何でも
基本的に1日1話投稿ペースになると思います
その後俺たちは次のゲームについて考える。
「なるべく勝率が平等になるくらいがいいんだが……」
「平等ねぇ……」
わざわざそんな気遣いをしてもらわなければならないのは俺の頭が美鈴に追いついていないからなんだが。
とはいえさすがに6枚落ちの将棋で負けた以上勝てる勝負が他にあるのかすら疑わしい。
少し考えた後に美鈴はある勝負を提案する。
「ならじゃんけんにしよっか」
「え?」
予想外の選択肢が出てきて俺の思考が一瞬鈍る。
じゃんけん、ってそれは説明されなくても理解しているさ。
確かにじゃんけんはあくまで勝敗を分けるのは運。平等と言えば平等だが……
それはそれで勝負になっていると言えるのだろうか?
いや最初に勝手な提案をしたのは俺なのであまり強い事は言えない……
だがじゃんけんと言うのは一種の心理戦ともいわれる。
運のみでなく相手の癖やしぐさで
「行くよ?はいじゃんけーん」
「え?あちょ待」
突然言い渡された開始宣言に俺の脳は追い付かない。
そのまま反射的に俺の手は半開き、即ちパーの形になる。
もうこれで行くしかない。
ただ俺は心のどこかで既に敗北を悟っていた。
きっと美鈴は俺の出す手すら読んでくるのだろう。
だからこそじゃんけんを提案してきたのだ。平等とは何だったのか。
そして美鈴はチョキを……
「あ、私の負けだね」
「……へ?」
美鈴は握りこぶしを前に突き出していた。
つまりはグーだ。
少し経ってようやく状況を飲み込み始める。
勝った……のか?俺が?
現実感がない。いやたかがじゃんけんで何を言ってんだ俺は。
思わず自分の開いた手をじっと見つめる。
この手が、俺に勝利をもたらしたのだ。
「はは、凄い顔してるよ。誠くん」
「ああ……いやマジで俺勝ったのか?」
美鈴はおかしそうに笑いながらこくこくと俺の問いに頷く。
負けたこともまるで気にしていないような……いやたかがじゃんけんだが。
落ち着け、何回たかがじゃんけん使ってんだ俺は。
考えてみれば勝つか負けるかあいこの三択。
そのうちの3分の1を掴み取ったというだけの話だ。
とはいえ嬉しいものは嬉しい。
俺は得意げに笑って美鈴を見つめる。
ちなみにこの事を後日母に話したら
「じゃんけんに勝っただけでドヤ顔って恥ずかしくないの?親の私が既に恥ずかしいんだけど」
と冷たい目で言われた。ぐうの音も出ない正論である。
そんな未来の話を知るはずもないまま優越感に浸っていた俺だったが……
「はい、じゃあ誠くんがお願いする番だね」
「……は?」
その一言で一気に現実に引き戻される。
美鈴はきょとんした顔で俺を見ている。
驚く俺に対して意味が分からないといったような素振りだ。
いや意味が分からないのはこっちなんだが……!
ん?もしかして……
「さっきの条件、まだ続いてたのか?」
「うん。ていうか私が負けて何もないってのも不公平かなーってさ」
勝った方のお願いを一つ聞く。さっきの将棋で終わった話だと思っていた。
しかも自分が負けたにも関わらず何でもないように美鈴は言いのける。
その様子に俺は渋い顔で考え込む。
そうして恐る恐る美鈴に詳細を問い明かす。
「さっきと同じってことは……まさか」
「何でも、だよ。はいどーぞ」
そう言って促すように両手を差し出す。
俺にとっては何一つ不利な要素はない。
だが、この状況に対して全く乗り気にはなれなかった。
何でもと言うのに気にも留めない美鈴の余裕。ていうかこいつはマジでなんでもやりそうで怖い。
自分の負けるパターンも思い浮かべていた、とでも言うのだろうか。
いや、むしろわざとと言う可能性すら出てきた。
だが約束は約束だ。
物怖じしてたって何も始まらない。
決心を表すように俺は大きく息を吐く。
さて……どうしようか?
「……あ」
少し考え込んだ所で、俺の頭に2つほど案が思い浮かぶ。