勉強会(犯人視点)
「いらっしゃいませ~3名様でしょうか?」
狙い通り三人が店内に入ってきたのを確認して俯いて笑う。
桜と生島君と……あれは……確か、クラスメイトの子。
予め勉強会をこのファミレスでやる事はこっそり聞いていた。
強いて言うなら座席は店員の誘導によって決まるためそこは少し運要素も絡むが……
今回はベストポジションだ。向こうの視界には入らず尚且つ声は存分に聞こえる。
と言う訳でこれから二人の関係を何とか悪化させられないものかとより情報を探ってみようと思う。
……いや、改めて字に起こしてみると中々に身も蓋もない計画だ。
勉強と雑談が7:3くらいのペースで進んでいく。
仕方のない事とは分かっているがただそれに耳を預けるだけと言うのも中々に退屈だな。
そんな事を思いながら頬杖をついて桜たちの会話を聞いていく。
何とか関係性の中枢とかを探れないものか…そんな期待を抱きながら。
……私の目的とはちょっと話が逸れるけど、あの女の子……浅野でいいのかな?
よくテスト前でも数学に対してあんな認識でいられるなと思う。皮肉でも何でもなく。
危機感が……なくはないから今勉強しているんだろうけど。
でも公式すらろくに覚えていないのはさすがに……いや、私には関係ないが。
頃合いを見計らって途中でトイレに入り、自分の姿を鏡で確認する。
最低限の変装はしてあるから……これならバレないよな。
一応伊達眼鏡掛けてるし帽子を目深に被ってるし……制服もコートで隠してるし…うん、大丈夫。
鏡に映る自分に向かって頷き、一先ずさっきまでの会話を聞いての結論をまとめてみることにした。
「中々難しいかもなぁ……」
情けない感想だが、思わず呟いてしまう。
しかし思った以上に二人の関係は親密なものになっていた。
その大部分は幼馴染という事があるんだろうが……それはどうしようもない。
いっそ開き直って本人たちの前で頭を抱えてしまいたいくらいだ。
しかし、これは私の推測も入るが……
多分付き合っているかどうかと聞かれたら生島君の方は絶対に首を縦に振らない。
桜はバラしても問題ない相手なら多分認める。
そんな認識の齟齬が私にとって最大のチャンスだろう。
最大限そこをかき回して、あわよくばおこぼれを狙っていく。
中々に複雑な関係だからこそ上手く利用した際のリターンは大きい。
って言うのは簡単だがじゃあすぐにやれますかと言われるとそれは別の話であって……
まず話術で気を引こうにも彼らの脳内に私自身が深く刻み込まれてないと効果は薄い。
発言というのは内容よりも言った人間の立場によって形を変えるものだ。
言葉によって現状を変えたいなら、私はただの生徒会長であってはいけない。
何をするにしても、まずは私と言う存在をあの子にとって脳裏に強く焼き付けておかねば……
とりあえず次回からは主人公視点に戻らさせていただきます