プロローグ①
初投稿です!何にもわかってませんがよろしくお願いします!
「ふぁ〜よく寝た〜」
カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しくてを擦る。
「さてと今日も仕込みますか!」
とりあえず顔を洗い目を覚ます。
今日も一日が始まる。
「今日の日替わりは何にしようかなぁ〜」
寝癖のついた髪を帽子に押し込みながら冷蔵庫を開ける。
中古で買ったけどそこそこいい値段の業務用冷蔵庫だ。
多少の傷はあったが、なかなかどうして使い始めてみると愛着がわくもんだ。
取手を優しく引っ張りドアを開ける。
ひんやりとした冷気がさらに目を覚まさせる。
「うーん、トマトがそろそろ食べ頃かなぁ…」
「よし!今日の日替わりはオムライスにしよう!」
ここはしがない大衆食堂。
一日わずかな昼食代しか貰えないサラリーマン達やあまり生活に余裕のない人達の為にほとんど利益の無い価格で料理を提供している。
「スープはオニオンスープを…」
俺の名前は斎藤幸男。
42歳、独身
趣味は料理
小さい頃に作った料理を食べた母親の笑顔をみて料理を作る事の喜びを知った。
それ以来、いろんな料理を学ぶことが楽しくなり様々な料理を覚えた。
祖母の手料理に始まりおふくろの味もマスターした。
もちろん和洋中などいろんなジャンルをマスターする為に、喫茶店や定食屋でバイトをしながら専門学校に通いホテルに就職。
そこの厨房の下っ端から始まりさらに経験を積み重ねて料理長を任される様になり、また初心から始める為に海外の三つ星レストランに転職。その後、様々レストランやホテルを渡り歩き40歳の頃に日本に小さな食堂を開店した。
そのまま海外で頑張れば超有名三つ星レストランの料理長の地位も確約されていたが、ある出来事がきっかけできっぱり断って帰ってきた。
それは2年前の秋の終わり、街路樹の葉も落ち少し肌寒くなって来た頃。
様々な調理場で修行を重ねて来た俺は当時世界最高峰と呼ばれていた超有名三つ星レストランの副料理長をやっていた。
新作の料理を考えていた俺は、閉店の調理場で1人試行錯誤を繰り返していた。
「もう少し味に深みが欲しいよなぁ…」
完成まであと一歩。
「ガシャン!」
裏口の方から何か物音がした。
「誰だ!」
俺は勢いよく裏口を開けた。
「ひっ…」
そこで目に飛び込んで来たのは、店の生ゴミが入ったゴミ箱を覗くこむ小さな少年だった。
「ご、ごめんなさい!」
煤けた髪の毛に痩けた頬ボロボロのシャツに穴の開いた靴。
誰がどう見ても普通の家庭の子供ではないだろう。ましてや親がいるかすら怪しい。
「ちゃ、ちゃんと片付けるから見逃してください!」
明らかに店の料理人とわかる俺を見てひどく怯えているのだろう。
警察に突き出されるんじゃないだろうか。いや、それどころか殴られるんじゃないだろうか。
いろんな恐怖と戦いながら少年は必死に謝っていた。
「お前、ちゃんと飯食ってんのか?」
俺は何を言ってるんだろう。どう見ても毎日の食事さえろくに食べてないであろう少年に誰が見てもわかる事を聞いてしまった。
「えっ、えっと…」
「すまんすまん、俺も少し動揺してたみたいだ」
突然の思いもよらぬ質問に驚く少年。
「とりあえずちょっと待っとけ」
「は、はい!」
混乱したままの少年をそのままに厨房に戻る。
「さて、何が作れるかな」
厨房に置かせてもらっている自分用の冷蔵庫。
主に新メニューを考える時に使ったり店の料理で使わなかった食材の切れ端などを保管している。
超有名三つ星レストランなのでもちろん食材も値段も超高級。
料理に使われる食材も全て使うような事はなく、その食材の1番美味しい所だけ使い後は捨てるような店だった。
俺がこの店に来た当初は、その事実に驚きあまりの勿体無さに料理長に頼んで破棄する部分をもらえる事になった。
料理長や他の同僚達には変な目で見られたが関係ない。
こっちはちょっと貧乏な一般家庭に生まれた日本人だ。
そんな勿体無い事は許せない。
それ以来、捨てる食材をもらっては料理を作り自分の腕を磨き尚且つ食費を浮かす。
まさに一石二鳥だった。
話はそれたが今冷蔵庫にあるのはさまざまな野菜や肉の切れ端、産みたての卵しか使わない店の今日余った卵がある。
「あの感じじゃしばらくまともには食ってないだろうしなぁ…」
「栄養満点で消化に良いもの…」
