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「何もやましい事がないのなら今ここで胸を張って証明できるだろ?さぁどうぞ」
「誠くん。私は確かに調査のこと伝えたよね?ね?」
「いや近い近い近い近い近い近いっす」
二人揃って物凄い剣幕で俺にぐいぐいと近づいてくる。
抵抗するように両手を前に出してはいるが、お構いなしと言った感じだ。
何かを言おうにもこんな状況ではろくに伝えられそうにもない。
さっきまで絶賛放置中だったと言うのに何だこのえげつない緩急は。
そして本当に近いから一回離れてほしいんだが。
さて、俺に与えられた猶予は少ない。
返事に時間をかければかける分だけ会長からの疑惑度は上がっていく。
最も素直に美鈴の嘘を指摘するならそれは杞憂に終わるんだが……
しかし何故そもそも嘘をついてるのかという話だ。
本来なら俺が消しゴムを見せて先輩にも相談に乗ってもらう算段だった筈。
だが、突然美鈴が腕を掴んできたことによって阻まれてしまう。
そして強引に話の流れを変えられてしまった。
俺はこの期に及んで情けなく来るはずもない助けに縋ろうとしている。
この際誰か……浅野とか助けに来てくれないか?
今は放課後だから、あいつバレー部だったよな……
外周とかの時にさらっとこっちに来る可能性はなくはない。
ん?ちょっと待てよ。
……そうだ!今期末前じゃないか!
そんな事すら忘れるほどに俺は焦っていた。
当然部活は停止期間の為バレー部も活動していない。
浅野が来る可能性は0と言っていいだろう。
いや、浅野に限った話ではないぞ。
こんな放課後に残っている生徒なんてほとんどいないだろう。
ていうかテスト直前だと言うのにわざわざ学校に残ってる俺たちの方が異端なんだ。
一応俺は家に帰ってから相談できるんじゃないかと提案はした。
あれ?じゃあ何でわざわざ校舎裏なんかで話してたんだっけか?
何だかんだ会長に絡まれた要因の一つはそれだろうに。
えーっと確か……
【ていうか、どうせ家が隣なんだし普通に帰りながら話してもいいと俺は思うんだが……
しかし美鈴が「なるべく学校で話したい」と言い出したので、人目がない所で密談中という訳だ。】
思わず頭を抱えそうになる。
いや、何か考えがあるにはあったのだろうが……
しかしここまで全て想定外という事はさすがにないだろう。
「生島くん!」
「誠くん!」
二人の催促の声が同時に聞こえてくる。
まずい、もう時間がない!
正直推理も何もない選択方法だ。
素直な心象としてはこれまでの情報を鑑みると7対3で会長寄り。
今日の美鈴は完全に冷静さを失っている。
それでも何時ものように美鈴の判断に従うのが正解なのだろうか。
……ああ、そうだ。
俺は一息吐いて、覚悟を決める。
どっちを選ぶのかは、決まった。
「……美鈴の言う通りです。確かに俺は素行調査の事を事前に聞いてますよ」
今までの経験から出した選択だ。
よく言えば信頼、悪く言えば思考放棄なのかもしれない。
それでも俺は、美鈴を信じることを決めたのだった。
ちなみにちゃん付けを忘れていることに、当然この時の俺は気付いてない。