月夜の片想い
日常のルーティーンを終え、ゆったりとした自分の時間を過ごす。
グラスに入った氷がカランと鳴る。
窓を開けると夜風が優しくレースカーテンを揺らし、部屋の中に澄んだ空気を運んでくる。
空を見上げると、星の輝きが弱い。視線を横にずらすと、眩い満月が光を放っていた。
「今日は満月か。」
ふと思い浮かんだのはあの人の笑顔。
今この場に一緒にいたら、間違いなくこう言うだろう。
『月が綺麗ですね。』
あの人がこの言葉の意味を知っているかは分からない。
そのまま受け止めて「本当に綺麗な満月だね。」って笑うかもしれない。
でも、もしこの言葉の意味を知っていたら……。
もし、私の気持ちに気づいてくれたなら……。
そしたら、暫く考えてくれてもいいから……
『あなたと一緒に見るからでしょう。』
って言ってもらいたい。
あなたもこの月を見ていますか?
私のこの想いは、いつかあなたに届きますか?
窓辺に立つ私の体を、夜風が熱を奪いながら過ぎ去って行く。
凍える私の後ろで、スマホがピコンと音を立てた。
部屋の中へ戻りスマホを手に取ると、通知欄を見て口元が緩む。
凍えていた体とは裏腹に、心は温かい。
あなたからの何気ないメッセージ。
私はあなたからの『今何してる?』の一言に胸を躍らせる。
『今、月を見ていました。』
そう返信すると、
『奇遇だね。僕も今、月を見ていました。』
メッセージの続きを読むと、目を見開いた。
『今日は月が綺麗ですね。』
返事はもう決まっている。
『私にとって月はずっと綺麗でしたよ。』
返事が届くまでの数分間、私は私の片想いをそっと抱きしめた。