僕の世界で救世主だった僕が異世界転移で勇者になる、これ灼然
ガキの頃救世主だった僕が、異世界転移して勇者になる話。
@短編 その32
pixivで描いてるメシ友に出てくる彼が!なにやってんのよ!って話です。
「勇者様!この世界をお救いください!!」
「は?」
今さっきまで僕はデスクで見積もりを算出してたんだ。
田中室長、厳しいから・・・
「どうするよ!!明日までに出さないといけないんだけど?田中さんに怒られる!!」
いやもっと怖いのは、本山さんだ。今回は桜と僕で組んでいる。
出張も行くから、もう睨まれてる・・・誰も手出ししませんから!!
僕には可愛い彼女、ちゃんといますから!!
まあ、僕の事情はとりあえず置いとくか・・・
ぐるりと見渡せば、大昔のヨーロッパっぽい衣装に、よくゲームで見る騎士や貴族が着ているような格好。
ほほーーう。
これ、異世界転移ってやつかな?
まあ、僕のガキの頃にやってたことを思えば、救って欲しい!!って言われても仕方がない。
僕はガキの頃、元の世界を救ったんだぜ?救世主様だったんだ。
もちろん一人ではない。仲間と一緒に戦ったんだ。
それも昔の事、今は普通にサラリーマンしているんだけどね?
今でも当時使えた超能力はバリバリ使える。
この周りの奴らが襲い掛かったとして、全員瞬殺することも可能だ。
「救うって、魔王とか倒すの?」
「おお!!さすが勇者様、ご存知で!」
うん。だいたい転移ってそういうことさせるじゃん?
まあ本とかの受け売りだけどね。
ああいう本とかマンガとかに、異世界転移とか転生とかってのがテーマになるけど、誰かが体験して遺伝子レベルで記憶が残っていると、僕は思うんだ。神隠しとかもそれかな?その逆もあるんじゃないかな。
まあそんな考察はいいとして、魔王を倒せばいいんだな?
「魔王ってどこにいるのさ」
神官が地図を持ってきたので、見ると赤い印を認める。
「ここ?」
「はい、そうです」
「この地図、貸して」
僕は地図さえあればテレポートが出来るようになった。
昔は一度行かないといけなかったんだけど、テレポートは便利な技だからね。
ちょいちょい使って工夫していたら、出来るようになっちゃったんだよなぁ〜。
「さて。魔王ってどんな悪いことをしたんだい?お前らの都合で殺すって事なら・お前らを殺すよ?」
「え!!!」
周りにいたおっさんや騎士達が驚きの声を上げた。
無条件で引き受けないといけない呪いでもあるんでしょうかねぇ?
「そりゃそうでしょ。お前らが悪で、あっちは割と善良だったら、僕が嫌だ。とっとと事情を聞かせてもらおうか」
「無礼な・・!勇者でも、許さん!!」
騎士が僕に剣を抜いて向かってきたので、僕は技を繰り出した。
「・・・」
麻痺系の技で、騎士達は動けなくした。神官やおっさん達はビビっているようだ。
「いい?僕は前の世界でも救世主だったんだ。本気でやれば、この国くらい一瞬で消せるよ。それと」
恋人に不評な、残酷な笑みを披露した。
「僕はお前らの心も読めるんだ。どうする?言えないなら、読ませてもらうぞ」
すると神官達はへなへなと床に崩れて座り込んでしまった。
「なに?それって、魔王はそれほど悪いんじゃないって意味?僕を使って楽する気だったの?」
僕は神官を空中に浮かせ、足を捻った。神官がけたたましい絶叫を上げるが、まだまだ。
「僕を利用してやろうとか。初めてだよ、そんな卑怯な奴ら。『あいつ』といい勝負だ。で」
てくてくとおっさん達の側に寄ると、あらら。いい年の、多分偉い人なんだろうに、お漏らしとか。
「とっとと言いな。僕に何をさせたかったか。そして、魔王がどんな酷い事をしてきたか。もしも」
一人のおっさんの顔を、髪を引っ掴んで僕に向ける。ああ、震えちゃって。
「嘘言ったら、あの人と同じように足を捻るぞ」
で。
のろのろしつつ、吃りつつ話した内容は最低だった。
魔王が住んでいる根城には、膨大な宝石鉱山があるのだと。
魔石を作ることの出来る弱いモンスターが住んでいるそうだ。
自然も豊かで、温泉も湧く。
はいはい、お前らの方が欲の皮突っ張ってやがる。
「正しく嘘を言わないからといって、最低具合はちっともかわらんな!さあ、喰らえ」
僕はおっさん達、そして騎士達の足を捻ってやった。
「そうそう、神官。あんたは治せるんだっけ?任す」
僕も回復系、使えるんだよね。
「ライフアップ」
神官の足だけ直し、地図を確認。
「テレポート」
昔は建物の中にいたら出来なかったけど、これも改良したのでばっちりさ。
うん。
この世界の地図は製図が荒い。
近くには来たんだろうけど、座標がずれている。
「さて、ここはどこかな?」
まず食料と水の確保だな。
村とか、人がいる場所は・・・・・意識解放。そして、この地を広範囲で探る・・・
「おし!こっちか」
ガキの頃よりも、僕の力は強くなっているのだ。良い事なのか悪い事なのか・・。
テレポートして跳ぶと、村があった。
さあて困った、お金が無いぞ・・・
「魔物でも倒すか」
第一村人発見。
魔物が出るなら片付けるというと、怪しむものの、依頼してくれた。
側の森を歩くと、すぐ出た。
でかいなぁ・・・昔こんな奴、出たよな。デザートなんちゃら、だっけ?
