11 Epilogue
〔目的の場所まであとちょいだぜ。準備してくれ〕
「わかった。感謝するサイモン」
サイモンの輸送ヘリに運ばれながら、俺はバレットフォックスのコックピットから応えた。普段より飛行高度が高いため、眼下に広がる朝の景色はいっそう遠くまで見通せている。
『現在時刻、九時五五分。作戦スケジュールは順調に進んでいます』
コックピットのスピーカーからアルテミスが話しかけてきた。
「そういやこの近くだったよな。あの盆地は」
『ですね。もう半年が経ちましたか』
ネオフレームの大群にアルテミスと立ち向かったあの夜。電磁砲の弾倉もミサイルも空に、ブレードの刃もこぼれながら最後の一機を倒したときには、地平から陽が昇り始めていた。俺も彼女もぎりぎりの状態で、まわりは燃えるネオフレームの残骸だらけだった。そうしてサイモンに助けてもらい、いまがある。
俺はすでに世間へ、自分があの伝説の男ルナールではないことを告げた。結果、俺に注がれる視線は別物になった。
――ネオフレーム(NF)を繰り出すI.Iに、反旗を翻す者たちの急先鋒。そしてNF六二機以上を支援ユニットとともに倒したEA乗り――
二代目ルナール。向けられる期待は変わらぬまま。もしかするといっそう複雑化したともいえる。
だとしても俺は、この狐色の機体を降りるつもりはない。戦い続ける。初代を尊敬する『もうひとりのルナール』として。
「あらためて聞くんだがアルテミス、本当によかったのか。あの機体を降りても」
『はい。わたし自らが選んだことです。それに白亜のネオフレームは技術解析のためバラバラにされました。もはや乗りようがありませんし』
彼女は『まあ心残りが一切ないと言えば嘘になりますよ』と冗談めかして答えた。
『ですがいまだに初代ルナールが誰なのか不明とは。謎のままです』
「だな、いちど会ってみたいよ」
『わたしも同意します。……そういえば、きょうはマルセル前社長が亡くなって一年でしたね』
「ああ。今回の戦いは彼に捧げたい。いつの日か、混沌の世界が終わることを信じて」
操縦桿を握りなおす。計器と兵装をチェックする。すべてが正常、不調なし。
『ひとつ良いでしょうかマスタ』アルテミスが急に尋ねてきた。
『あなたの、ほんとうの名前をわたしはまだ聞いていません。教えていただけませんか?』
「はっ、いまここでか?」俺は戸惑いつつも、答えた。慣れないことを言うのはやはり恥ずかしい。
「……ルゥ。ルゥだ」
『ルゥ? それはあだ名ではなく、ですか。なんだか可愛らしいお名前ですね』
「アルテミス……あとで文句を言う。絶対に生きて帰るぞ」
〔お取り込み中にすまんが、そろそろ目標地点なんだ。あんたの合図を待つ〕
「サイモン了解だ。こちらルナール、準備よし」
狐色の機体に乗る俺たちは、これからも戦う。自らの願いのために。
〔懸架フック切り離し開始! 空の旅を楽しんでこいよガハハ!〕
バレットフォックスを吊り下げていたワイヤつきフックがはずれ、狐色の巨躯兵器は空中に放り出される。推進器から引火用の火花が散り、激しい炎が赤い尾を引いた。
『戦闘支援を開始します。敵目標、地上のネオフレーム群三〇機』
彼方までひろがる大空を、伝説の機体は突き進んでいく。
fin.





