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私の前世(後編)

※ 少し下品な話が挟まります。

 18歳。やっと旅立つことが認められた私の隣には、2歳下の弟が並んで立っていた。既に弟は私の身長を頭一つ越えており、見た目だけは一人前の男のようであった。最初から私の剣の腕前には誰も期待していなかったこと、親たちは弟が私を守れるほど大きくなるのを待っていたことが分かった時、私はブチギレた。


 大体の持ち物は自分たちで準備したつもりでいが、村の人がご厚意で譲ってくれた物も多かった。固いパン、葡萄水、塩っぱい干し肉、ナイフ、着火器などをそれぞれズタ袋に詰め込んで、メインの武器は勿論、腰から下げた模造剣(鈍器)。

 装備品は、お義姉さん特製キルトの中に小さな木のうろこを縫い込んだ布の鎧と、熊匠のおじさんオリジナル魔獣の毛皮のマントだ。

 涙もろいお義姉さんは、見送りの間、ずっと泣いていて他の村民に笑われていた。


 私と弟は、野営をしながら徒歩で冒険者ギルドの支部がある遠い町を目指した。

 町に着いてから、私たちはすぐに冒険者登録と兄弟でのパーティ登録を済ませた。


 私と弟は始めからなんなく初級クエストがこなせるだけの強さがあった。農業で培った肉体は、思った以上にタフにだったのだ。最初の昇格の時、私たちは刃がついた本物の剣をはじめて購入した。軽くてキラキラしててよく切れる、しばらくはそれがお気に入りの一振りとなった。しかし、残念なことに剣技のスキルは大幅に出遅れていた。冒険者はその実力に応じて、初級→低級→中級→上級→超級というランクに分かれていたが、初級から低級に上がるのは2ヶ月でも、そこから中級になるまでには私も弟も酷く苦労したものだ。


 22歳。冒険者4年目。弟は、私より先に中級冒険者に上がる条件を満たし、私とのパーティーを解消した。


 それから2週間後、弟の紹介で私は新しいパーティに加わった。女冒険者だけで構成されている、通称・ガールズとか、連れションとか呼ばれているタイプのパーティである。メンバーは期待の新人ギャル2人と、私と同じ中級になれずに燻っていたベテラン低級冒険者が1人。1月前までもう1人別のメンバーもいたそうだが、突然のお輿入れで離脱したため、新メンバーを募集していたそうだ。私も低級冒険者のソロは収入面で問題があったので、渡りに船であった。


 連れションパーティと言うのは、聞くからに酷い名前ではあるがアノセカイでは常識だった。連れションをする女同士は生理周期が同じになるという現象があったのだ。日本でもたまに迷信や都市伝説的に囁かれてはいるが前世ではマジでガチだった。

 生理周期が揃っていればガールズパーティは討伐も計画的に進められるし、まとまった休みも取りやすい。というのは、月の障りの魔力は甘いと言われており、生理中にフィールドに出ると大型の魔物を惹き寄せてしまうらしく危険なのだ。一方で、アノセカイの生理前症候群では筋力が二倍に上昇し、丸2日は眠らなくても平気になるので討伐には最適である。それで、ガールズパーティはパーティ全体の生理周期を揃えるためいつも連れションするのである。

 はじめは男冒険者たちがバカにして使い始めた言葉だったが、後に素面でバーサーカーに近い状態に変貌できる女たちに対する畏怖の意味も込められるようになった。


 ベテラン仲間の彼女は、私より女性冒険者の常識に精通しており、色んな事を教えてくれた。とくに驚いたのはピーファネルという女性向け立ちション専用グッズの存在だ。確かに魔物が跋扈するフィールドでお尻丸出しにして用を足すのはどうかと思っていたのだ。ところがなんとピーファネルを使うと、ズボンの前ボタンを外すだけで屋外でも簡単に用が足せてしまうのだ。

 はじめてピーファネルを買った日は記念だったので、大自然のど真ん中で4人並んで立ちションした。あまりにもアホ臭くて、その後、みんなして爆笑した。


 パーティ全員が私の親友になった。


 24歳。パーティ全員が中級冒険者に昇格。

 仲間から教えて貰った火魔法で私は更に強くなった。


 27歳。肉体的ピークを越える。

 下り坂に入っても、技術と知識と火魔法の練度を上げてカバー。私はまだまだ強くなれる感じがした。


 29歳。上級冒険者の一歩手前と言われるようになったが、残念ながら己の限界が見えてしまった。大跳躍をした後の膝がきしむ。このペースで討伐を続けていれば、私の体は近い内に故障する。パーティの中でも天才肌だった若い2人は、弟の所属するパーティに移籍して上級冒険者に昇格した。私はもう1人のベテラン相棒と一緒に、新人育成に力を入れていく事にした。