「てやっ!」
昔は技名を言ったんだが、今はさすがに恥ずかしい。掛け声と共に、技が炸裂。
7匹いた魔物を倒した。テレポート移動範囲に獲物を置き、村へ跳んだ。
村人はかなり驚いたようだが、代金はきちんと払ってくれた。
食料と水筒とナイフとカバンを買い、てくてくと山道を征く。
途中豚の化け物が出たので、一番弱い火の術で焼いた。肉が美味しく焼ける程度だ。
前は使えなかったが、ちょっと試したら使えるようになった。キャンプでは重宝される。
「塩が欲しいなぁ・・・」
魔王というのが気になったので、強引に連れてこられたのには腹を立てているが、まあ会ってみよう。
ちょっと興味がある。
本当にこの世界にとって悪なら、懲らしめてやるか程度。
だって、僕の方が強い。
日が暮れて、辺りは闇に。
この世界は電灯が無い。しかも民家の無い山奥だ。
でもご安心を。
僕は夜目が利く。ガキの頃も真っ暗なトンネルを平気で歩いたんだから。
でもそろそろ疲れたな・・・
樹の根本に腰掛け、暫し休眠・・・
(ハジメ、どこ?)
おや。可愛い彼女が夢に現れたぞ?
ごめん、今出張中なんだ。
(今日帰るって約束してたのに)
うん、ごめん。
少し長い出張になるかも。
(いつもそう・・もう、ハジメなんか知らない。彼の方が私の側にいてくれる)
え?
(あなたは私と仕事、どっちを取るの?)
えっと・・・彼って、誰だよ。
そいつは君に婚約者がいるって知ってて、君に声を掛けたんだ。
そして、君も僕がいながらそいつと会ってたんだ。
僕が仕事を頑張るのは、君と結婚する資金を稼ぐ為だって言ったよね?
僕の頑張りは、分かってもらえなかったんだ。
僕だって、君に会いたいよ。
でも君は、手軽に会えるそいつの方が良いんだ?
この会社に入るの、大変だった。そして、本当に仕事が面白いんだ。
・・・君は理解してくれていなかったんだね?
僕は君も仕事もどっちも取る・・・つもりだった。
お手軽なそいつの側にいれば良い。
(ハジメ・・・)
悲しそうな声だ。でももういい。
今は疲れているんだ。話してさらに疲れた。
消えてくれ。
彼女の気配が消えた。
あーあ。浮気の末に振られたか。でも彼女はそういうタチだっけ?
遠距離ってやっぱダメなんだろうか。まいったな・・・ん?違和感?
これは・・・精神攻撃?
「やりやがったな!!」
僕は機敏に体を起こし、目の前の魔物を術で吹っ飛ばした。
目の前にドロドロの死体。どんな生き物かはもう分からない。
精神攻撃する魔物がいたか・・・流石にこれは効いた・・・
でも彼女がこう思ってても、おかしく無い程僕らは会っていない。
前会ったのは、彼女の誕生日・・・3ヶ月前だ。遠距離恋愛だからな。
彼女は外国人だから・・・テレポートで会いにいけないくらい忙しく、疲れていたから。
「こんな攻撃をする魔物の親分だからな・・注意しよう」
目が覚めてしまい、二度寝が出来なくて、仕方なしに歩き出した。
夜明けの光が辺りを照らす頃、何かの建物を発見。
どうやら狩猟小屋のようだ。
「ここで寝させてもらおう」
スーツは動きにくいなぁ・・・次の街、服屋あるかな・・・
横になった途端、眠気が・・・
目を覚まし、外を見ると太陽は真上。お昼時のようだ。
さっさとパンと飲み物をとり、再び歩き出す。
2時間ほどで、小さな村を発見した。立ち寄ってみると、
「ここが最後の村。この先には無いぞ」
第一村人が言うので、パンと飲み物を追加、動きやすい服も購入してスーツは脱いだ。
「この先に、魔王がいるのか?」
すると村人は黙った。
「魔王はどんなやつか、知ってるか?」
「魔王様は・・素晴らしい方だ。人間よりも私達に良くしてくれる」
「そうか。あとは本人に聞く」
「え!!まさか、魔王様の城に行かれるので?」
「行くよ」
「おひとりで?」
「大丈夫。僕は救世主だから」
「で、でも武器も持たずに?」
武器か。
昔持っていた・・・この世界にあるか?この世界、あのスポーツあるか?
