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最後に評価など頂けれは嬉しいです。
いつもの部屋で今後のことをレレオさんたちにも相談した私たち……まさかこんなことになっているとは、思っても見なかった……
「言いづらいのだがな、マリ殿のことが色々とその、誤った形で噂になっているようでな……」
「どんな風に……でしょうか」
なんとなく嫌な予感しかしない私は、恐る恐るレレオさんに確認する。そしてやっぱりね、な話の内容にテーブルに体を預けて思考を止めた。
レレオさんが調べさせた情報によると、レイドックとの協議の場でのことが、おそらく居合わせた兵士達から広がったようで、私のことを『竜使いの魔女』『魔物の女王』『魔王』などなど、様々な通称で呼ばれているのだとか。
そしてそれが商人などから伝わり、この一週間ほどでこの大陸全土に行きわたっているのだと言う。さすが腐っても商業大国アテナイ王国ということか……
「そもそもな、私がそのことを部下たちに調べさせるきっかけになったのが、この手紙なのだ……」
そう言ってレレオさんが懐から出したのは、無駄に立派な金の装飾で飾られた封筒であった。
それから内容を簡単に説明しだしたレレオさん。
宗教国家である『教国イリオス』からの手紙であるという。
内容は簡単に言えば、教国は絶対に魔物を許さない。魔物は滅するべき。魔王が生まれたのであれば、まだ人の身として制御できるうちに、わが国へ引きわたせ。速やかに処分する。そしてその為に近い内、そちらに行くから準備しておけ。
ということらしい。私は魔王だったのか……いやいやみんな、殺気を飛ばすのやめたげて?レレオさんとニャナンさんが抱き合って震えてる。
「と、とにかくその教国の使者かなんかが来るのはいつか決まってるですか?」
「あ、明日だ……」
明日?明日って明日ってこと?
「なんでもっと早く言ってくれないですか……」
「もちろん我が国はきっぱりと断る覚悟だったからな!当然のことだ!だから伝えずとも追い返せばよいと思ってたわけなんだ。だらかその……」
なるほど。伝える必要なかったと。まあその気持ちは嬉しいけどね。
「それは、ありがたいですけど、教国ってレレオさんたちが何とかなるぐらいの規模の国なんですか?」
「いや、我が国どころか王国よりも大きいな」
「じゃ、じゃあ無理じゃないですか!絶対強行してきますよね?そうしたらどうするつもりだったんですか!」
「その時は!獣王国を預かる王として命を懸けて購うつもりだ!」
レレオさんが立ち上がって宣言すると、隣のニャルスもニャイダも立ち上がってうなずいた。
あれ?なんかかなり嬉しい。泣いちゃうから……
「そ、それはその……嬉しいです。嬉しいですけどちゃんと言ってください。私のことは、きっとジロたちが守ってくれますし……」
「当然!」
相変わらずジロをはじめ他のみんなも即答でそれを肯定する。みんな大好き。そしてジロは恥ずかしいので抱き着くのをやめて下さい。
私はジロをやさしく引きはがすと立ち上がる。
「じゃあ、明日に備えて準備を進めているって感じですか?」
「そうだな。隠していてすまんかった。前回の王国との協議の場とは少し離れているが、教国はどうやら山越えでくるそうだから、あの場所と少し離れた場所にすでに場を準備している」
「わかりました。ありがとうございます」
地理的なことは分からないが準備ができているのは理解できた。
私は何をしたら良いか分からないが、何があっても大丈夫なように心を落ち着けるため、レレオさんにお礼を言うといつもの部屋へと戻ってきた。
「ところで、教国ってどこにあるの?」
私はニャルスと一緒に付いてきたニャイダに聞いてみる。
「そうですね。強国は竜王国からは南に位置します。王国からだと西ですね。我々獣王国との間には山脈がありますが、今回はその山道を超えてくるのだとか……本当はどちらかの国を経由して行けば安全なのですが……」
「山道を超えてまで早く来たいってことなのかな?」
「それか、そんな道も軽々走破できるんじゃぞと、自分たちの力を示すため……とも言えるかもしれぬの」
モモさんが補足してくれる。なるほど。戦力の誇示か……
「何はともあれ、今は体を休め明日の協議に備えましょう」
「そうだね」
私はモヤモヤする心をごまかすようにニャルスやモモさん、最近はこの輪に入るようになってきたユズも交え、おしゃれや食べ物の話に熱中した。そして夜はモモさんとユズにくっついて暖かな気持ちで眠るのだった。
◆◇◆◇◆
Side:マアト・イリオス
連日、険しい山道を歩く男たち。
現在の教国の教主、教国イリオスの王と位置づけられている男、マアト・イリオスは顔から噴き出る汗を拭うと、やっと見えてきた獣王国の風景にため息をはく。
「やっとか。それなりに時間がかかったな。皆も大丈夫であるか!」
「はい!使節団213名、全て揃っております!」
「うむ!では行こう!もう少しの辛抱である!」
国の王たるマアトの言葉に後ろに続く者たちも大きな声で返していく。誰もこの山道についての文句は出ない。
それもそのはずである。教主マアトはこの山道であっても常に先頭を黙々と歩き続けていたのだから……
教国では、幼いころから子供達を教会の施設に通わせ、勉学に励み、体を鍛え上げることを良しとしている国である。子供たちは幼い時から国の教えを守り、強く逞しく、そして『魔を全て滅する』という教義を胸に己を鍛え上げるのだ。
そしてその中から、先代が体力の限界として引退を宣言する頃、その時に一番強く、そして心の清らかな男と認められた男が、国名でもある国の祖の名前、イリオスという名を継げるのである。
そんな今代の教主アマトは、歴代最高の体力と複数属性の魔法をも操る優秀な男であった。そんな教会の教えを最も胸に刻み付けた男が、魔王の出現に立ち上がったのは言うまでもない……
きっと私が、魔王を打ち負かすためにこの世に生を受けたのだ……そう思うアマトに迷いはない。
「よし。あと一息である!きっと獣王国の皆様も到着した我々を歓迎してくれるであろう。みな、気合を入よ!」
男たちが声をあげながら足を前に進めていく。
まもなく到着する時、命を賭して交渉し、そして魔王を連れ帰る。
国民の前でその魔王を処刑する……
それが国の安寧にもつながるのだ。
全てはその為だけに皆、進める足に力をこめてその協議の場を目指していく。




