広がる
浅野に諸々の情報提供について感謝した後、美鈴を探して廊下に出る。
一先ず生徒会長についての報告をしようと思ったのだが……どこまで行ったのだろうか。
さすがにみんな同じ制服を着た人物たちが溢れている中でたった一人はそう簡単に見つけられない。
最も、砂漠で一粒の砂を探すほどではないが。
学校中を練り歩いて三年生の教室前まで向かう中、ふと先輩たちの喧騒に耳を傾けた。
「何かさー愛子に聞かれたんだけど金曜いつものファミレス行った奴知ってる?」
「沼倉達こないだ行ったっつってたけどそれ聞いたの火曜だったからなー…金曜日か」
「てかさ、今日帰り寄るのあのファミレスで良くね?」
「一年の後輩に行ってる奴居たってー」
思わず笑みがこぼれる。大分苦みが強めのだ。
昼休みが始まっておよそ30分、あっという間に噂は学年を超えて浸透している。
一体どんな手段を……いや手段は知ってるんだが。
噂と言うのは広がる時はめちゃくちゃに広がっていく。
事実に始まり、個人個人で予想が入り、終いには憶測を生む。
最終的に憶測が事実にすり替わっていたら危険信号だ。
それは身をもって理解している。
しかし真に恐ろしいのはこんな規模まであっさりと広げてしまう美鈴だ。
詳しい過程までは聞いてないので分からないが、こうも学校の話題を思うがままに支配できるのか。
明らかに友達が多いからとかのレベルを超えている。
生徒会長に負けず劣らず、あいつも話が上手い人間だ。
「そんなでもないよ、単に母数を大きくしたから手っ取り早く終わっただけ」
呆気に取られていた俺の背後から聞きなれた声がする。
俺は反射的に振り返った。
美鈴だ。手をひらひらとさせながら辺りをきょろきょろと見回している。
そうして先輩たちの話題がファミレス一色になっていることを確認して満足げな笑みを浮かべた。
いつの間に居たんだ……?
俺の内心は凄いという感情と怖いという感情が入り混じっている。
この状況は確かに理想通りだがここまで上手く運ぶのか……といった感じだ。
ていうかさり気なく心読まれなかったか?
「お疲れ……とにかくありがとうな。美鈴…ぁちゃん」
様々な気持ちが巡る中何とか捻り出せた感謝の言葉。それを聞いて美鈴は嬉しそうに頷く。
一瞬ちゃん呼びを忘れていた……今のはセーフのようだ。
何はともあれ、計画を成し遂げたのは間違いない。
暗雲低迷化していた二人での考察と比べれば素晴らしい成果だ。
やはり持つべきものは人脈なのである。
「一応私が聞いた範囲内では……やっぱ飯田くんぐらいしか聞かなかった」
放課後、校舎裏で情報交換を行う。
11月も終わろうとしている中、既に落ちかけている夕日が妙に眩しく感じた。
ていうか、どうせ家が隣なんだし普通に帰りながら話してもいいと俺は思うんだが……
しかし美鈴が
「なるべく学校で話したい」
と言い出したので、人目がない所で密談中という訳だ。
美鈴自身からは特別新しい情報は無かった。
だが当然の話だ。そもそも美鈴の方の計画はまだ第一段階。
噂が広まり切った後に情報を絞り込んでいくため、数日以上かかることが前提条件なのである。
ということで次は俺の番だ。
浅野と話したこと……つまりは生徒会長があの場に居たことについて話す。
副会長の美鈴なら何か分かることがあるかもしれない。
そんな期待を持ちながら、俺は詳しく説明をした。
「……っていう訳なんだが、どう思う?」
全容を話し終えて意見を仰ぐ。
大分一息で説明したため俺の喉は乾きかけている。
ちょっと自販機の方まで行ってきてもいいかな?
「……御子柴先輩かぁ。まぁ私は結構話すけど……仲いいのかなぁ?」
美鈴は腑に落ちない、と言った顔をしている。
え、険悪とか……?いやそこまでではないだろうが。
歯切れが悪そうな様子に違和感を覚える。
そしてそのまま、少しぎこちない様子で会長との思い出話(?)を語ってくれた。
次回からは美鈴視点の話が始まる予定です