アレに似た武器・・・金棒、かな?トゲがあるけど・・・
いや、いらんわ。邪魔だわ。
「で。根城ってどこ?」
「ここから、ほら。城の先っぽが見えるでしょう?でもここからだと歩いて2日近くかかりますよ。うねうね急勾配ですから」
「ふむ。じゃあ、飛ぶかな」
「へっ?」
僕は体を浮かせ、滑り出すように空を征く。
昔出来なかった事をやってみた。出来るもんだなぁ・・・
ああ、空からだと早いなぁ。でも結構体力使うんだよね、これ。
手前で降りて、回復しながら進もう。
途中でも魔物が出てくるので、捻じり伏せて先を征くと、ようやく城の門が見えた。
「たのもーーーう!!」
この挨拶、日本的な城には合うけど、西洋風の城に合わないかな?
部下らしき人間型の魔物が出てきた。手には武器を携えている。
「僕に刃向かわなければ、攻撃しないから安心してくれ。魔王さん、いる?話したいんだけど」
「お前は誰だ」
「あ、忘れてた。なんとかって国で召喚された異世界転移者、根州という。魔王を倒せと言われたが、倒すほど悪い事をしたのか確認したい。してないようだったら、召喚したなんちゃらって国をぶっ潰すつもりだ」
これを聞いた魔族はギョッとした顔をしている。そんなに驚くことか?
魔王を倒してくれと召喚して、大変な思いをさせる召喚側が正しいと鵜呑みにする方がおかしい。
確認・・・報連相も大事だが、確認を徹底しろ。田中室長の言辞だ。あなたは正しい。
何も無礼なこともなく、僕は中に通され、魔王と会うことが出来た。
血のような赤い長髪、白目部分が薄い緑、瞳が白。キウイのような目だ、と思った。
「異世界転移者と聞いた。我はキウイフル、魔族を統べる王だ」
「(あ、やっぱりキウイだ)・・・根州といいます。いきなり聞きますが、魔王さんは人間に対し、酷い事をしていませんよね。どちらかというと、人間の方が、宝石鉱山や便利生物を欲しくていちゃもんつけているんですよね?」
「概ねその通りだ。だが、知能の無いモンスターは被害を出している。だが、あれは魔族の支配はしていない生物なのだ。魔王は魔族を管轄するが、あのような無法な生き物まで魔族扱いは正直参っている」
「人間側が魔物とモンスターをごっちゃにしている、と」
「そうだ」
「ふむ。では、もっと細分化し、これは魔族、これはただの害獣と選別しましょう」
「それはそうだが・・やっているのだが、人間側がな」
そして魔物部下がワゴンを押してこちらに来た。
ワゴンには厚い本が何冊も乗っている。ちゃんとした魔王さんじゃん!!
「今まで作ったモンスター図鑑だ。これで分別出来ないような知能の王族や宰相でどうかと思うが」
きれいな色まで塗った図鑑で、分かりやすい。特徴や倒し方まで書いてあるのだ。
王族、字が読めないのかな?
