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いよいよ協議がはじまるようだ。
「まずはご足労いただき感謝する。私がこのディアーナ獣王国の王、レレオ・マールスだ。よろしくたのむ」
そう言うと軽く頭を下げるレレオさん。
「うむ。労いの言葉に感謝を。私が教国イリオスの教主、マアト・イリオスである!また、休息の場を備えてくれたことにも感謝を」
レレオさんと同じように頭を下げるその教主マアト。
「して、その魔王というのは、そちらの女性ということでよろしいのであるな?」
「マリは魔王なんかじゃないにゃ!」
分かっていたことだが、魔王と名指しされたことで私の心臓がビクンと跳ねた。後ろからモモさんが優しく抱きしめてくれる。そして立ち上がったニャルスが叫んでくれたことで、私は少し泣きそうになってしまう。
「私の国の客人、それもこの国の恩人を魔王呼ばわり……いくら同盟国である貴国であろうと、こちらも黙っていられませんな」
レレオさんも怖い顔をしてマアトを睨む。
「ふむ。私が聞いた話ではその女性、マリ殿といったか。魔物を……それも竜すら従わせている聞いているが、それは間違い?ということであるか?」
「我がその竜である!」
マアトの言葉にギンが余計な言葉を口にする。
「ギン?少し黙ってようか?」
「お、おお」
焦りからちょっと強く言ってしまった私だが、ギンはそれ以上はと口をつぐんだようだ。
「やはり、後ろにいるのは魔物……そう思っていいのであるか?」
「そ、そうです。でも……悪い事なんてしません。みんな私を守ってくれるだけなんです!」
私の言葉にマアトさんがこちらを強く睨む。それに呼応するように後ろの兵たちも腰の武器に手をかける。その視線が私に集中する。言いようのない不安に押しつぶされそうになる。
「大丈夫じゃ。ここには皆がいるではないか……」
ふいに耳元で優しく囁かれた。モモさんの優しい声に私はほっと息を吐き出し、私を抱きしめているモモさんの手を上からそっと握りしめた。
「魔物であろうと、後ろに控えておられるのは紛れもないこの獣人国としても恩人……我が国と事を起こす、ということでいいのだな!」
レレオさんが立ち上がると、両脇のニャイダとダルニャも立ち上がる。
「魔物は全て滅するべき!!!」
突然マアトさんが立ち上がり、私を指さしながら大きな声で叫ぶ。その言葉に呼応するように後ろの兵たちは足で地面を踏みしめ、ザッという大きな音がする。ひどく威圧感のあるその雰囲気に心が負けそうになる。
「話し合いなんて通じそうにないよね」
「そうみたいだな」
ジロは笑顔だけど目が笑っていない。クロは本当にイラついている時の顔だ。
「我の!出番のようだ!」
そしてギンが叫びそのまま聖竜の姿へと変わっていく。
『我こそ!聖竜!愚かな人間た痛っ!』
あっけにとられて見ていた私は、高らかに宣言するギンの頭を殴りつけるクロの姿を眺めることになる。
まあそうだよね……服を着たまま元に姿に戻るから……目の前でヒラヒラ舞っていた横紐が上下共々ちぎれちゃってる服を、クロが手早く回収する……って言うかギンの服ってあんな風になってたのか。これ今までも何度か破いたりしてたのかな?
