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10 閑話〜ふたりの進む道〜



「わが社の所属を決めてくれて感謝するぞ若造。これからよろしく」


「……それしか無いだろうが」俺はマルセルに吐き捨てた。

「俺の正体はどうか言いふらさないでくれ。……けど、なぜ俺があのルナールではないとわかった」


「それは。……()とでも言ったら怒るかね」

 マルセルは眉を寄せて笑う。


 拍子抜けな答えに俺はため息が出た。

「おい社長、ひとつだけ聞く。あんたはこのでかい会社で俺を雇って何がしたいんだ。内容によっては協力しないぞ」


 問いかけにマルセルはいちど黙る。ふたたび開口した彼の表情は、不思議と優しげだった。


「私は『世界を戻したい』。そのために会社を立ち上げ、大きくしてきた」


 ……世界を戻す。意味を(つか)めないでいると彼は続けた。


「若造、いまの世界がどうして国家を失い、わずかな企業とEA乗りが力を行使する時代になったか、知っているか。……前世紀に発明された巨躯(きょく)兵器EAはもともと国家やそれに準ずる地域が所有しているものだったと聞く」彼はそばの手すりに背中を預けた。

「EAの開発と製造は国家が選んだ企業に任せていたらしい。だが事態は変わる。開発競争が激化するなか、いまでは何世代もまえの、名前さえも忘れ去られた一社が、世界に向けてあることをした」


「秘密が暗黙のルールだったEA製造に必要なノウハウと材料、つまりレシピを(おおやけ)にしたんだ。自らとライセンス契約することを条件にな。国家と同業者のひんしゅくを買うよりも企業は契約金が増えることを望んだそうだ。飛びつく者のほとんどが下心をもっていたとしても――」


 契約金の獲得は一時的なもの。目先の利益に(くら)み他社と差をつけようとした行動は、おぞましい結果を生み出していく。

 製造ノウハウは大企業から小さな組織へ、EAは国家から個人へ……。レシピを模倣した粗悪な品でも、動くだけでそれは誰かの脅威になる。そのうえ製造が続くうちに品質は上がり、ついには既存のEAをしのぐ巨躯(きょく)が現れはじめた。


 世界にEAは(あふ)れかえり、人の欲のままに世界は壊れていった。



「私は旧Kを立ち上げるまえに、個人経営でEAのエンジニアをやっていたんだ。製造所は工場(こうば)といえるほどに小規模だったが、質の良さは自慢できた。……しかし私は身をもって思い知らされたよ。頭の片隅でわかっていたはずのEAの世界は、混沌にまみれていた。この世界は企業が生み出した。ならば戻すのも企業が筋と思った。死んだ国家の代わりを企業が務め、もとの世界にできるかぎり近づける。けれどもそんな企業はいない。だから私は決めた……」マルセルは静かに腕を組む。

「旧G側に気がかりなやつがいてな。彼の故郷は、EA同士の戦闘の巻き添えになったと聞かされた。ひとつの街を、家族や友を一日も()たず失った。その恨みはEA製造者の俺にも向けられている。彼の名は、……いや、よそう。同じ境遇の人間は世界中にいる」


「つまり、あんたはEAを、俺たちパイロットたちを統制したいわけか」


「ちょっと違う。縛りつけて収まるお前たちではないだろ?」マルセルはその(とし)に似合わない無邪気な笑顔を見せた。

「私が目指すものは、『EA乗りとともに誰もが自由に生きる世界』だ。混沌にものを言わせた自由ではなく、安寧を持続できる秩序ある自由。それはパイロットたちにも同じ。大いに矛盾しているとは思う。だがこのままいけばお前たちが戦える世界自体が無くなる。混沌の時代を見るのはもうたくさんだ」



「ずいぶんと遠い理想かもしれんが、絶対に成し遂げてみせる。若造、私に付いてくる気はあるか」

 身を預けていた手すりから離れ、俺に向き直るマルセル。


 俺は彼を見つめる。その雰囲気に、思うことがあった。

「すこし興味が湧いた。あんたが言う理想にじゃない」マルセルに言う。

「あんたも、戻れない(・・・・)んじゃないのか。俺と同じように、自分の道を変えたことに後悔しながら、それでも前へ進んでいる。違うか?」



「……。突き進むしかない。それは若造、お前も同じはずだ」

 マルセルは息を整えるように吐いたのち、「拒否の言葉がないのなら同意したとみなす」と開口した。


「さて、別件に移ろうか……。じつはバレットフォックスは各関節の部品に少々問題があってな、だから輸送ヘリの機銃でも行動不能にできたわけだ。修理をかねてそこの強化を含めた改修作業をドックでおこなっている。各ユニットや部品のスペアもわが社の製造ラインでつくり始めた。三日も()てばすべてのスペアが(そろ)うぞ」


「……あの機体は設計図さえないはずだろ。どうして弱点まで知っている。あんた何者だ?」


「私か? 私は、いちエンジニアだ。どんな立場に落ち着こうともな」

 白髪(しらが)まじりの男は白い歯を見せて、いたずらっぽく笑っていた。

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