやされ、もはや本当に勇者になったように崇められ、12になり帝都一番の教会で行った洗礼の儀では、それこそ本当に勇者認定されてしまった。
「ゼピュロス・バックス様のスキルは……鑑定!鑑定が出ました!」
おお、と響く観衆の声。
「えっなんということだ!アイテムボ……これ以上は視えませんが、おそらくアイテムボックス!それに……なんだこのスキルの数……見えませんが確かに何かたくさんのスキルがあるようで……」
教会内はパニックになるように騒がしくなってくる。まさか今は最初のスキルだけじゃなく、他のスキルもぼんやり分かるようになっていたとは……迂闊ではあった、しかし肝心のスキルの内容が見えないのであれば、問題はなかった。
「勇者様だ!勇者様が降臨なされた!神よ!ああ神よ!」
神父が跪いて祈る。その時のアイツの嬉しそうな顔……俺はすぐにでも殺してやりたくなった。
それからもアイツは遅い歩みで力を付けていった。
だから俺は毎晩アイツに夢を見せる。
仇のジロという名の犬が、アイツを食い殺す悪夢を毎晩……
そして1週間も過ぎた時、目に隈をつくりながらアイツは俺に話しかけてきた。
「おい!あの犬っころは今どこにいる……」
俺は喜ぶ心のままに、あのジロと呼ばれていたあの犬のいる方角を教えてやった。
「本当にこのまま東に飛べばいいんだな?」
『そうだ。細かい方向は途中で教えてやるよ!精々復讐を終わらせて……すっきりするんだな!』
「ああ、ありがとう!全てお前のおかげだ!感謝する!」
そう言って俺にお礼を言いながら屈託のない笑みを浮かべ、『飛行』スキルを発動させて言われた東へと飛び出すアイツの様を見て……笑い死ぬかと思った。
そしてアイツは、俺の指示を素直に聞いてあの場へと降り立った。降りた瞬間、俺の方もびりびりした感覚に少しだけ冷や汗をかく。まあ大したことは無いのだが、聖域となったその場所は、とても居心地が悪かった。
まるでそう、クソ女神のそばにいるような不快感……
それでもアイツは目的を果たすべく動いていた。
実際、簡単に仇が取れるほど強く成熟してきたアイツは、悲願の瞬間その魂を黒く染めあげていく……
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