「久しぶりにおじやでも作るか」
そう考えながら朝炊いた米を炊飯器から出してくる。
どこに行っても必ず米だけは切らさないようにしてきた。
日本人の魂だと思う。
「さぁちゃちゃっと作るか」
鍋に水を張り火にかける。冷蔵庫に保管してある出汁を少し足し細かく切った野菜と鶏肉を入れそこにご飯を入れる。
後は火が通るまでぐつぐつと煮るだけ。
最後に溶き卵と少しの塩と醤油で味を整えて完成だ。
「そういえばあの状況で待って言われて待つ奴なんていないよな」
まぁいなかったら自分の晩飯にすればいいと思いながら裏口を開けた。
「そこら辺に座って待ってりゃよかったのに」
少年は俺が厨房に戻ったときのままでそこに立ち尽くしていた。
「腹減ってんだろ?熱いから気をつけて食えよ」
俺は自分用に用意していたお皿におじやを移して少年に渡した。
「で、でも僕お金なんて持ってませんし…」
消え入りそうな声で話す少年。
ただ目だけは温かく湯気を上げるお皿から離れない様だった。
「んなもんいらねぇよ、元々は捨てるもんだった食材だ。お前が食ってやった方が食材だって喜ぶさ」
「でもやっぱり…」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと食っちまえよ」
俺が強引にスプーンを渡すとさっきまでの少年はどこへやら別人のように料理をかきこむ。
「おい、まだ熱いんだから落ち着いて食えよ!火傷するぞ?」
俺の声が聞こえてないのかわからないがすごい勢いで料理が消えていく。
「しゃあねえなぁ。」
そう言いながら再び厨房に入り、コップに水を汲み戻ってくる。
「ほれ、そんな勢いよく食ったら喉詰まるだろ?
水飲めよ」
少年はやっとこっちに気付いたようで慌ててコップを受け取った。
「す、すいません!何日もろくに食べてなくて」
少年は申し訳なさそうに謝った。
「そりゃそうなるだろうが落ち着いて食えよ。誰も取りゃしないんだから」
「はい…すいませんでした」
その後は落ち着いて食べていた少年だったが半分程食べた所で急に食べるのをやめてしまった。
「どうした?勢いよく食べて胃がびっくりしたのか?まさかもう腹いっぱいって事はないよな?」
まさか半分も残るとは思っておらず少年に何かあったのか聞いた。
「もしかして口に合わなかったか?確かに俺の故郷の味付けだがそんなに不味いことはないはずだぞ?栄養満点だし消化にもいいはずなんだが」
「違うんです!こんなに美味しい物初めて食べて確かにびっくりはしましたけど…」
「じゃあどうしたって言うんだ?」
俺が問いただすと少年は申し訳なさそうに答えた。
「実は他にも僕と同じような子供達がいてお腹を空かしてるんです。だから許してもらえるならこの残りを持って帰ってもいいですか?」
なんと話を聞いてみたら他にも少年と同じような子供達がいるとの事。
「なるほどなぁ。お前の気持ちは分かった。だがそれはお前が食ってしまえ」
「でもそれじゃあ…」
「心配すんなって。ちゃんとそいつらの分も作ってやるよ」
「そんな!何もお返しできる物もありませんよ!」
慌てた様に少年が立ち上がる。
「なんも取りゃしねぇよ。俺の勝手だから気にすんな」
「でも…」
「これも俺の料理の修行みたいなもんさ。お前らにはそれに付き合ってもらったと思えばいい」
「わかったらそれ食って待ってろ」
少年の返事も聞かず裏口から厨房に入る。
「材料はまだまだあるからな」
米を研ぎ炊飯器で炊く。
その間に食材を切り、鍋で煮ていく。
そうして出来上がった頃には少年も食べ終わり俺が出てくるのを待っていた。
「おう、待たせたな。これ少し重いけど持って帰れそうか?」
少年が持つには少し大きめの鍋に入れた料理を渡す。
「はい!これくらいなら大丈夫です!本当にありがとうございます!」
少年はすごく嬉しそうに何度もお礼を言いながら頭を下げていた。
「いいって事よ。あと、悪いがその鍋は大事な鍋なんだ。食べ終わったらちゃんと返しに来てくれ」
「はい!それくらいならお安い御用です!昼間は来ると迷惑がかかるので明日のこの時間にもってきますね!」
「おう。悪いけどよろしく頼むわ!気をつけて帰れよ?」
少年は何度も何度もお辞儀しながら薄暗く街の中へ消えていった。
「ふぁ〜。さてと、俺も飯食って帰ってねるか」
俺は自分用に簡単な料理を作り厨房を片付けて店を後にした。