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私の前世(前編)

 前世での私のスキルは、農業と、牧畜と、剣術に、火魔法だ。

 死ぬ時は冒険者だったが、元は貧しい農家の出自だった。


 前世の私には、7人の兄弟がいたが、長兄はイノチダメシという流行病で4歳の時に亡くなり、次女も2歳の時、肺炎で亡くなっていた。大人になれたのは、次兄、長女姉、三男兄、三女私、四男弟の5人だけだった。

 とは言え、信じられないかも知れないが、あの世界では7人中5人が大人になるまで育つなんて自慢して良いぐらい丈夫な家族だった。


 ところで前世には世界以外の世界を表す言葉や、自分が住んでいる星を表す言葉が無かったので、あの世界のことを私はアノセカイと呼んでいる。


 私が8歳の頃、村の中で比較的器量の良かった当時14歳の長女が、村長の息子に嫁として貰われていった。村長の息子は村で一番頼りになると評判の男だったので、両親は安心して送り出した。

 村長の家族は村で唯一読み書きが出来たので、長女も嫁いですぐに読み書きを覚えた。姉はその年の農閑期には、実家の家族一人一人に、家族の名前を書いた木札をプレゼントしてくれた。

 家族は暇を見つけては、その木札を真似して、土の上に自分の名前を書いた。一番最初に自分の名前を見ないで書けるようになったのは母だった。それから家族は次々に自分のサインが出来るようになっていったが、私だけは家族の中で一番名前が長く、その次の農閑期が来るまで名前が全部書けなかった。


 9歳の頃、当時13歳となったばかりの三男が、隣の家に婿養子として貰われていった。その家には8歳以下の娘が3人いたが、息子が1人もおらず、母親も亡くしたばかりで人手が足りていなかった。三男はよく食べるせいか歳の割には背が高く、足りない男手を埋めるのにはちょうど良かったのだろう。婿養子とは言ったが子どもなので結婚はせず、実質ただの養子である。ただし将来3人のどの義妹でも選んで結婚できる権利を貰った感じになる。

 結局、彼はこの4年後に、その家の長女を幼嫁おさなよめとして貰い受けた。大人になってから分かった事だが、幼嫁というのはその村特有の制度だった。初潮が来て間もない娘を妻に貰った場合、結婚して1年が経過する迄はその晩の子作り行為のイエス・ノーを妻の両親にも問わなくてはいけないという微妙な制度である。ただし、人目に着かない場所であれば、子作りと呼ぶに至らないまでの睦み合いは制限なく許されるようになる。毎回、恥ずかしい質問のために養父さんに頭を下げに行くよりは、結婚自体を1年我慢すればいいだけの話なのだが、兄もお年頃だったのだろう。


 10歳の頃、我が家の事実上の長子である18歳の次兄が隣村から来た赤毛の未亡人を嫁に貰った。

 集落によっては未亡人は縁起が悪いと忌み嫌わるような国だった事から、次兄はお見合いもしないまま隣村に邪魔な者を押しつけられた形だ。家の前に連れてこられた女性は真っ黒い質素なドレスを身に纏い、頭には麻袋のようなものを被せられていた。隣村の連中に乱暴に扱われる彼女をただ見ていることはできず、兄も両親も簡単に新しい家族として彼女を家の中に招き入れた。


 彼女が麻袋をとった瞬間はあまりにも印象的で、TVなんて無い世界ながらもスローモーション映像を見たような感覚がした。宝石のように美しい髪が放たれ、その合間から物憂げな顔の美女が現れた。


 幸いなことに次兄は一目で“お義姉さん”に夢中になった。


 磨かれた玉の肌に、輝く赤毛、凹凸のはっきりした見事なプロポーション。

 村内にいてはまるで見たことが無い垢抜けた美女で、気立ても良く、私や弟まで一瞬で魅了してしまった。次兄にとっても、幼い四男にとっても、彼女は初恋だったに違いない。私たちの村には、宝石のような妻を貰ったと村中で自慢して歩く兄を不幸な男だという者は誰一人いなかった。

 それから2年ほど経っても、次兄夫妻には子どもができなかった。姉は忌み嫁の自分のせいだと落ちこんでいたが、私にも私の家族にも忌み嫁の意味が分からない。ただ両親はそんな彼女に子どもなんて必要ないから自分たちの幸せだけを考えなさいとよくよく言い聞かせていた。……それから暫くしてお義姉さんの妊娠が発覚する。


 私が13歳になった頃、お義姉さんは長女を出産した。姪っ子は髪色こそお義姉さんに似なかったものの、お義姉さんそっくりの美しい顔をしていた。母は孫娘の顔を見て、半年間、可愛がり倒してから天命を全うした。享年39歳だった。父はこの年、畑と家畜の全てを次兄に譲った。


 15歳。前回の出産から2年経って、お義姉さんは双子の男児を出産した。お義姉さんはよっぽど出産でくたびれたのか、1人目の時以上に泣いて喜んでいた。母がもういなかったので、お義姉さんを手伝うために私はお産婆さんや嫁いだ姉の所によく子育てのアドバイスを貰いに行った。父も母の分まで孫を可愛がった。

 それからお義姉さんは簡単な単語なら読み書きできたので、子育ての合間にその国のアルファベットにあたるものを一通りと、簡単な単語を少し教えてくれた。この後、実姉から教わったサインと、お義姉さんが教えてくれたABCが冒険者になってから本当に役に立つとは思ってもいなかった。

沢山修正しながら書いています。

ごめんなさいませ。

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