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運命

その子を一目見ただけで、ふと何かを感じたんだ。

それを具体的には言い表すことは出来ない。


何となく、って表現が関の山。



そんなものでも毎日が退屈で仕方なかった私からしたら調べてみるには充分すぎる理由だ。

どんなに希薄な輝きでも、縋らずにはいられなかった。



他人の顔を伺って生きていく習慣が身に付いていた私は洞察力が並外れて高い。

最も他人より優れているのは洞察力に限った話でもないが。



だから私は多少の行動や視線を追う事でその人物の大まかな人となりが分かる。

会話すらしなくてもいい。理解に互いの譲歩などさして必要ないのさ。



これらは私にとって当然のことだが他の人間にとってはそうでもない。

その認識の齟齬を埋める方法が無いと言うのが無情極まりない話だ。



さて、そんな訳で一部始終こっそりと観察してすぐに気付けた。


この子は私と同類だと。




周りからの勝手な期待や妄想に苦しみ、それでも何とか折り合いを付けて生きていこうとしている。

だがそんな人間特有の息苦しそうな顔は、分かる人にはよく分かる。


特に同じ悩みを抱えている人間なら猶更だ。




その事を知った私は家に帰るなり枕に顔をうずめて足をバタバタと上下に振る。



顔はきっと今までにないくらいにやけきってていただろう。




嬉しかった。

自分の行いが傍から見たら異常だと思われるだろうというのを理解していても尚止められない程。



ずっと私はこの世界で独りきりだと思っていた。

17年という年月の中で味わってきた全てがそう告げてくる。

誰と寄りそう事もなく一生を終えるんだと……



でも違ったんだ。

確かに居た、居てくれた。私と同じ悩みを抱える人間が。



その事実に笑って、少し泣いて、呆れるほど浮かれきってしまった。


大げさでも何でもなく、その子の存在は私にとって希望の光そのものだったんだ。





私はその子と出会えたことが、絶対に運命そのものだと疑わなかった。



だって、同じ地域……それどころか同じ学校とまで来た。


偶然ではなく必然、最初から神の選択の元決まっていた出会いだったと。



疑いようが無かった。




話がしたい。舌の根が渇くまでひたすらに本音で語りつくしたい。


愚痴も諦観も絶望も、マイナスな感情ですら共有したいんだ。


そして最後にはこの退屈極まりない世界で二人が巡り合えたことを、ひたすら喜びたい。


ただひたすらに私の頭の中を支配していた目的。

今まで積み上げてきた自分を、全てを捨ててでも成し遂げたかった。





まぁ、改まる必要もないくらい完全に恋をしてるね、これは。



仕方ないだろう?それほどまでに私は嬉しかったんだから。





でも、それは一時の幸せな妄想に過ぎなかった。


こっそりと生活を追っていくにつれ、自ずと気付いてしまったんだ。




「誠くん、ハロウィンの仮装とかも意外にこだわるタイプだよねー」


「何かどうせやるならきっちりやりたい主義なんだよ俺は。ていうか仮装は美鈴が言う事かよ」


「美鈴……ふふ……あ、一か月くらい経ってるし今更だけどお菓子ちゃんと美味しかった?」


「ああ、めちゃくちゃ美味かった。…何て言うんだアレ。……チョコケーキでいいのか?」


「えっと…一応ブラウニーね。何にせよ満足してくれたなら良かった!」




人目のつかない中庭の裏で弁当を食べながら楽しそうに談笑する二人。




私はそれをただ傍観することしか出来ない。




胸の中には煮えたぎりそうなほどの嫉妬心を抱えていた。


何て情けない話だろうか。




「……ははは。ははははは!」



自分のみっともなさに思わず笑ってしまう。




運命なんていうものは、ただ私が勝手に信じたがっていたまやかしでしかなかった。




結局私も忌み嫌っていた連中と同じ、身勝手に希望を抱く愚か者に過ぎなかったんだ。

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