9割
『改めて自己紹介をしておこうかな……
桜は知ってるだろうけど、生徒会長を務めている御子柴優香です。
生島くんの事は桜から色々聞いてるよ』
あの時の言葉を思い返す。
確かに初対面にしてはやけに距離が近いとは思っていた。
ただ、元々人と対話することに長けているのは知っていたし……話を聞いてたなら猶更だ。
だが、それが嘘だったと言うなら?
まず脳裏によぎる疑問が二つ。
一つ目は何故俺の名前を知っているか。
さっきも言ったが俺と会長は今まで面識がなかった。今日が初めての会話だったのだ。
そしてもう一つ。
「何でわざわざそんな嘘をついたんだ?」
頭に出てきた謎をそのまま口に出す。
俺の浅い情報量ならいくら考えても答えは出ないだろう。
一人で抱えることなく、美鈴に相談できるという状況は非常にありがたい。
答えはすぐに返ってきた。
「多分、警戒心を解くためだよ」
そう言いながら美鈴は俺の鞄に手を突っ込む。
そのまま何かを探すかのように中をまさぐっている。
「……何やってんだ?」
俺の言葉と同時に美鈴はあるものを取り出す。
それを見て、思わずあっと声を上げてしまう。
「……それ、あの時の消しゴムか?」
そう、美鈴が俺に見せたのはファミレスの際の消しゴムだ。
俺たちが学校で調査を始めようとした原因。
……そして、あの時会長に渡そうとしたものでもある。
俺は目に手を当てて自分の無警戒さを呪う。
全容がつかめた訳ではないが、何となく話の流れは見えてきた。
もしこれを会長に見せてありのままを話していたら、どうなっていたのだろうか。
その答えは、すぐに美鈴の口から出てくる。
「多分……ていうか8、いや9割。これを投げたのは御子柴先輩だよ」
確信を持った表情で、美鈴は堂々と自分の結論を話した。
俺はそれを聞いて、当然驚く。
疑う理由はあるとは思っていたが、犯人であるとまでいきなり宣言したのだ。
さすがにその考えは飛躍しすぎではないだろうか。
もし万が一美鈴の言うことが正しかったとして、会長がやったというのなら見せるのを止めた理由はよく分かる。
そりゃ犯人の前で堂々と調査してるんで協力してください!って言ってるようなものだからな。
推理小説とかなら下手したら確信に近づいているとかで口封じに殺されるような展開だ。
いや、そこまで深刻な話ではないんだが。
とりあえず美鈴がうかつな俺を止めてくれた理由は納得出来る。
しかしどうにも乗り切れないという気持ちもある。
と言うのも嘘をついたのは分かったが=犯人と言う考えが、果たして正しいのだろうか。
そもそも俺は一度会長がシロだと確信している。
浅野に聞いたことを知る訳でもないのに、わざわざ自分でファミレスに居たことを白状したんだ。
俺たちがその事を事前に知っていたのは偶然で……もし浅野が覚えていなかったら会長は視野にも入ってなかっただろう。
それにも関わらず、何故自分から犯人候補に挙がろうとしているのだ?
元々数少ないうちの生徒と言うくくりでなら、それだけでも十分リスクはあるだろうに。
美鈴は俺の顔を見て、こくりと頷く。俺の心内の疑問は全部悟られているのだろう。
その考えを理解したうえで、ほぼ確実に会長が犯人であると宣言した訳だ。
一体どんな推理が飛び出すというのだろうか。
ほんの少しの期待とそこそこの不安を抱えながら、俺は美鈴の考察に耳を傾ける。