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12.待てない

 

 映画を観終え、秋はソファーから立ち上がって伸びをする。


「けっこう面白かったな」


「そうですね」


 同意を求められ肯定した夏であるが、映画の内容はまったく頭に入っていない。

 それでもカップル専用と名のつく場所で秋とイチャつけた(と思っている)夏はおおむね満足していた。

 だが、待てを命じられたままではいられないのが夏である。


「……秋さん、ずっと座りっぱなしで疲れたでしょう。静かで落ち着ける所に行きませんか?」


「んー? まぁ、飯食ったらそうするか」


 秋の返事を聞き、すかさずスマホを取り出して何処かに電話をしだした夏。

 たぶんろくな事は考えてないだろうと思いながらもお腹が空いたので、秋は夏を止めることなく映画館を出た。


 やたら高そうなレストランに行こうとする夏を「回転寿司が食べたい」の一言で変更させる。

 ショピングモールに入った回転寿司で腹を満たし、店を出た所で夏から手を引かれた。


「これからどこ行くんだ?」


「落ち着ける場所です」


「ふーん」


 いい笑顔の夏から秋は何となく察しがつくが、今更拒絶するのもおかしい気がして黙って歩きだす。

 そんな二人を愉快な声が呼び止めた。


「あれあれあれー? 夏くんじゃーん。相変わらず金魚のフンしてんだな」


「……ピーマンが食べられないたっくんか」


「食えるわアホっ!」


「そうだぞ! 今日だってピーマンが食べられる事を俺たちにアピールする為にわざわざ肉詰めピーマンを目の前でだなぁ!」


「てめぇらはちょっと黙ってろっ!!」


 相変わらず不良風を吹かせた男達がヘラヘラと笑いながら近づいてきた。すぐに夏に返り討ちにあっていたが。

 そんな彼らは一通り内輪揉めを終え、改めてたっくんが夏に向き合う。


「そんで? 休みの日までその男にへこへこ頭下げてんのかよ? 狂犬が情けねぇな」


「たっくんには関係ないだろ」


「たっくんじゃねぇ龍也だっ!! テメェ今まで俺の名前呼んだ事ないくせにここぞとばかり呼ぶんじゃねぇぞ!!」


「わめくなたっくん」


 あぁ、またとんでもなくくだらない言い争いが始まった。

 夏の隣で人知れずため息を吐く秋であったが、秋はこのくだらない争いを止める術を持ち合わせていた。


「──クシュンっ……」


「っ!? すみません秋さん! ここエアコン効きすぎですよね! そろそろ行きましょう!」


 世界よりも何よりも秋を優先する夏が、秋のくしゃみを聞いて黙っているはずが無い。

 瞬時に秋に振り返り、温めるように肩を抱いて立ち去ろうとする。


「おい待てやっ!」


 しかしやはり黙っていない、たっくん改め龍也と愉快な仲間たち。

 そんな彼らに振り返った夏は、珍しく声を荒らげた。


「黙れキサマ! 今秋さんがくしゃみをしたのが見えなかったのか!」


「はぁ? いや見えたけど……。何だそいつそんなに体調悪いのかよ」


 秋以外の人物には淡々としている夏があまりにも感情をぶつけてくるものだから、男達は戸惑う。


「バカかお前は、俺が完璧に体調管理をしているんだ。くしゃみごときで滅多な事を言うな殺すぞ」


「いやお前言ってる事破茶滅茶だからなっ!?」


 確かに……と今回ばかりは男達に同意した秋であったが、夏のヒートアップは収まらない。

 いつになく饒舌な夏に怯む男達に、夏はさらに爆弾発言を落とした。


「黙れ。今から俺と秋さんは誰もいない静かな場所でイチャイチャしに行くんだから邪魔するな」


「ぶっ……!」


 秋に対しても爆弾だった。


「は、え……?」


「ぐぉっ……ぅっ」


 最初の戸惑いの声は龍也たち。最後のうめき声は夏のものである。

 秋が思いっきり夏のみぞおちを殴ったからだ。


「あー……悪いなウチの夏が。俺たちはもう帰るだけだからまたな」


 そう言い残し、うずくまる夏を無理やり立たせて引きずるように立ち去る。そんな二人を男達は唖然としながら見送った。

 良かったこれ以上絡まれなくて。深く突っ込まれたら目にも当てられない状況になるところだった。


 しばらく歩き、ショピングモールを出た頃には夏は復活していた。

 そんな夏を、秋は睨む。


「お前ねぇ、だれ彼かまわずあけすけな事言うんじゃねぇよ。しかもイチャイチャってなんだ。休みに行くっつったろ」


「……すみません。もっと秋さんと付き合っている事を自慢したくて」


「なんの自慢になるっつーんだ……それに俺はな、俺たちの恋人事情は二人だけの秘密ってほうが好きだけど?」


「っ! そ、そうですね!」


 叱られてしょぼくれていた夏だが、秋の言葉に瞬時に目を輝かせて秋の両手を握った。

 そんなあけすけな夏の態度に苦笑いを浮かるが、ぶんぶんと尻尾を振る幻覚でも見えそうな夏に、これ以上の事は言えなかった。

 秋の手を引く夏は嬉しそうな笑顔のままタクシーを止め、10分も経たずに着いた先はホテル。


「……ここなら歩いて来れば良かったな」


「お疲れの秋さんをこれ以上疲れさせるわけにはいきません」


 予想通りの目的地。少し予想外だったのは、秋が思っていたより高そうなホテルだった事だ。

 なれた様子でフロントで手続きをしてカードキーを受け取った夏が、秋をエレベーターへと促す。


「高いんじゃねぇのここ?」


「俺のポケットマネーですから気にしないでください」


「いやでも、休むだけならそこらへんの安いホテルで良かったのに……」


 ラブホとか……とまでは口には出さないが、どうせヤるのが目的なのだろう。だったらこんな高そうなホテルを取る必要は無い。

 静かな場所で休むと言っていたが、目的は明らかだ。ずっと自分を見つめる夏の瞳に熱がこもっていたから。

 そんな思いを含めて夏を見るが、


「そんな粗末な所に秋さんを連れていけません」


 と真剣な顔で返された。


「ソファーから床に落ちてもそのまま眠り続ける男に言う台詞じゃねーな」


 そんな会話をしながらエレベーターに乗ると、押されたボタンは16。

 ぐんぐん上がって到着した16階。部屋に入れば広く洗練された空間と街を見下ろす絶景が出迎える。


「……」


 金の無駄遣いだ……なんて事はもう口に出さず、黙って部屋に足を踏み入れた。

 せっかくこんな高そうなホテルに入ったのだから色々と見て回ろう。そう思いバッグを下ろした秋だったが、夏によって阻まれる。


「秋さん……」


「……んっ」


 ドアを閉めたとたん、強く引き寄せられて性急に口付けられたからだ。

 何度も角度を変えて求めるようにキスをされ、呼吸の合間に熱っぽく名を呼ばれる。


「ん……、はぁ、待て夏……先にシャワー……」


「すみません秋さん……もぅ、“待て”は出来そうにありません……」


 腹あたりに感じた硬い熱と、辛そうな吐息。

 落ち着かせようと背中を撫でれば、それを了承と受け取った夏が秋の首筋に舌を這わせた。

 熱い手のひらが服の中へ忍び込み、その刺激に秋もまた、熱い吐息を吐き出した。

 

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