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絶対に断る

桜庭 美鈴(さくらば みすず)は端的に言ってしまえば完璧な人間だ。

容姿、性格、頭脳、身体能力、どれをとってもスキがない。

人望も厚く高校一年生にして副生徒会長を務めているというハイスペックっぷりである。

多分来年にはそのまま生徒会長に就任しているだろう。誰もそんな見え透いた未来に疑念を挟む余地はない。

何て言うか…ありきたりな表現かもしれないがオーラが違うんだ。



俺の名前は生島 誠(いくしま まこと)、さっき語った桜庭のただの幼馴染である。

誰が何と言おうとただの幼馴染である。

比べるのすら失礼なほどにどこをとっても平凡な存在だ。……いや、正確には平均一歩手前ぐらいだが…



家が近い、というのは何だかんだ交流が深まるのには当然の要因だ。

3歳の頃に引っ越した俺と同い年の女の子がすぐ近くにいたとなれば親としては仲良くさせない手はないのだろう。

結果基本的に登校はいつも二人で、幼稚園、小学校、中学、そして現在に至るまでだ。

正直思春期特有の異性間の交流が恥ずかしいという気持ちがない訳ではないが、人と対話するのが苦手な俺にとって気兼ねなく話ができる存在がいるというのはそれ以上にありがたかったりする。



さて、そんな桜庭だが今何をしているのかというと……




「だからその……お試しっていうか、いや全然軽い気持ちじゃないんだけどさ……一先ず俺と付き合ってみない?」



告白されていた。しかも校舎裏という超ベッタベタな展開。

桜庭はそれを聞いて少し困ったように眉をひそめていた。




いやまぁ正直あいつが告白されるのはそんな珍しい事でもない。

さっきも言った通りハイスペックな人間だ。相応にモテる。


ちなみに告白してるのは……多分三年の後藤先輩だ。

この人も校内ではかなりの有名人で、うちの高校のバスケ部のキャプテンを務めている。

人当たりも良く悪い噂なども特に聞かない。

おまけにルックスも良くクラスの女子たちの話題も大概は先輩の話で持ち切りだ。



……うん、お似合いだと思う。

互いに優秀な人間で、周りの人たちが見ても釣り合いが取れていると思う筈だ。

多分関わりはそこまでないんだろうが、それでも付き合うのに迷う理由はほとんどない。



だが、俺は知っている。


間違いなく桜庭はこの告白を絶対に断るだろう。



絶対、そう絶対だ。何を賭けてもいいほどに言い切れる。

別に俺は未来予知とかそういう能力を持ってるわけでもない。

たださっきも言った通り俺と桜庭の関係はそれなりに長くて、こんな光景は幾度となく見てきた。


「えっと……その、ごめんなさい。私もう……」




申し訳なさそうに言って、桜庭は頭を下げる。


あいつは一度も告白に首を縦に振ったことはない。



後藤先輩は悲しそうな顔をしながらも何とか笑顔を作っていた。


「……はは、だよね。桜庭さん凄いいい人だし、俺なんかよりずっといい彼氏もういるよね」


いやそれはない。マジで後藤先輩に勝っている点は何一つないと思っている。



ちなみに今更だが俺は別にやましい動機があってこの現場を覗いてるわけじゃない。一緒に帰る約束を取り付けられたのに一向に来ないから探していたら……という流れだ。



少しの沈黙の後、桜庭が口を開く。



「はい……その……」


俺は知っている。この先こいつが口にする言葉を。

思わず俺は頭を抱える。予測できてしまうのが物凄く悲しい。



こいつはマジでとんでもない言葉を口にしやがる。







「彼氏……っていうか、私にはもう婚約者が……」




「………………はぇ?」




重いため息が俺の口から零れる。とうとう高校でも言いやがったな。

桜庭は少し恥ずかしそうに顔を染めながらもう一度頭を下げた。

先輩は目を大きく見開いて呆気に取られている。そりゃそうだ。

誰だってそんな突飛な返事聞かされたら驚くだろう。婚約者て。



……何となく察している人もいるとは思うが…





桜庭のいう婚約者とは俺のことだ。





いやマジで。勘違いでも思い上がりでもない。むしろそれで終わる話ならどれだけいいことか。



俺はもし子供が出来たのなら歩き方よりも先に教えておきたいことがある。




くれぐれも軽率な発言はするな、と。




あいつに結婚しよう、と言ったのは確かに俺からだ。責任は俺にある。

とはいえ、とはいえだ。俺の言い分も聞いてほしい。





ろくに言葉の重大さにも気づけない幼稚園の頃の約束なんて、今も続くと思う訳ないだろ……!

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