愛の暴走
「御子柴先輩は、誠くんの事が好きなんだよ!」
美鈴は勢いよく、少し恨めしそうな顔で言った。
「いやそれはないだろ」
俺は冷静に否定する。
一体どんな奇想天外な推測を言うかと思ったら……どうしてそうなった?
否定されるのが意外だったのか、美鈴は驚いたような表情をしている。
だが驚きたいのはこっちだ。お前は目の前で会長の話を聞いたはずだろ……
「確か好きな人って……会長がアプローチ仕掛けても全く反応示さないんだろ?なら」
「いやそれ絶対誠くんだよ」
「えぇ……」
予想外の勢いの反論に思わず困惑してしまう。
美鈴があまりにも自信満々に言うもんだからなし崩し的に納得してしまいそうになる。
だが冷静に考えればそんなことはあり得ない。
俺と生徒会長は今日初めて会ったんだ。
今俺が言った【生徒会長は好きな人にアプローチを仕掛けている】という条件には該当しない。
普通に考えれば気付くことだが……どうしてここにきてこんな考えを持ったんだ?
「一応確認しとくけど……俺と会長は今日が初対面だぞ?」
念のため、そう補足はしておく。
考えすぎたために一部の情報が頭から漏れ出てた可能性もなくはない。
どうかこれで考えを改めてくれないかと、俺は願う。
だって俺が生徒会長に惚れられる理由なんてない訳で……
しかし美鈴はそんなことは分かっているとでも言うように頷く。
その反応に思わず肩をすくめる。
それを理解にしてるならどうしてそんな結論に思い至ったのだろうか。
甚だ疑問である。
「ほら、良くあるじゃん。ストーカーとかが勝手に認知されてるとか勘違いするの」
「……あの、ちょっと一回落ち着いて」
「だってそうでもなきゃおかしいよね?何であんな誠くんにグイグイ近づくの?」
「言うほどグイグイは……」
「あんな馴れ馴れしく……しかも付きまとってたとか……!消しゴムも恩を売るつもりで……?」
俺の声は聞こえていないのだろう。
美鈴は次々と早口で会長の愚痴を言い、終いには呪詛のようなものをぶつぶつと呟いている。
まぁ、今流行ってるもんな、呪い系のアニメ。
今度一緒に映画でも見に行こうか。って今はそんなことを考えてる場合じゃない。
だが今の美鈴に下手に反発するのは得策ではない。
いや、確かにストーカーでそういう典型的なパターンはよく聞く話だ。
ただ見ているだけの癖にいつの間にか思い上がり、やがて現実と妄想の区別がつかなくなる。
最終的には逮捕だの心中だの……まぁろくな結末は迎えないだろう。
でも別に先輩はそこまで何かをしでかした訳ではない。
今まで語った事は、美鈴の過剰な受け取り方に過ぎないのだ。
しかし厄介なのは先輩にストーカー疑惑がある事は紛れもない事実。
明確に否定はできないのだ。
いやさすがに被害妄想強めだと思うけどな。
そもそも好かれてる云々は完全に妄想だし。ていうかそれは美鈴じゃないのかって話だ。
しかしそう言っても聞かないため、とにかく一旦宥めよう。
そう決めた俺は両手を美鈴の前に出して落ち着け、と伝える。
「さすがにちょっとそれは飛躍しすぎだからな」
するとむっとして美鈴は言い返してくる。
「全然飛躍してないよ!これから御子柴先輩と話す時は気を付けなさい!」
まるで子供を叱りつけるような口調で俺に注意を促してくる。
前から思ってたんだけど……俺結構子供扱いされてないか?
打つ手のない俺は精魂果てて床にぺたりと座り込む。
こうなってしまった以上は俺には止められない。
しかし気を付けなさいって……マジでお母さんかよ……
「お嫁さんだよ!」
さらっと心を読まれたことを突っ込む気力すら無かった。