「分かりました。魔王側の方が概ね正しい、と」
「失礼いたします!!魔王様!!大変です!!人間側が攻撃をしてきました!!」
魔族部下が謁見の間に駆け込んできた。
「なんだと!・・・こんな時に・・!」
魔王様は顔が真っ青だ。魔族部下が何か進言している。
「サンゴールド様を退去させねば・・」
「だが今は動かせぬ」
どうやら魔王さんの奥方が妊娠中の様子。体調を崩している模様。こんな時に攻めるとは。
あの業突く張りどもめ、足捻るだけでは済まさねーーぞ・・
僕は魔王さんに大声で告げる。
「魔王さん。これは人間側の馬鹿がやったことです。僕にお任せして、奥方のところに行ってください」
「根州殿?」
「これでも、前の世界で救世主、やってたんですよ」
僕は窓から飛び降り、下で蠢く人間軍に向かって・・・
「この世界では、同族が悪とはね!!」
麻痺を掛け、物理・・腕を捻って肩を外した。足を痛めると逃げていけないからな。
そして状態異常の技で、纏めて戦えないようにして、指揮官のところまでたどり着くと、
「よくも優しい魔王を僕に倒せと言ったね?僕は正しい方の味方しかしない」
衝撃波を叩き込み、指揮官と副官をズタズタにして、兵達に叫んだ。
「強欲で残酷な人間ども!!僕は異世界から来た勇者だ!!だがお前達人間を助けない!!魔王に仇なす者は、容赦しないぞ!!それでもいいなら、これを見ろ!!」
僕は最強魔法を唱えた。これはガキの頃一緒に戦った仲間の技だけど、出来るかな〜と練習したら出来るようになった。さあ、喰らえ!!
流星の光が昼間でも輝いて、雨のように降り、目の前にある山に次々当たり、爆音が続き・・
朦々とした煙が晴れた後には、山は無くなり、大きくえぐられた山肌だけになっていた。
「これを、お前達の街に落とす!!抵抗すれば、すぐにでも落とす!!さあ、どうする!ここに落としたっていいんだぞ?僕は防御出来る技を持っているからね」
ここにいた兵は腰を抜かす者、叫び声を上げて逃げる者、泣き叫ぶ者、大騒ぎの大混乱となった。
その混乱に乗じて、僕に矢を射る者がいた。
ははは!そういうことする奴らだと思ったよ!
僕の防御も昔はショボかったんだけど、出来るかな〜以下略。いちばん強い物が使えるようになった。
こん、と跳ね返る矢。
「誰だい?」
俺は矢を射た奴の方向を振り返る。
そして、技を放つ。脳天に当たって、鮮血が飛び散る。
「愚かな奴がまだいるようだね。・・・ノヴァス、という国のやつか!僕はここで、その国へ技が出せるんだよ」
天高く、人差し指を立てて腕を伸ばす。
「王城目掛けて!飛べ、流星!!!!」
そしてここからでも見れた。
日の光にも負けない輝きの星々が、一点目指して飛んでいく。
ノヴァスの兵が、悲鳴を上げる中、落ちた星々によって激しい爆発が起き、煙が立ち上る。
「愚かな男のせいで、何人死んだかな?さあ、僕に抵抗してみろよ。次はそこに落としてやる」
兵は皆、戦意喪失となり、とぼとぼと帰って行く。
魔王さんが僕の側に来て、お礼を言う。
「ありがとう。だが・・・」
「やりすぎ?本当に優しいね、魔王さんは。貴方が須く治めればいいのに」
「そのような事を・・・魔族は人数も少ない。統治するのは困難だ」
「そっかー」
魔王の根城を出て、僕は召喚された場所に戻ると、みんな怖がっていた。
「こんな危険人物、とっとと戻したらどうだい?あ、失敗したら、僕全力でここに戻ってコテンパンにする」
と、脅しておいた。
「遅いぞ、なにをしている」
あ。本山さんだ。帰ってこれた・・時計、3時じゃん!!あれから4時間経ってるじゃん!!み、見積もり!
「ユッキーが全部やってくれたんですよ。お礼はユッキーにお願いします」
ああ〜ん、なんて優しい上司と部下なんでしょう。
とりあえず、言い訳は腹痛という事で。
「お前調子が悪いんだろうから、俺が出張、ちさと行く。ありがたがれ」
彼女と出張ですか。いいですねぇ、僕もいい加減彼女のところに行って、可愛がり倒さなくちゃ。
こっちの世界では、4時間の旅でした。もう呼ぶんじゃ無いぞ・・・
あの世界、あの後魔王さん頑張って欲しいなぁ・・・
その日の仕事終わりすぐ、テレポートで彼女の家に行くと、ちょうど男と出掛けるところだった。
阻止出来たが、僕の事情、彼女に対しての想いなど、言いたい事をきっちりと伝えた。
彼女が言うには、男と出掛けるのは今日が初めてだった、寂しかった、仕事を頑張っているのはわかっているので、『私と仕事、どっちが大事』なんてことは聞かないが、もう少しかまって欲しい。そう言われた。
仕事で忙しい、彼女は海外にいるとはいえ、構わなさすぎたことは確かだ。大いに反省しよう。
僕はテレポートも出来るんだからね。
てなかんじで、今は彼女とベッドでドンペリですわ。
飲んだくれて、ゴロン。
あーー、疲れた・・・色々気が付く事が出来たから、まあ・・・いっか。
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
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