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誠くん不足

今日の授業は午前で終わりだ。

そんな訳で約束通り俺たち3人は勉強をしにファミレスまで行った訳だが……


ノートや参考書が置かれた机の上に一つだけ異質なものがあるのだ。

「何でいきなりパンケーキ頼んでんだお前は……」

メープルシロップの甘い匂いが充満する。


「疲れた頭には糖分補給必要でしょー?」

注文をした浅野はあっけらかんと言い放つ。そもそもまだ大して頭使ってないだろ。


何はともあれ時間は有限。改めて数学の勉強に取り掛かる。

「じゃ、とりあえず尊ちゃんに合わせて中学の範囲まで遡ってやろう」

「……まずお前xとかyとかの概念分かるか?」

「生島、さすがにそれは馬鹿にしすぎ。私だってアルファベット位分かるっての」



得意げに胸を張る浅野に俺たちは顔を見合わせて苦笑いをする。

もう笑うしかない。



と、前途多難と思われていた勉強会だったが思いの他ペースは速く進んでいった。

どうやら浅野は典型的なやればできる子なのにやらないタイプの様だ。

多分、日頃から真面目に授業を受けていれば成績はそれなりになっていたのではないだろうか。


美鈴の教え方が分かりやすいのもあるんだろうがものの二時間ほどで中学3年生までの必要最低限の履修は終わった。

と言ってもまだまだ課題はあるが、xとyをアルファベット以外で認識していなかった頃に比べたら革新的な進歩である。



「何だ、全然出来るじゃん。尊ちゃん」

「二時間でこれなら素直にすげーよ」

俺たち二人でひたすら浅野を褒めちぎる。こういう手合いは素直に褒めて伸ばすのが最適だ。

実際浅野本人も満更でもないというように顔を赤らめている。

「いや~二人の教え方がいいからで……ちょっと私トイレ行ってくる!」

と言って浅野は席を立ち端っこにあるお手洗い場の方まで向かった。



そんなこんなで俺たち二人は取り残される。

ふと今の時刻が気になり腕時計を眺めると15時ちょうどだ。

「……もう結構いい時間だな」

まだ11月とはいえ陽が落ちる時間でもないが2時間ほぼぶっ通しで勉強していると結構疲れる。


今日はそろそろお開きでいいんじゃないだろうか。

そう思い、ジュースを啜りながらちらっと正面に座っている美鈴を見てみる。


しかし、そこに美鈴の姿は無かった。


ドリンクバーにでも行ったのか?



「……こっちだよ」

真横から聞こえる美鈴の声。思わず飲んでいたものを吹き出しそうになった。

さっきまで俺の隣に居たのは浅野の筈なのに……!

いつの間にか美鈴は俺の隣の席まで移動していたようだ。

何とか息を整えながら状況説明を求める。


「げほっ…お前、何で隣に来て……!」

「だって、尊ちゃんばっかり誠くんの隣に居るんだもん。クラスでもここでもさ」


拗ねるように唇を尖らせながら美鈴はそう説明する。

説明になってない気がしなくもないがそこはもう慣れた、突っ込まない。


多分、美鈴は俺の隣に誰かがいることを快く思ってはいないのだろう。

確かにファミレスに入って店員さんに席を案内された際に浅野は迷うことなく俺の隣に座ってきた。

あまりに急だったため文句を言う訳にも行かず、少しずつストレスを溜め込んでいたのだ。

しかし浅野が居なくなったため……御覧のあり様である。



「……浅野帰ってきたらどうすんだよ」

「そうしたらさすがに戻る。今は誠くん不足だから補給させて」


そう言って美鈴は俺と半ば無理やり手を繋ぐ。

何だよ誠くん不足って。俺はタンパク質やカルシウムとかと同列な扱いなのか?

毎度よく言うこんなパワーワードがポンポン浮かんで来るもんだと俺は一周回って尊敬してしまう。



とはいえ拗ねた美鈴の顔を見て断る訳にも行かず、俺は手を美鈴に任せる。


今の俺にできることは、精々浅野がお手洗いから帰ってくるのが遅めになるように祈るくらいだった。


土日なので出来る限り更新していきたいと思います!

改めて多数のブックマークや評価にも感謝を……

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