49
ご覧いただきありがとうございます。
最後に評価など頂けれは嬉しいです。
目の前の景色が変わる。
何日かかけて歩いた道をギンが一っ飛び。あっというまにたどり着いていた。
「あっ、あそこが協議の場です!すでに始まっているようです!」
そう言いながら影さんが指さした先をみる。
私の目線にはレレオさんと対峙している男、多分あれがあの皇太子なのだと思った男が腕を高く上げていた。
あれってもしかして……
そして振り下ろされた腕を見て、私は力いっぱい叫んでいた。
「ま、まってーーーーー!」
私が叫ぶ。
ギンはその協議の場の少し上空で浮かんで止まっていた。
「マリーー!」
下からニャルスが元気に手を振っていた。私はみんなの無事な姿に安堵する。
「な、何なんだお前たちは!」
「マ、マリアント!」
私のことが分かっていない皇太子と、こちらを睨みつけながら叫ぶ元姉。よく見るとその横には母だった人もいて大きく口を開いたままたたずんでいた。
「ギン。一回降りよっか」
「うむ」
ゆっくりと降りていくギン。皇太子側の兵がざわついているのを感じた。
獣王国側の獣人たちが歓喜を上げたり膝をつき祈っている者もいた。
「ありがとうギン」
「造作もない」
私が降りると人の姿になるギンは腰に手をあて笑っていた。いや服を着てください。その後ジロがギンに収納から出した服を投げつけていた。
「あの……今どんな感じですか?」
レレオさんに向かって私が質問するが、レレオさんはまだ少し戸惑っているようだった。
「あ、う¨う¨ん!マリ殿か。今ちょうどこやつらに、ニャルスの可愛さを身をもって分からせようとしていたところだ」
咳ばらいをしながら何やら言っているレレオの言葉を、私が理解するのはちょっと無理そうだった。
「パパ!違うにゃ!こいつらが暗殺の責任を擦り付けてマリを帰せって迫ってきてるにゃ!」
なるほど。ニャルスの言葉で察した私は、皇太子に視線を向ける。
「私がマリアントです。そして、そこの二人は母であり姉だった人です。もう私とは無関係の人です。もう家には帰りません。お引き取りを……」
二人を指さし宣言する。
「おお!そなたがマリアント殿か。以前手紙をやり取りしたと思うが、姉君のちょっとしたすれ違いもあってな。内容が一部変えられてしまったのだ!私はそなたを妃にと思っている。私の元に嫁いでもよいということだ!どうであろうか?」
何を言っているんだろう。この国の人は、他人の気持ちを無視するという国民性でもあるのだろうか?
「いや普通にお断りしますけど?」
ため息まじりに返答する私。
「な、なぜだ!私の妃という名誉ある立場に怖気づいてしまったか?それなら遠慮はいらんぞ?」
「いえ、普通にあなたが嫌なので」
私の言葉に悔しそうに地面を蹴り出した皇太子。
「そうか!そっちの獣たちに何やら弱みでも握られておるのだろう?皆の者!マリアント殿を救い出すのだ!まずはそれからだ。じっくり話しさえすれば分かってもらえるであろう!」
そんなことを言う皇太子に反応して、みんなが私の前へ守るように出る。
兵たちはその動きに躊躇して動き出せないようであった。
「レイドック様」
そこへ黒装束を着た影の人が皇太子の横に現れる。あれは皇太子側に使えている、ようは母だった人の実家の影なのだろうか?
何やら耳元で伝言を伝えているようだった。
「な、なに!城が……占拠されただと!どういうことだ!詳しく話せ!」
大声で叫ぶ皇太子。せっかく耳打ちで情報を伝えたのに台無しである。その影さんも呆れているようだった。
「はい。城に集まった民衆により王妃様の護衛に残っていた兵は抑えられ、城が占拠。王妃様は投降し王族としての立場を放棄されました。現在は丁重に保護されているということです」
「な……」
声が出せない様子の皇太子。いや国王になったばかりだった人、といったらいいのかな?
「首謀者は……元S級冒険者、現在は北方の辺境スルーズの領主をしている、エドガー・トレモロスです」
「S級冒険者……き、聞いたことがある……で、私は、私がどうなるのだ?私が王なのだぞ?」
「それは……わかりかねます……」
そりゃあ影さんには分からないよね。狼狽えるその男を見てどう扱ったら良いのか分からないのは、私も同じであった。いっそこのまま帰ってくれないかな……
「あの、一旦帰っては?」
「むっ、そ、そうだな!そうだそうしよう!皆の者!一旦城に戻るのだ!狂った国民たちを正すのだ!正義は我にあり!」
私の言葉に叫びながらドスドスと歩いて離れていくレイドックという男を見ながら、なんとかなったのかな?と思いながら胸を撫でおろす。また戻ってこないか心配ではあるが……
「マリアント様。エドガー様より伝令があります」
私はまたも突然かけられた声に小さく悲鳴を上げた。
「驚かせてしまいましたね。すみません。エドガー様より、しばらくはエドガー様自身が国主となって平定に向け動くとのことです。しばらくして落ち着けば民主国家として議会を作りあとは国民に任せるとのことでした」
「な、なるほど」
「落ち着きましたら何時でも戻っていらしてください。と申しつけられております」
「ありがとうございます。いずれ機会があれば、とお伝えください」
私の言葉を聞くと、軽く会釈をしたその影さんは、また霧のように姿が消えていく。
「では、私も役目は終わったようですので……お世話になりました」
そういって一緒にきた影さんの方も消えていった。
なんだか怒涛の展開すぎて付いていけない私。そこへ突然体に衝撃をうけさらに驚いてしまう。
「マリー!会いたかったにゃー!」
「ニャ、ニャルス!私も会いたかったよ!ごめんね私のことで迷惑をかけて!」
少し涙目で抱き着いてきたニャルスを見て、私も少し涙腺がゆるむのを感じながら強く抱き合った。




