条件との合致
「あの場に居たことを明かしたのは……怪しくないって思われるためなんだよ」
「……ん?」
いきなりつまずく。
俺の考察とは真反対の美鈴の推測に首を傾げてしまう。
だって、わざわざ言う方が怪しまれるよな?
それなら黙ってた方が得なんじゃないのか?
「だって、現に誠くんはそれで先輩を疑えなくなったよね?」
その言葉で俺は人狼ゲームを思い出した。
人狼ゲームの狼陣営の戦術の一つとして身内切り、という戦法がある。
簡単に説明すると……相方の狼とわざと対立する行動をとってラインが見えないようにするのだ。
どちらかの正体が狼だと気付かれた場合、残った側は狼ではないと思われる。
何故なら【わざわざ味方を責める必要が無い】、という思考に陥るからだ。
しかし、この作戦にはメリットがきちんとある。
【わざわざ味方を責める必要が無い】→だから狼じゃない。
村陣営をこういった考えに誘導できることだ。
一見利益のない行動に見えるそれは、結果的に立派な潔白証明になってしまう。
もし会長の行動がそれと同じ狙いだったとしたら?
あり得ない話じゃない。
生徒会長の豹変具合、そして何故か俺の事を知っている。
しかもそれについては美鈴に聞いたなどと嘘をついてたと来たもんだ。
要所要所の疑惑が点と点から一本の線へと繋がっていく。
犯人の特徴を改めて振り返ってみようか。
①俺と美鈴の関係を知っている。
②故にどこかで見られて……最悪付きまとわれている可能性がある。
③咄嗟に状況判断をして的確に消しゴムを投げる頭脳を持っている。
全部当てはまっている訳だ。
①に関しては会長の恋愛関係の悩み相談で分かる。
幼馴染の運命がどうの……明らかに俺たちの事だろう。
だから、間違いなく知っていると言えるのだ。
ならどうやって?これが②に繋がっていく。
前者の場合はまぁいいとして、付きまとわれてたなんてさすがに思いたくはないが。
しかしその可能性は頭の中に入れておかねばならない。
その場しのぎで俺の事を他人から聞いたように振舞ってはいたが……本当はどこまで知っているのだろうか。
ファミレスで俺に消しゴムを投げることが出来る。
校舎裏で話してた俺たちに居合わせる。
このどちらもが偶然、なんてことがあり得るのか?
そして俺たちをこっそりと見張っていた、という前提条件を加えたら見事に辻褄が合ってしまう。
「マジか……」
ぼそりと呟く。
ようやく犯人を掴めたのかもしれないが……喜ぶ気にはなれない。
むしろ恐怖心が俺の胸中に渦巻いている。
一体いつから……どこまで?
「それに私、もう一つ大変なことに気付いたの」
「え?」
何と美鈴はこの上でまだ重大な発見があるというのだ。
俺は息を飲む。
もうここまでの情報で頭の許容量を超えていると言うのに……まだ何かあるのか?
受け止めきれる自信はまるでない。
でも、俺は向き合わなくちゃいけない。逃げてたって何も解決しないんだ。
意を決して、美鈴の言葉を待つ。
「先輩はずっと私たちを尾行してて……誠くんが困っていた時は消しゴムを渡してカバーした」
「ああ……!」
「そして先輩の嘘や……あの時の恋愛相談を踏まえるとつまりは……!」
「つまり……?」
「御子柴先輩は、誠くんの事が好きなんだよ!」
次回から新章入る予定です!