理解はできるが共感はできない
とはいえ、さすがに最低限の気回しはした方がいいよね。
少し眉をひそめながらオウム返しで回答を寄こす。
「えっと、運命を信じたくないっていうのは?」
私の言葉に先輩は少し驚いたような素振りを見せた。
この会話を掘り下げられるとは思っていなかったのだろう。
別に私も根掘り葉掘り聞きたいわけでもないけどさ。
少しの間が空く。
「……桜はさ、もし運命なるものがあるとして…それが必ずしも自分にとって幸せな方向に行きつくと思う?」
おもむろに先輩は真顔で私に語り掛ける。釣られて私の顔も引き締まっていく。
……大体言いたいことは分かった。
そして私の予想通りの持論を先輩は展開していく。
「怖いんだよ、私は」
「怖い?」
「どこまで自分を磨こうと、結局その一言で全てが覆ってしまうのなら馬鹿らしいことこの上ないだろう?」
「……なるほど」
途中で適当に相槌を打っておく。
言わんとしていることは分からなくもない。
努力を否定される、という思考にはあんまり賛同は出来ないけど。
経験談だったりするのかな?
それよりも意外なのは、御子柴先輩がこんなにマイナスな思考をしていたことだ。
日頃から大言壮語を振りまく割にはみみっちい観点に囚われている。
もう少し自分に自信を持ってる人だと思ってたんだけどな。
まぁ、それも私が表面のみを見て勝手に想像していた人物像に過ぎない。
人間誰しも大なり小なりの悩みを抱えていて当然だ。
御多分に漏れず私もその一人なわけで……
とりあえずフォローに回っておくとしよう。
とは言っても御子柴先輩はかなり洞察力に長けている。
適当に考えた言葉では多分見破られてしまうだろう。
だからって反論するのはもっての外だ。
大体悩みの相談なんかする人は否定を求めていない。
解決できるかはともかくとして、まずは辛い自分を肯定してほしいんだ。
悩みに向き合ってるかどうかは重要じゃない。悲しんでいる人に寄り添うのが相談の本質なんだ。
解決策でなくても、本人が満足するならそれでいい。
だから私は考える。
運命が~なんて理屈は割とどうでもいい。どうしたら先輩に寄り添えるか。
耳障りの良い言葉をいくつか思いつく。
しかし適当なものじゃ見抜かれてしまうし、そうなったらまた拗れてしまう。
私は顎に手を置いて少し考える。
……こういう空気、やっぱ好きじゃないなぁ。
無関心だと思われるかもしれないが、先輩の思想自体は分からなくもない。
共感するかどうかは別としてね。
だから、そこから広げていけばいい。
軸は先輩の思想は理解できる、だ。
「……確かに、先輩の言う通りかもしれません」
思考をまとめて、早速発言に移す。
その間も、先輩の様子を探るのは忘れない。
御子柴先輩は曖昧な表情をして私の言葉に耳を傾けている。
少なくともその顔からは不信感のようなものは感じない。
一先ず掴みはこんな所だろう。
「だったら、私に相談してみませんか?」
「……え?」
これから私が言う言葉は前置きした通り何の解決にもなりはしない。
ただ希望的観測を延々連ねるだけ。
それでも今この瞬間、先輩の気持ちを晴らせるならそれでいいんだ。
尚且つその言葉を浅いと思われないように気を配って会話をする。
……OK。まとまった。
次回で美鈴視点は一旦終わりです。
何故実力もないのに中途半端に難しい事をやるのか、コレガワカラナイ