私の頭の中は、服を破いてしまって、しこたまクロに怒られるギンの姿を思い浮かべ、少し笑ってしまった。
「やはり!魔物は人の脅威になるもの!たとえ国を亡ぼすことになろうとも!この命燃え尽きるまで戦うのである!」
マアトさんが腰の剣を抜く。そして後ろの兵たちも歩み寄る。
後ろの方から動かなかったものは魔導士だろうか?小さな杖を構えて準備を整えているようだった。
「私は!この子たちを罪のない人たちにけしかけたりしない!」
「魔物はいるだけで脅威なのだ!」
一方的なその言葉に顔を顰める。
その言葉にギンがその翼を大きく広げ威嚇する。対峙している教国の兵たちの何人かが小さく悲鳴を口にする。
「お前たちの国が、どこかの国に攻め込まれたら……お前はどうするのだ!」
「私は……私の見える範囲で友達が何かされるなら……絶対にゆるしません!それはあなた達も同じですよね!」
マアトさんが何を言っているのか分からない。それは人間であっても同じじゃないか。
ニャルスやニャイダ、ダイやユズたちも「そうにゃ」「そうだ」と口にする。
「では、例えばどこか遠い国同士で争っていたら、どちらかに味方したりはしないのか?」
「へ?」
あまりに可笑しなたとえに混乱してしまい変な声がでた私。周りの獣人たちからも怒号が聞こえる。
「何を言っているんですか!そこに私が、私たちが関与する理由がありません!」
「ではその国の、何も罪がない子供たちが殺されても!お前は関与しないとでも言えるのか?」
だんだんと腹が立ってきた。そろそろジロやレオたちも我慢が限界のように見える。見るからに体の外に魔力が漏れている。
「それは可哀そうとは思います!でもそれが私に、なんの責任があるんですか!」
「可哀そうだと思わないのか?」
「思いますよ当然……」
私の拳に力は入るのが分かる。
「それならあなた達が助けに行けばいいじゃないですか!戦争を止めればいいじゃないですか!なんで私たちにその責任を擦り付けるんですか!」
私のその言葉に辺りが静まり返る。
マアトさんも表情が変わる。何かに気が付いた。そんな表情に見えた。
「金や地位を与えると他国から交渉があったら……どうする?」
「興味……ないです」
マアトが静かに放った質問に、私も落ち着いて答えた。その答えを聞いたマアトは力なくその頭を下げた。
「そう、だな……すまなかった。私は……力あるものは、できる限りのことをするべきだ。それが責務である・私はそう思っていた……」
その言葉と共に後ろを向いたマアトさん。
「力があるのだから、何かするべき。しかし、それを繰り返していたら魔物は、魔王はいずれ世界を支配してしまう……なんとも可笑しな考えであった……
魔王と聞いた時、噂の内容を信じ試行錯誤を繰り返していたら、いつのまにかそのような考えに行きついてしまった。私の魔物を滅するという教えに凝り固まっていた頭が……そうさせたであろう……」
そう言ったマアトさんが、後ろの兵の元へと歩き出し……そして振り返る。
「マリ殿、そしてレレオ殿、後ろにおられる方々も……今日はすまなかった」
そう言ってもう一度頭を下げたマアトさんは再び兵たちの元へ行き、静かに来た道を戻っていくようだった。
私は大きく息を吐き出した時、モモさんは私の頭を「よく言ったの」と優しく撫でてくれた。ふと横を見ると、ニャルスが目に涙をためてこちらを見ていた。そのニャルスに「ありがとね」と言いながら頭を撫でると、そのまま私に飛び込んできたニャルス。
幸いにも倒れ込んだ私の頭は、地面に激突する前にジロとレオが両手でキャッチしてくれた。
レオは「今日はボクの方が早かった!」と胸をはっていた。ジロは「どちらでもいいよ」とあまり気にしていないようだ。
地面に寝転がり、二人に「ありがとう」とお礼を言いながら、抱き着くニャルスの背中を撫でている私の視界に、レレオさんがすまなそうに覗き込む顔が見える。
こんな体制ですみません。娘さんをどうにかしてあげてください。そう心の中で懇願してみたが、その思いはどうやら伝わらなかったようで「色々すまなかったな」と深く頭をさげられただけで、どこかへ行ってしまった。
何はともあれ、無事この事態は話し合いだけで乗り越えられたようなので、目を瞑りしばしニャルスのモフモフを堪能することで心を癒していった。
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