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Side:モモ
竜人国へと向かう道。
魔物たちは他の者に任せておけばよい。そう感じたワラワは、今までのことを色々と思い耽る時間ができた。
思えば5本に増えたワラワの自慢の尾。マリネエからもらった『モモ』という名に相応しいうっすらと桃色をした上品な毛並み。湯に入るたびにマリネエが率先して手入れをしてくれているため、自分でもほれぼれする色艶。
これにはコガネも常日頃から釘付けになっておる自慢の尾。
そしてマリネエと過ごした温かい日々。それはワラワにとってもかけがえのない日々であった。
何より彼女は、ワラワを姉のように、いや母の様に、そう思えるほどによく甘えてくることが多々あった。もちろんワラワもそれを快く思って受け止めている。
まあ、百年ちょっと生きておるワラワからみて、十を少し過ぎた程度の人族の娘。可愛いもの。思う存分甘やかしても罰は当たらぬであろう。
しかしあれの親もあのような齢で一人放り出すとは、まったく人族とは分からないものじゃ。獣でさえある程度自立できるまでは、色々と面倒を見ているというのに……獣以下のマリネエの両親に軽く怒りが込み上げる。
思い返せばワラワも優しいチチハハに守られ、暖かな毎日を過ごしておったのを覚えておる。
あの森の中、チチハハと三匹でそれなりにのんびりと暮らしておった。今思うとそれなりに楽しい毎日であったのじゃが……その生活も、森の中に生息する魔物たちに壊されてしもうた。
チチハハもワラワを守るため、大型の熊の魔物と戦い敗れ、殺されておるしの……
その後、傷つきながらも逃げのびた先で、出会うたのがコガネであった。まあその時は名もなき狐であったのじゃが……
美しく黄金色に輝く毛並み、2つに分かれた力強い尾。当時のワラワはただの狐。尾はひとつしかなかったのだから、少し恥ずかしい思いを抱いておったやもしれぬの……
そんなワラワの傷を心配し『大丈夫か?』と声を掛けられた時は驚いたもんじゃ。まさかしゃべれる獣がいるとは、その時は想像もしておらぬことじゃったからの……
それからの日々は楽しきものじゃった。
ケガを癒す間は甲斐甲斐しくもコガネが獲物を取ってはワラワに貢いでくれておった。あの時から、ワラワはコガネに惚れておったようじゃ。特に大きな魔物と呼ばれる存在に、氷のつぶてを飛ばす姿には憧れすら感じておった。
それからしばらくして、ワラワも尾が二つに分かれしゃべることもできるようになった。それと同時に草木を操る力にも目覚めた。
これでワラワもコガネと対等に成れた。そう思った時にはコガネの尾は3つに分かれ、また先を行かれてしまったことを実感してしもうた。
それからはコガネと愛を深め二人の子も成せた。
これから白虎や大蜘蛛、魔狼ともそれなりに仲良くなれたと思っておったのじゃが……まさか人の形となって共に旅をすることなど……この世は分らぬものじゃ。
ワラワ達を人の形へと変化させた張本人、マリネエはとても弱々しく、そして反面、心に強い芯をもっておった。
人の人生は100年にも満たないという。魔物となったワラワ達はあと数百年は生きるであろう。せめて共にいられる内は、精々守ってあげたいものじゃ……いや、ともに暮らし、楽しみたい。というのが本音かの……
「モモさん、さっきから黙ってどうしたの?調子悪い?」
思いに耽っているとそのマリネエがワラワの顔を心配そうに覗き込む。
「なに。少しばかり考え事をしていただけじゃ。マリネエこそ足元に気を付けるのじゃぞ?」
「えっうん。大丈夫だよ。最近肉体強化が便利すぎるからね。少しぐらいバランスくずしても転ばない自信はあるよ」
そういって笑うマリネエを見ながら、できればその笑顔を守っていきたい。そう思うワラワであった……
Side:マリアント
3日ほどの道のりを歩き続けた私たち。
山沿いの森を抜けると、大きな道が出現する。
その道の先、遥か遠くには堅牢な砦のようなものが見えた。その手前には沢山の建物が建ち並んでいる。あれがエーリュシオン竜人国なのだろう。
「あの一番奥の砦みたいなところが、聖竜様がいらっしゃる場所でいいのかな?」
「そうみたいだね」
ジロが私の言葉を肯定する。
「あそこでいつも寝てるんでしょ?いい身分だね。ボクもそんな生活してみたい」
「黙って寝てるだけの生活じゃつまらないって逃げ出しちゃうんじゃない?」
「もちろん!あっでもマリ姉ちゃんがずっとそばにいてくれるなら、ボク、ずっと寝て暮らしたいな!」
レオの返事に私も笑う。
まずは砦にいるという長老さんと聖竜様に会って、獣王様から預かっている紹介状を渡さなきゃ。
いよいよ見えた新たな国を目前に、気持ちが盛り上がってくるのを感じた私は、その軽くなった足取りをどんどん前へと進めていくのだった。
Side:グリーンヒル・レイドック
アテナイ王国、王城の一室。
「くそっ!あの王はもうだめだ!愚民どもに振り回され、私を冷遇し、あまつさえ幽閉して王位継承権をはく奪しようとするなどと……許されることではない!」
「レイドック様、お声が……」
父である王から謹慎を言い渡されているレイドックの元へ、訪ねてきていたのはマリアントの母、アールグレイ・ローズマリであった。
「ええい!うるさい!多少声が聞こえたところで、そんなことを告げ口する愚か者がいるのであれば……私が王となった時には一掃しなくてはならんからな……それはみな、わかっているのだろう?」
そう言いながら、周りにいる世話係などに睨みを利かせるレイドック。
「そもそも、お前がちゃんとあの女とその従僕どもを連れてこないのが悪いのではないか?」
「そ、それはもう……今、新たに人を増やし次こそは必ず成果を持ち帰るように動いておりますゆえ……」
苦虫をつぶしたように顔をゆがめるレイドックであったが、目の前でうつむいたローズマリが、その顔をレイドック以上にゆがませ、歯を食いしばりマリアントへの恨みを募らせていることを、知ることはできなかった。
「そうだ……あの女は獣王国にいたのだろう?なら面白いことを思いついた。よし!協力しろ!あの女よりもまずは王、いやあの愚かな父、アガメムを殺すんだ!」
「えっ……」
「なんだ、私が王になれなければお前を終わりだ。わかったらさっさと殺せ!お前の家の得意分野であろう?早急にな……まずはそれからだ」
「は、はいっ仰せのままに……」
そういって部屋を出たローズマリ。まずいことになった。こんなはずではなかった。そういった思いが次々に頭の中に浮かんでは消えていった。
そしてその怒りや不安の矛先は、やはり全てが娘、マリアントへと向かっていく。
「まずは王を殺し……そしてマリアントも……殺す!」
醜く顔をゆがませる。そんなローズマリは屋敷に戻ると、手駒の影に国王暗殺という愚かな指令を出すのであった。
お読みいただきありがとうございます。これにてディアーナ獣王国編は終了となります。明日より『エーリュシオン竜人国編』を17時から更新となります。
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