063-シークトリア軍第二ステーション
実験艦隊は、シークトリア軍第二ステーションへと入港した。
惑星の陰に隠れて見えなかったが、実際の大きさは最早月と然程変わらず、その周囲を多数の巡洋艦や小型、中型艦が巡回していた。
『モノモノしいな』
「ええ」
クロノス内部にて待機を命じられた私は、艦の外部カメラをハッキングしたクロノスと一緒に外を見ていた。
「ここは最終防衛ラインに当たります。.....気付いていましたか? 惑星への突入ルートにはすべて、ステーションが存在しています....加えて、シークトリア本星中心に、空間座標ジャミングが掛けられています」
『つまり.....?』
「実質的なワープ妨害ですね、正確な座標データがあればワープができますが、それを知らなければ突撃以外に選択肢はありません」
ワープをする際は、空間座標を現座標からジャンプ先にロックし、その座標を固定してから行うのが一般的だ。
ジャミングされている状態だと正しくワープが出来ない事が多く、軍用機の場合は正確な座標がないとワープすらできないようになっている。
『スゲーな! それがあれば.....』
「言っておきますが、ワープ妨害は次元干渉型の方が有効です。それを永続させるのが難しいために、このシステムが採用されているようです」
『.....だよな』
次元干渉型は緊急ワープなどにも影響を及ぼすうえ、エネルギー消費も部品の損耗も激しい。
だからこそ、こういった手段を取らざるを得ないのだろう。
「着艦します、衝撃に備えてください」
『どちらかと言うと、衝撃に備えるのはお前じゃね?』
「ええ、そうですね」
ステーション内に船が入り、慣性制御の主導権がステーション側に移る。
コックピット内部にも影響が及び、現在慣性制御ユニットを外している私は一瞬浮遊感を覚えた。
『これから、どうするんだ?』
「メインの交渉などは、ジェシカ大尉が主導で進めてくれるようです。私はあくまで戦闘アナライザーの役目ですから、交渉には向いていません」
AIだから交渉も出来るよな、やれ....みたいな事を言われなくてよかった。
この国はアンドロイドやロボットは何らかの理由で通常より酷く差別されているから、私たちもきっとこれから沢山の悪意に晒されることになるはずだ。
『じゃあ、基本は艦内で待ちか?』
「ええ....ただ、実験旗艦はもうこれからの行動において使用しないそうなので、艦内にいられると困るそうです」
『定期メンテナンスはいいのか?』
「今は義体に異常が生じても、クロノスのサーバー機能を借りて私の意識を維持することが可能なので、特に問題ないようです」
『そうか......じゃあ、ずっと一緒だな』
「はい」
私は頷いたのだった。
同時刻。
ジェシカはラウド、ハーデンを伴って退艦する。
艦の側面に取り付けられたタラップを降りて、その先で待つ人の前まで歩く。
「マクシミリアン少佐、お忙しい中の歓迎ありがとうございます」
「なに、後方勤務で暇をしているよ。この退屈な職場に新しい風を吹かせてくれることを願っている」
その時、ジェシカの携帯端末が振動する。
ジェシカが端末を起動すると、画面にシークトリア合衆国宇宙軍のロゴが映った。
『ようこそ、シークトリア宇宙軍ステーションへ。ワタシの名前はシークトリア宇宙軍第二ステーション管理AI〈NY-X〉。シークトリア宇宙軍第一ステーションの管理AI、〈HEM-ERA〉と連携する軍用ネットワーク管理システムでもあります』
シークトリアの南極に存在する、かつての戦争で人類が資源を求めた「夢の虚穴」に建設されたという超巨大なサーバーをメインの集積所として、シークトリア領域全体のネットワークを二体だけで管理する。
それが、この太陽と月のようにシークトリア本星を取り囲む二基のステーションのもう一つの役目であった。
『今ステーションの施設を…』
「構いません、何度も訪れていますから」
『分かりました、何かお困りのことがあれば本端末を起動し、アプリケーションからお呼びください』
「ええ」
ジェシカは機械的に頷く。
嫌っているかのような振る舞いだが、相手には感情がないことを理解しているからこそ、ぞんざいにあしらっているのだ。
クラヴィスとは違い、A-PEXと同じように感情があるように見えるだけのAIなのだ。
「少佐、行きましょう」
「ああ、勿論だとも」
ジェシカとマクシミリアンは長い通路を歩く。
通路に時折ある窓からは、ドック内部が見えており、巨大な船が何隻も並んでいる。
「どうだったかね、あの秘密兵器は」
「ええ、最終的には成功でしたが…同時に、大きな危険性を孕んでしまいました」
「報告は聞いているよ、人間性を獲得したという話をね」
少佐は頷く。
そして、言った。
「それは別に構わないよ、人的被害を出さずにあのじゃじゃ馬を乗りこなせるならね」
「………はい」
ジェシカは頷く。
クロノスの秘密を知っているが故に。
「ただ、これ以上暴走するようなら…わかるね?」
「はい」
ジェシカは頷く。
ただ、心のどこかで軍人らしくない主張が声を上げる。
あの二人を引き裂いてもいいのだろうかと。
「君は…随分と、人間らしくなったようだね」
「!」
ジェシカは顔を上げる。
マクシミリアンは振り向いていないが、その表情は笑みだろうか、怒りだろうか?
疑問に思うジェシカに、マクシミリアンは言った。
「あの機械に絆されたかな? 君も同じようなものだからと、共感でも?」
「…っ、何が言いたいのですか?」
「いや、別に? ただ…君は成長したね、と言いたかっただけだよ。」
少佐はそれだけ言うと、立ち止まる。
「司令部へのアクセス権限はすでに与えてある、報告は君が自分の口でするといい」
「ありがとうございます」
二人の目の前には中央エレベーターがある。
これで司令部まで上がるのだ。
「私はね、君の過去を掘り返して嘲笑する気持ちは全くないんだ」
「えっ?」
ジェシカがエレベーターに乗った時、マクシミリアンはふと呟いた。
咄嗟に対応できず、呆けた声を出したジェシカに、マクシミリアンは続けた。
「ただ…覚えておいてほしいな、君が君の道を外れ、あの機械に絆されるようなことがあれば、きっと君の人生は不幸になる。それを忘れないで」
「…………は、ぃ」
ジェシカが頷く前に、ドアが閉まった。
そして、駆動音と共にエレベーターは上へ上へと上がっていくのだった。
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