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最後に評価など頂けれは嬉しいです。
さらに時は過ぎてゆく。
平和な日々のなんと素晴らしい事か……
ニャルスたちの子供を見て覚悟を決めなきゃと悩んでいた私……どうしたら良いのか右往左往したこの半年ちょっと。その結果は精々スキンシップが増えたかな?という程度にとどまっていた。
モモさんにそれとなく相談したのだが「そんなものは勢いじゃ!ガバっと行って乳繰り合えば良いであろう!」とあまり参考にならない。
そして私は……アッシュールさんに相談した。いや、あろうことかアッシュールさんに相談してしまったのだ。相談を持ち掛けた時のあの邪悪な笑顔を私は忘れることはないだろう……
「まあ、それはそれとして……マリちゃんにはおつかいを頼みたいの。ジロと一緒にね!」
「それはそれとして、じゃないですよね?やめてよその笑顔、怖いよ?」
私は必死で抵抗した。絶対何か企んでいる。
「いいからいいから!それとも日頃からお世話になってる私に、マリちゃんは簡単なおつかいもしてくれないの?私泣いちゃうわよ?」
「えっ?いや、ちょっと、泣いちゃうとかめっちゃ笑顔じゃないですか!」
結局私は「いいからいいから」を壊れたレコードのように繰り返すアッシュールさんに押し切られ、この世界の管理者の一人、いや一匹?まあいいや。そんな火竜様にご挨拶するという名目で手紙を持たされ送り出された。
「なぜギンで一っ飛びではダメなの!」と抗議しても「それはそれ!これはこれ!」と意味不明の回答しか返ってこないまま、他の面々にも笑顔で見送られジロとの二人旅が始まった。
向かうは西の山奥。
そこにある火竜の住み家、火の祠。
二人の足ならおよそ1週間という道のりであった。
ギンなら半日たたずに到着するのになんと無駄なことを!と思ってはいるが、密かにこの旅でなんとなくそんな雰囲気になって、極々自然にそんなこともあるかも?と複雑な心境で旅は始まった。
その道のりは平和そのものであった。
お互い物資は十分に自身の収納に確保してある。
夜はジロが特大のテントを出して眠るのだ。もちろん二人旅だというのを良いことに、抱き合って日夜励む……なんてことはあるはずもなく、あるのは主と従者の旅風景と言ったところである。
二人の、特にジロの強者としての何かを感じてかわ分からないが、夜間の魔物の襲撃も一切なくクロ作の極上布団に包まれぐっすり眠り、朝起きればジロがスープとパンを日替わりで準備してくれる。
肉体強化された体は、道中いくら走っていてもまったく疲れずどんどん目的地へと進んでいくことができた。
邪神との戦いですっかりパワーアップした自身の肉体にほれぼれする。もはや私は人間をやめたのかもしれない……と思ったが自分がハイエルフだったことを思い出す。
そんな何事もなかった旅は終わりを告げる。
順調に行き過ぎた旅は5日ほどで終わり、無事その火の祠へとたどり着いた。この旅でまた少しだけスキンシップが増えた程度の成果しか上げられなかった私は、まあ帰ってからちょっとづつで良いか、そう思っていた。
「ここが、火竜様の居る火の祠でいいんだよね?」
「多分そうだよ。すごく強い存在を感じる」
ジロの言葉に私も同意する。強い何かの存在は私もすでに感じることができている。ギンから感じるのほほんとした力とは違い、ピリピリした力強い何か……ちょっと不安をあるが……
「じゃあ、行こうか。アッシュールさんの話では心配しなくても気はいい奴って言ってたし……」
「うん!大丈夫!何があってもマリ姉は守るから!」
そして私はその祠と思われる洞窟へと足を踏み入れた。
『アッシュールの匂いがする!』
「ひっ!」
中に入ってすぐ、突然かけられた言葉にびびる私。ジロが私の前に立って身構えていた。
のそのそとこちらに近づいてきたその存在は……真っ赤な鱗が煌めくこれぞ火竜だ!と言わざる得ない鱗をもった、小さな竜だった。あれ?ちっちゃくない?と拍子抜けしたのだが、そこから感じる力強い魂は間違いなく強者なのだろう。
