脳が破壊される
脳が破壊される。
意中の人間を横から取られた際の心理状態を表した、ネット用語……なのだろうか?
初出は私も詳しく分からないが、表現としては端的で的を得た素晴らしいものだと思う。
実際私の心理状況もその言葉と相違ない。
私は布団にゆっくりと身を投げた。
頭はこれ以上の思考を完全に放棄しようとしている。
どれだけあの子の未来を想像したところで、私が介在する余地などありはしない。
「……何で」
そう呟くことが精一杯の抵抗。……それも虚勢だ。
人は中途半端に抱いた希望を裏切られた時こそ一番心に傷を付ける。
いっそ最初から絶望しか見えない方がマシだった、とすら思ってしまう程に。
……いや、どうなんだろうか。
例え淡い期待だったとは言え、気付くまでは確かに幸せだった。
怠惰が支配していた私の頭の靄を、綺麗に晴らしてくれた。
あの時見えた光までも、否定したくはない。
ならどうすればいい。
ため息がこぼれる。
どう足掻いても結局生きていく上で考えることからは逃れられないんだ。
さて、誰かに相談しようにも勿論そんな事を言い合える人間などいる筈もない。
祖父母はさすがに……信頼どうこう関係なく埋めきれない年齢の差と言うものがある。
だからこそ年頃の学生たちはまず親とかに恋愛相談をするんだろうが……
私の両親はそもそも居ない。
その為相談する方法が無いのだ。
とは言え一応個人的に調べてはいて比較的簡単な情報は知っている。
どっちも蒸発した後は、それぞれ男女をとっかえひっかえして悠々と寄生生活を行っているそうだ。
間近で顔を見れたことはないし、判断材料は写真のみだが……二人とも整った顔はしている。
そりゃあの顔なら異性には…困らないだろうな。
一応それを子供の私に引き継いでくれた事は、唯一感謝している点だ。
「一応完全に付け入る隙がない訳じゃないんだ……桜はともかく生島君の方には綻びも見える」
一人机に向かって考察を声に出しながら関係図のようなものをノートに書き写していく。
馬鹿らしく見えるかもしれないが、私にとっては大真面目だ。
大真面目……か。何だか不思議な気分だ。
中学にて所属していたバスケ部での全国大会でも
人生の転機にもなり得る高校受験でも
全校生徒の前で堂々と発言する生徒会選挙の演説でも
ただの一つとして、真面目に取り組む気にはなれなかったのに。
そんな私が今、色恋沙汰に全力を注いでいるのだ。
「……上等じゃないか」
私は鼻を鳴らして、どんどんペンを進めるスピードを上げていく。
さっきまでの憂鬱を払拭するように。
そうだ、私は他の有象無象とは違う、優れた人間だ。
勝手に敷かれた倫理や道徳の道になんて、最初から従ってやる道理はない。
例えどんな手段を使ってでも……私は私の目的を成し遂げてやるさ。
この会長、堂々と倫理に従わない宣言してるけどそれ以前からこっそり覗いてはいるという……