将棋
休日、俺はリビングで暇を持て余していた。
遊びに行こうにも何か外に出る気分じゃない。しかも今日は11月の半ばだというのに気温4度と来たもんだ。さすがにそんな状況では気が滅入る。
じゃあ室内で何をやるか……勉強はさすがに休日くらいは勘弁させてくれ。
ゲーム、と言ってももう攻略したものばかり。多人数でやるならともかく一人じゃ……
と思っていた矢先にインターホンが鳴る。
出ようと思ったが近くにいた母親がそのまま受話器を取った。
宅配か、あるいは知り合いか……まぁわざわざ家に来る知り合いはかなり限られているのだが。
何にせよ母親の応対でそれは大体察することができる。
「はい~生島で……あっ美鈴ちゃん!?何か、ああ寒いでしょ?とにかく入って」
どうやら今回も後者の様だ。
も、と言うことで頻度は大体察してくれ。
「お邪魔します。暇してるかな~って思ってさ」
「いやしてたけど、こうもタイミング良く来るかお前……」
俺の部屋で美鈴はぺこりと頭を下げた。
大体こいつが遊びに来たときはリビングか俺の部屋へ移動する。
今日は両親も居ると言うことで俺の部屋。
俺は何とか苦笑いを保つ。正直この思考の読まれようはマジで怖いんだが。
エスパー……いや、俺は非科学的なものは信じない主義だ。
まだ都合のいい偶然だと信じる方がマシである。
このようなケースは2ケタをゆうに超えているがそれでも偶然である。
「で、何するよ?」
改めて俺は美鈴に聞いてみる。
わざわざ家に遊びに来たんだ。まさかノープランと言うこともあるまい。
正直死ぬほど暇だったため来客は素直に嬉しい事だ。まして幼馴染なら変に気を使う必要はない。
「……おい、何してんだ」
美鈴は俺の部屋をきょろきょろと興味深そうに見ている。別に初めてという訳でもないのに。
何かやましいことがあるわけではないがこうじっと見られるとあまりいい気分はしないのだ。
やり遂げた、と言ったような顔で美鈴は俺の方へ振り向く。
「いや~久しぶりの誠くんの部屋だから。じっくり見ておこうと思って」
何も言えなかった。もう言うだけ無駄だと気付いている。
一応説明すると前に美鈴が俺の部屋に入ってから2週間も経っていない。
果たして彼女にとって久しぶりの定義とは何なのだろうか。小一時間ほど問い詰めたい所である。
「で、何するかだけどさ……あれやらない?」
美鈴の指先にあるのは将棋盤だった。
確か小学生の頃に何かの拍子で買ったようなやつだった気がする。
将棋……確かにやるのは結構久しぶりだ。
ルールもまだ覚えているし、中々に今の俺にとっては絶妙なチョイスである。
しかし、それでもあまり気乗りはしない。
「いいけど……俺絶対負けると思うぞ?」
将棋と言うのは思考力がモノを言うゲームだ。
頭を使う分野において俺が美鈴に勝てる訳もない。
結果の見え透いた勝負に面白さは見いだせないだろう。
しかし俺の不満も想定内というように美鈴は話を進める。
「大丈夫。私6枚落ちでやるから」
「……マジで?」
6枚落ちと言うのは飛車角香桂を使わないこと。分かりやすく言うと自身の戦力を7割削ぐことだ。
さすがにそこまでされたら俺にも勝機は十二分にある。
ていうか、そこまでされて挑まないのは男とは言えない。別にそこに拘り持ってないけど。
「いいぜ。やってやろうじゃないか」
何にせよ、ここで逃げたらプライドが無いと言ってるようなものだ。
美鈴はうんうんと頷く。
「オッケーね……でもただ将棋やるだけじゃ味気ないよね」
将棋ディスってんのかこいつ。
いやそういう意味じゃないのは分かるが。
そんなことを思っていると美鈴は人差し指をすっと立てる。
「負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞く……ってのはどう?」