多分邪神よりも強い魂の輝きに、一瞬、火竜様に任せたら邪神倒せたのでは?と思ってしまうが、魂の強さと戦う強さは比例しないのは知っている。なんなら私の魂は今やジロの3倍ぐらい大きい。だがジロに勝てる気はしない。
そんなことを考えている間にその火竜様はすぐ近くまでたどり着き、なにやら鼻をスンスンさせている。私は慌ててアッシュールさんから預かった手紙を手渡した。
『わーありがとう!今、読んでいい?』
「ど、どうぞ」
拍子抜けする可愛さである。ちょっと飼いたい。手紙を持ちながら小首を傾げて尋ねてくる様は、心に何かキュンとくるものがある。思わずその鱗にふれ、なでる……魔力が流れてゆく……
そして私は、多少のやらかし感を感じながらもそのひんやりとした鱗の感触を堪能しつつ、撫でまわし始めた。
『じゃあ、君がマリちゃんでいいのかな?』
「はい。マリです。よろしくお願いします、火竜様」
『じゃあ君がジロくん?』
「うん。僕はジロだよ」
目を少し細めて気持ちよさそうな火竜様の質問に答え、私たちの自己紹介は終わった。一旦手紙には何が書いてあるのか……
『長い間、一人でヒマしてたんだよねー。嬉しいなー。3日間よろしくね。マリちゃん。ジロくん』
「えっ、あのー火竜様?私たちその手紙の内容もお会いしてやることも何もアッシュールさんに聞いてないんですけど、説明頂いても良いですか?」
『えっ?そうなの?酷い話だね?』
「そうなんです!酷い奴なんです!」
私は拳を握って火竜様に合意する。
『とりあえず3日間、僕の遊び相手になるって書いてあるよ。あと邪神倒したから加護を与えてほしいって書いてある』
「な、なるほど……遊び相手はいいですけど、火竜様の加護ってどうなるんですか?」
『うーんとね、良く分からないけど病気とかになりにくくなるって言ってたよ?』
「それは、嬉しいです」
なにげに嬉しい。まあアッシュールさんなりのお礼なのかな?いや絶対なにか企んでそうなんだけどね。
「他には何か書いてなかったですか?」
『いや、べべべべつにぃ?なにもないよ?』
これは絶対何か書いてあるやつだよね?
「火竜様?全部話しちゃってもいいんですよ?」
『なにも、なにもないよ!大丈夫だよ?僕はこう見えても火竜さ!人間に危害は加えない管理者様なんだよ?ホントだよ?』
私は白いオーラで火竜様を包み込んで篭絡をこころみたが、あまり効果はかなった。アッシュールさんの悪だくみを隠しているということは分かっているのだが……
「じゃあ、3日間よろしくお願いします」
『うん!任せてよ!』
そして始まった火竜さんと遊び三昧の日々。
その日はお昼前についたこともあり、まずは昼食ということであらかじめ確認して「全然気にしないよ?」というお墨付きを頂いたので、竜肉を出してステーキから振舞った。出会いの記念というやつだ。
竜と一緒に食べる竜肉は美味しかった。そういえばギンも竜だったと思い出すが、それはそれ、であった。
お腹を満たした後は、近くにある川へと行き水浴び。ばしゃばしゃとはしゃぐ火竜様と一緒に大量の水をかけあう。まあ私たちがやりあえば本気をださなくても津波のような波をぶつけ合う災害のような状況にはなったが……
子供のようにはしゃぐ火竜様。というかまんま子供に見える。動きも話もまんま子供……堪えきれなくなって聞いてみた。
「火竜様はどれぐらいから生きてるんですか?」
人間とは違う長命と思われる存在にはどうやって年を聞こうか考えてしまった私は質問が何かおかしい。それは自分でもわかってはいるが竜に「何歳ですか?」はおかしいはずだ。
『この世界が生まれた時からだから……よくわかんない!』
なるほど、ギンと同じ年か……
疑問はなんとなく解消されたということで、ひたすら遊びに没頭する作業に戻った私。疲れない体を手にした私も、気疲れという心の疲弊を若干感じていた。一体いつまでこの水遊びを続ければいいのか……
それが終わったのは日も沈みかけ、そろそろ夕ご飯では?という時間になってからである。
明日も17時更新となります。
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