 同年。酒場で相席になった35歳のタレ目のいかした男性冒険者と盛り上がる。といかあれは完全に私と相棒の絡み酒だったかもしれない。

 女性冒険者は20代中盤で肉体のピークを迎えると2―3年で下り坂に入り、戦士職の場合、32歳までに殆ど引退する。一方、男性冒険者は20代中盤でピークを迎えても、上手くやれば30代中盤まで下り坂に入らず、戦士職の引退の目安はだいたい39歳である。

 荒くれ男たちの中で、この先も自分たちやっていけると思ってたのに。結局、私たちを馬鹿にした男たちの言うとおりになってしまったのがなんとも悔しくてならない。魔法使いじゃない以上、私たちは、これ以上強くなれない。と、そこからは同じ愚痴をグルグルグルグル……男性冒険者は文句も言わずにその愚痴に延々と付き合ってくれた。

 私たちは日付が変わる前にお足を机に置いて店を出た。

 ベテランの相棒はタレ目のいかした中年冒険者と一緒に飲み直すといって、夜の町に消えていった。その日のことがきっかけで、相棒は後に帰らぬ人となる。あの日、なぜ相棒を無理にでも部屋に連れて帰らなかったのかと悔やまれてならない。

 

 30歳。最近、ずっと体調の悪い日が続いていたベテランの相棒が、妊娠と婚約を発表。お相手はあの日のいかしたタレ目男。冒険者を引退し、パーティにとっては「帰らぬ人」となった。めでたいやら、腹が立たしいやら。泣くのも殴るのも違う気がしたので、その時は一発だけデコピンをお見舞いして分かれた。

 後日、女の子が生まれたと分かったので、出産祝いに可愛いおべべとハート型のピーファネルを送ってやった。ガハハ


 私は1人になった。


 31歳。実家にはじめて帰省した。父はとっくに亡くなっており、次兄夫婦は白髪の目立つ頭になっていた。姪っ子は家に来た頃のお義姉さんそっくりのべっぴんに育っていた。他の子ども達もみんな元気そうで安心した。


 32歳。冒険者引退は選ばず、フィールドに骨を埋めることにした。自ら申し出て、ライセンスを中級から低級に降格し、初心冒険者のフォローを主な仕事にした。


 34歳。平均寿命40歳と言われているこの世界で、そこまで悪くないエンディングだったと思う。油断した新人をかばって命を落としたのだ。


 命は育まれては消えていく。自分も漏れずにその輪の中にいただけだった。人生を無意味に過ごさなかったのだから、満足であった。

【初級】ひよっこ。子どもでもなれる。仮免許。元々強い人でも研修があるので最低2ヶ月は卒業できない。


【低級】冒険者全体としては、さほど強くない。しかし、弱くてもなれないのでバカにならない。卒業には最低でも1年の実績が必要。


【低級のベテラン】低級昇格後、4~5年以上経過してる冒険者をいう。才能無しの意味で使われがち。


【中級】低級に上がる力があれば、いずれ誰でも辿りつけるとされる真の一人前のライセンス。実力のピンキリ感がすごい。制度的には最短1年で上級に昇格できる。


【中級のベテラン】中級に昇格後、大きな肉体の故障も無く4年以上働いている人を言う。通常、先輩への尊敬の意味で使われ、揶揄するような意味合いは無い。


【上級】冒険者としての成功者扱いになるライセンス。大きい仕事を任せて貰えるし、国からの依頼も受ける。騎士爵に頭を下げなくても良いぐらいには偉い。一握りの成功者と呼ぶには人口が多い。二握りぐらいは存在している。実力のピンキリ感はすごい。


【超級】冒険者としてのライセンスは上級と変わらないが、人々から英雄として見られる。公的な会では、子爵以上伯爵未満ぐらいの発言力があり、国より英雄に相応しい実績ありと認められれば簡単に爵位も受けられる。スーパー強い人。一つの時代に3人以上存在したことは無い。

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