私の話
今回からは美鈴視点でのお話です
「桜、今日も鮮やかなポニーテールだね!良かったらお昼一緒に食べないか?」
御子柴先輩は弁当包みを抱えながらよく通る声で私に話しかけてくる。
これでもう16回目だ。何でまた来るんだろう。
嫌味とかじゃない、純粋な疑問だ。
回答が予想できないほど馬鹿じゃない筈なのに。
「ごめんなさい。先約があるので」
いつもと同じ言葉で断る。先約と言っても半ば私が勝手に取り付けているようなものだけど。
それでも誠くんとご飯が食べられる以上、断るしかない。
タイミングを見計らって私は御子柴先輩の元を去っていく。
勘違いされそうだけど、別に先輩の事が嫌いなわけじゃない。
業務の時とかもよくお世話になっているし、近くで見ていて勉強になることも多い。
桜っていう呼ばれ方も新鮮な感じがして悪くないと思っている。
桜庭美鈴から桜を取るって発想はよく分からないけど。
誠くん以外に大して関心を持てない私でもそれなりに興味が持てる人間だった。
淡白かと思われるかもしれないけど、私にとっては最大限の賛辞の言葉のつもりだ。
「桜ってさ、運命とかそういう概念を信じるタイプなのかな?」
生徒会室で二人で残っていた時、ふと先輩がペンを回しながらそんな話を振ってくる。
いつもなら誠くんと一緒に帰るために早く部屋を出るけど、今日は誠くんのお母さんの誕生日だ。
その為夕方から祝いの場としてお店を取っているらしく、今日は先に帰ってしまった。
さすがに家族でのお祝いの場に水を差す訳にはいかない。
それに……いずれ私も家族に、誠くんのお母さんはお義母さんになる訳だしね。
粗相を働かないように気を配っていきたいのだ。
という訳で予定もない私は先輩との雑談に興じる。
先輩の話は普通に好きだ。
で、えっと…運命の話だっけ?
「信じてますよ。いい言葉じゃないですか」
嘘偽りない感情を笑顔で口から発する。
実際運命と言う言葉は好きだ。
この言葉を添えるだけであらゆるものが綺麗に見えていく。
恋愛ソングの歌詞によく使われている単語だけど、実際それがあるだけで聞こえがいいでしょ?
上手くは言えないけど……感情の具体的な言語化は難しい。
何より…私は誠くんと出会えたことも運命だと確信している。
そっちの方が、ただの偶然で片づけるよりよっぽどロマンチックだと思わない?
思わず喉の奥で笑ってしまう。私、意外と恋愛脳なのかも。
ふと御子柴先輩の顔に視線を合わせると、少し悲しそうな表情をしていた。
「……そう、なんだ…私はあんまり信じてない……っていうか、何だろう。信じたくないのかな」
そう言って先輩の顔はすぐにいつものような笑顔に戻る。
しかしそれが作り笑いなのは一目瞭然だった。
声も、少し濁り気があるように感じる。
普段と比べて明らかに異様な変貌だ。
空気が重くなるのを肌で感じる。
…私、もしかして地雷踏んじゃったのかな?
……ま、別にいっか。話振ってきたの向こうだし。
場を取り持つ言葉を探しつつも私はそこまで深刻には考えていない。
私の立場にいるのが誠くんだったら今頃慌てふためいているだろうけど。
イエスかノーで聞かれて前者を答えただけで傷つかれても私にはどうにも出来ない話だ。
それなりに誰にでも優しい人では居たいけど、理不尽な感情の受け皿になるつもりは毛頭ない。