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本日一回目。夜にも更新します。
最後に評価など頂けれは嬉しいです。
「よし!このまま進め!目的地は近い!」
フルプレートの鎧を着こんだ男が兵たちに声を飛ばす。その隊は一糸乱れぬ隊列を組み、森の魔物たちを退けていった。
「アッサム様、間もなく目的の洞窟のようです」
「やっとか……待たせおって」
アッサム侯爵家の私兵によるマリアント奪還作戦であった。当然のように当のハイデリッヒは兵たちに担がれている篭に座り、早くしろ、熱いなんとかしろ、尻がいたい……担いでいる兵士たちのストレスが上がっていく。
「よし!あれに見えるが目的の洞窟!皆の者、手はず通りに準備を急げ!」
男の指示に掛け声を上げながら準備を進める兵たち。そしてその太やかな脂肪溢れる体で篭から降りるハイデリッヒは、少し離れた位置に見える洞窟を見つめていた。その顔はこれから奪還するであろうあの美しい女性を思い、歪んでいた。
◆◇◆◇◆
「マリ姉、またなんかきた……」
「私も聞こえた……また来たのかな。ごめんね、なんか嫌になるね……」
「おぬしが気にする必要はなかろう。それに声が前回とはちと違うようじゃのう」
ジロの言葉に何とも言えない気持ちになって謝るが、それをモモさんは優しく否定してくれた。というか違うの?実家がらみじゃないの?そう思いながら見ていると、前回と同じように外へ歩き出したジロ。
加えてクロとコガネさん、今回はレオも後ろからついていった。
前回は外で遊んでいたダイとユズも、今回はモモさんにくっついている。
みんな強いし……大丈夫だよね?不安を感じながら待つ。大勢の人が叫ぶ声も聞こえた。モモさんは「大丈夫じゃ」と優しく抱きしめてくれた。大丈夫!きっと大丈夫!そう思って待つ。
「くっ、モモ!頼む!マリを守れ!」
コガネさんのその声と共に洞窟内にその本人が飛ばされてくる。「なんじゃ!」というモモさんの驚きの声が私の頭上で聞こえる。そして私を守るように前方に木の柵が生えてくる。
私は怯えながらも目の前の柵の隙間からコガネさんの方を見ると、ケガなどはしていないようではあったが、いつも余裕の表情しか浮かべていないコガネさんがかなり悔しそうに顔をゆがめていた。そしてまた怒号が聞こえる。
「ダイとユズは奥へ……」
そばにいたダイとユズはコクリと頷くと洞窟の奥へと走っていった。万が一があっては困るからであろう。洞窟の奥であれば人間が入ってこれない細い穴も無数にある。
そして少しだけホッとした後、さらに大きな声が聞こえた。
「突撃ーーー!」
その声と共に多数の鎧を着こんだ兵士が洞窟入り口に集結した。ジロにクロ、レオもそれを押しとどめようとしているのだが押し戻されてしまっているようだ。
モモさんがさらに木の柵を増やし四方を覆っていく。
「モモさん!ここから出して!きっと私が目的!私が出ていけばきっと大丈夫!」
「何をバカなことをいっておるんじゃ!」
私の懇願はモモさんが見たことのない怒りの表情で却下された。それでも諦めきれずにお願いを繰り返す私に、モモさんは優しく「大丈夫」と繰り返した。
「マリアント様、お迎えにあがりました!」
そんな言葉を発しながら現れたのは、以前ぶつかったあの貴族っぽい男、ふてぶてしい体に嫌悪感しかわかない醜態な顔……その男が今、私に向けていやらしい笑みを向けながら、洞窟の入り口からこちらへ歩いてやってきた……
「マ、マリ姉!逃げて!魔法が、使えないんだ!」
驚く私。ジロの言葉通りだったようで、近づいてきたその男の歩みに合わせ、モモさんの木の結界が消えていった……
「なぜじゃ!ええい、なぜ魔法がつかえぬ!」
私を後ろに匿うと、モモさんは指先の爪を伸ばし近づく男を威嚇していた。
「おお!マリアント様も素敵ですがこちらの獣人も中々良い見目をしている……一緒にワシが飼ってあげましょう!」
「モモ!逃げろ!やめろこのデブ!」
恐ろしいことを言い放つ男に、コガネさんがいつもと違う口調で叫んでいた。その体は複数の兵に押さえつけられていた。
「この錫杖は本当に便利です……マリアント様、やっとお救いすることができます。御父上もさぞかし喜ばれることでしょう」
「私を救いたいなら今すぐ出てって!私はここが、みんなと一緒に暮らすのが一番幸せなの!あなたの物になるなんて絶対にいやっ!」
ガチガチと震える恐怖をこらえながらもなんとか言い返してみる私に、その男はニタリと顔をゆがめた。
「ワシはね、こう見てても侯爵。アッサム・ハイデリッヒというものです。あなたの御父上と同じ侯爵家の当主ですよ。それでも苦労しました。この錫杖は魔消石と呼ばれる貴重な石を使っておりましてな……」
ハイデリッヒは錫杖の頭にある大きな石を可愛がるように撫でる。
「この錫杖は魔法を消すんですよ……それだけで国が買えるほどの金額、それを今回持ってきたのだ……ワシのあなたにかける思いが分かっていただけたかな?」
そういって私に近づく。モモさんが飛び掛かるが両脇から出てきた兵士がそれを押さえつける。4人がかりでモモさんは組み敷かれてしまった。
「やめて!モモさんに乱暴しないで!」
半狂乱になりながら叫ぶ私。モモさんをなんとか助けようと兵士の一人を引きはがすように力をこめた。まったくびくともしない。それどころか別に出てきた兵士に腕をつかまれ地面に押さえつけられてしまう。
「おい!ワシの可愛いお嫁さんに勝手に触れるんじゃない!」
「はっ!失礼いたしました!」
ハイデリッヒの言葉に私から離れる兵士。
そして目の前にはすでにそのハイデリッヒは立っていた。
恐怖と嫌悪感で鳥肌が立つ。だが体は動かない。ここに来て足がすくんでしまったのだ。なんという非力……自分がなさけなくなり涙があふれる……遠くの方でみんなが何かいっている気がする。
でももう何も聞こえない。そして私は……
「私はあなたのお嫁さんになります……だからもう……みんなにひどいことはしないで……」
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